「ただいま。あれ?は?」
何時ものように戻ってきた家に、主の姿が見当たらない事に気が付いて俺はその場に居た2匹へと問い掛けた。
『ナル、お帰り……はね、今お仕事中だよ』
俺の問い掛けに返事を返してくれたのは、黒猫の姿をしている『夜』。何時も思うんだけど、猫が湯のみ持って寛いでいる姿はなんて言うのか不思議なモノを見ている気分だ。
「仕事?って、任務?」
そんな事を考えながら、答えてくれた『夜』に更に疑問を投げ掛ける。
まだ時間は、お昼。
今日、バカカシを無理矢理早く来させたので、俺達の任務は予定よりもずっと早く終わった。
でも、達の10班は、今日は休みだったと思うんだけど……。
それを知った俺は、後でじーちゃんに散々文句を言って、バカカシを無理矢理早く来させたのだから……。
そうすると、暗部の仕事って事になるんだけど、こんな時間に任務になるなんて、あんまり無い。だって、暗部の仕事は暗殺が多いから……。
『違うよ。だから、お仕事だよ』
そこまで考えた俺に、『夜』がニッコリ笑顔で同じ言葉を繰り返す。
さっきから、『夜』は任務では無く仕事って言ってるってば?えっと、それって任務じゃなくって、本当に仕事って事で、それって……。
「一族の仕事?」
『他に仕事と言って何があるんだ、器のガキ』
考え付いたそれに思わず声を上げて問い掛ければ、呆れたように白猫の姿をしている『昼』が返してくる。
いや、確かに気付かなかった俺が悪いのかもしれないんだけど、その言い方は酷いんじゃ……。
って、相手が『昼』だから、仕方ないとは思うんだけど……。
「でも、任務にしても一族の仕事にしても、『昼』が一緒に行動してないなんて初めてだし……」
ずっと考えていた違和感。それは、仕事だと言われたのに、『昼』がそこで寛いでいるから可笑しいのだ。
だって、任務にしても一族の仕事にしても、『夜』は何時も留守番だけど『昼』は必ずと行動を共にしているのだから……。
『今回、オレの手は必要ない仕事だ。場所もこの森の中だからな』
「えっ?それって、この森で何か変な妖でも出たのか!?」
お茶を飲みながら言われたその言葉に、俺は複雑な表情を『昼』へと向ける。
妖が出たのに、なんで『昼』の手は必要ないなんて言うんだ??まさかまたこの2匹よりも強い妖が相手になってるんじゃ……。
でも、その割には、2匹とも落ち着いている。
『妖が出た訳じゃない。勘違いするな』
『心配しなくっても、今回ののお仕事は結界の強化だよ。3ヶ月に一度強化しないとここに迷い込んでくる人も居るからね』
考え込んだ俺に、『昼』が呆れたように口を開く。
いや、だって普通はそう思うって……。
ついこの間、そう言う事があったばっかりなのだから……。
俺の勘違いは、『夜』が仕事の内容を説明してくれた事で漸く安心する事が出来た。
それなら、2匹が寛いでいるのも納得出来る。
『ナルだったら、行っても問題ないと思うよ』
ホッとした俺に、『夜』が提案とばかりに口を開く。
俺は一瞬言われた事が分からなくって首を傾げた。
『だからね。結界の強化。アレは見学するのお勧めするよ』
ニコニコと楽しそうに続けられたそれに、俺は一瞬だけ考える。
『夜』が勧めるって事は、また舞系って事なのだろうか?確かに、の舞が、見られるのはかなり嬉しい。
それは、すっごく見たいと思うんだけど、一つだけ問題がある。
「でも、俺には、の気配が読めないし……」
情けないけど、それは本当の事。
『心配しなくっても、森の中に居ればアレの声が聞えるはずだ』
だからその問題を口にすれば、昼があっさりと言葉を返してくれた。
「それって……」
だけど、言われた言葉の意味が分からずに思わず首を傾げてしまう。
『あのね、結界の強化、呪歌に織り交ぜた物だから、の声が聞えると思うよ』
意味が分からない俺に、『夜』が続けて説明してくれる。
それって、の歌が聞けるって事だよなぁ……。
言われた言葉に納得して、好奇心の方が勝ってそのままを探す為に家を出る。
そんな俺を『夜』が笑って見送ってくれたのは別の話。
そして、シカマルが居ない事も楽しそうに話してくれた。
どうやら、ヨシノさんの命令で家の留守番をさせられる事になったらしい。
まぁ、何時もリョクトの家に居るんだから、偶には家族を大事にしなきゃだよな、うん。
そう、折角シカマルも居ないんだから、を独り占めできるチャンスをこのまま逃す手はない。
「えっと、二人の話だと声が聞えるって言ってたよなぁ……でも、この森、そんなに小さくないんだけど……」
森に行けば分かると言われたけど、そんなに簡単に分かる訳が無い。だって、この森は魔の森と言われていて、人を迷わせるほどには確実に広いのだ。
だからと言って、当てもなく探すのは時間の無駄だし、見つけた時にはもう全部終わってましたでは余りにも情けない。
どうしたものかと、考え込んだ俺の耳にかすかな人の声が聞えて顔を上げる。
「こっちから聞える……そっか、『昼』達が言ってたのはこの声の事だな」
本当にかすかだけど聞えてくるその声を便りに、俺は急いでその声のする方へと足を進めた。
足を進めれば進めるほど、当たり前だけど声ははっきりと聞えてくる。
そして、はっきりとその声が聞えてきた時、それはまるで、子守唄のように聞えた。
風に流れてくるそれは、優しくって静かな森の中に響き渡る。
その歌われている言葉は何を言っているのか分からないけれど、聞いていて耳障りじゃない言葉。
思わずその声に耳を傾けてしまった俺の足が、その場で止まる。
「ナルト?」
声が止まっても、余韻に浸っていた俺は初めて名前を呼ばれた事で我に返った。
「気配はしているのに、姿を見せないからどうしたのかと思ってた。そんな所で、どうしたんだ?」
我を取り戻した俺に、が心配そうに問い掛けてくる。
その問い掛けに、俺の顔が赤くなるのが自分でも分かった。
だって、の声に聞き入っていたんだと思ったら、素直に返事をする事なんて出来ない。
「えっと、邪魔しちゃ悪いかなぁって……は、結界の強化終わったのか?」
自分の顔が赤くなるのが分かって俺は慌ててから顔を逸らして当り障りの無い返事を返し、更に質問で返す。
「おう、今回も無事に終了。それじゃ、このまま帰って『夜』が入れてくれたお茶にしようぜ」
は、そんな俺に何も言わずに素直に返事を返してくれる。それに少しだけホッとして、頷いて返した。
「それじゃ、一緒に帰ろう」
そして、続けて言われた言葉に今度はしっかりと顔を上げて、笑顔で頷いて返す。
それは、何時もので、あの歌のような綺麗な声はもう聞けないけど、それでも俺を安心させてくれる声だった。
聞えてきた声が綺麗だったのだとそう言えば、は少しだけ困ったような表情で否定するだろう。
だけど俺には、呪歌なんかじゃなく、まるで子守唄のように聞えたのだ。
でも、そんな事は教えてやらない。
そう、は勿論、シカマルにだって言うもんか。
だって、それはその声を聞いた人間にしか分からないと思うから……。