誕生日が、12月25日。

 一族が、この里によって滅ぼされたとされるのは11月の初め。

 どう考えても、計算が合わない。
 そう、あいつが生まれた時には、既に一族は滅ぼされていたという事になるのだ。


「計算が合わねぇ……」

 ずっと考えていた事が思わず口から出てしまう。

『奈良のガキ、何の計算が合わないんだ?』

 俺の呟きを聞いて、『昼』が質問してくる。助かったと言えば、この場にその呟きの原因となった人物が居ない事だろう。

「いや、大した事じゃねぇよ……」

 だが、質問された事に俺は言葉を濁す。
 これが質問しても良い事なのか、自分でも判断しかねるからな……。

 複雑な表情をしてしまった俺に、『昼』がフッと笑う気配を感じて顔を上げる。

『大方、の出生でも考えていたのだろう』

 そして、ズバリと言われた言葉に、俺は言葉に詰まった。
 こいつ等心まで読めるのかよ??

『心が読める訳が無いだろう。だが、今のお前は顔に書いてあったぞ。珍しくな』

 ニッと馬鹿にしたように笑ってのそれに、思わず眉間に皺が寄る。
 こう言う言い方しか出来ねぇのか、こいつは!

「で、分かったんなら、質問に答えてくれるのかよ」

 内心面白くなくって、不機嫌な態度そのままに相手の様子を伺う。

『別に答えても言いが、お前忘れているだろう。一族は、術者にしてオレ達の主。
 あいつを守る事こそが最後の主の願いだった。その時点でオレ達ととの契約は終了されるはずだったんだ。
 だけど、オレ達は、あいつをずっと見守ってきて愛しいと思うようになった、だから今ココに居る』

 優しい表情で言われた言葉に、改めて思う。
 本当にこの猫の姿をした妖は、あいつが大切なのだと。分かっていた事なのに、それを改めて実感させられた。

『オレ達ととの間に契約は存在しない。オレ達の意志で今ここに居るんだからな』

 説明された事に、小さく頷く。
 確かに、とこいつ等との間には、主従関係は感じられない。もう家族と言っても良いだろう。
 そう思うのは、間違っていない。それは、こいつ等があいつの事を本気で大切だと思っているから……。

『だから、お前や器のガキがあいつを傷付けると言うのなら、オレ達はお前達を許さない』

 真剣に見詰めてくる赤い瞳。それは、嘘偽りなどない本当の気持ちだろう。

「……あいつ等を傷付けるつもりはねぇよ」
『その言葉を信じているぞ、奈良のガキ』

 面倒臭い事が大嫌いな俺が、この場所に居るのはあいつ等を俺自身が大切だと思っているからだ。
 偽りばかりのこの里で、異端とされるあいつ等が何よりも大切で守りたいと思える存在だから……。

『お前は、オレ達が認めた奴だからな。もっとも、の奴はお前と器のガキに関しての思い入れは相当なものだが…』

 小さくため息をついて言われた言葉に、驚いて思わず相手を見てしまう。
 確かに、はナルトの事を大切にしているのは誰よりも知っているつもりだ。だが、俺もその中に入ると言うのに、正直言って驚かされた。

「俺も、入るのかよ……」

 信じられないと言うように呟けば、目の前のネコが笑う。

『知らなかったのか?あいつは、お前や器のガキが傷付けられた時だけは、本気で怒るぞ』

 楽しそうに言われた言葉に、またしても耳を疑う。

 俺は、一度だって、あいつが本気で怒っているのを見た事がない。
 めんどくせぇが、それだけは断言できる。

「ありえねぇ……」

 どんな事があっても、困ったように笑っているのが印象的で、泣いているのを見たのだって、あの時ナルトを傷付けた事に対しての涙しか見た事がない。

 だからこそ、信じられないのだ。
 確かに、自分を傷付けても『泣く』と言っていたのは記憶に新しい事だが、それでも信じられないと思うのは止められない。

『なんだ、信じないのか?』

 呆れたように問い掛けられた事に、何も返す事が出来ない。
 見た事がないから信じられない。それが、自分の正直な気持ち。

『『夜』が、懐いているのが理由だと言えば、信じるか?』
「なんで、アレが懐いてるのが、理由になんだよ」
『あいつは、オレ以上にを大切に思っている。それを証拠に、あいつが傷付いた時のアレのキレ方は尋常じゃないからな』

 確かに、こいつが言うようにあの黒猫は、あいつが傷付いた時、この里さえも滅ぼす事が出来るのではないだろうかと言うほどのキレ方をする。
 自分も一度だけしか見た事はないが、その時はかなり大変だった。

 しかし、それが理由だと言われても、納得など出来るはずもない。

「まぁ、めんどくせぇが、アレのキレ方は、尋常じゃねぇのは認める。だがな、それが理由つー意味が分かんねぇよ」
『お前の頭は飾りか何かか?』

 俺がため息をついてそう言えば、呆れたような目で盛大なため息をつき『昼』が口を開く。

が認めているからこそ、オレ達はお前等が傍にいる事を許しているんだ。そうでなければ、力ずくで排除しているぞ』

 ……言われて確かに納得してしまった。

 そうだ確かに、その通りだ。
 こいつ等なら、俺達をの傍から排除する事など容易い事だろう。
 だが、それをが望んでいないからこそ実行されていないのだ。

 納得して、思わず笑ってしまう。

 本当に、簡単な事。
 彼等は、どんな時でもあいつの事を考えている。

「確かに、馬鹿な質問だな……」
『今更だな』

 思わず自分の愚かさを口にすれば、馬鹿にしたように言葉が返されてしまう。
 それに俺は苦笑を零した。