本当は、分かってる。
望んだって無駄な事もあるのだと……。
遠くに見えるその金色を見て、小さくため息をついてしまう。
今日も何時ものように元気に振舞っているその顔には、明らかに殴られた痕や、服はドロで汚れているのが見て取れる。
分かっている、この里が過ちを犯している事は誰よりも……。
そう、誰よりも分かっているのに、自分はこうして遠くから見詰める事だけしか出来ない。
『……』
そっと名前を呼ばれて振り返る。
そこには、自分の家族とも言える存在が、心配そうな瞳の色を見せながら自分を見詰めていた。
「……大丈夫…まだ、俺は大丈夫だよ……」
見詰めてくる瞳に、俺はそっと言葉を返す。
まるで、自分自身に言い聞かせるように……。
例え、この里全てに対して偽りばかりだと知っていても、真実をこの瞳に映す事が出来たとしても、自分にはこの里を変える事など出来ないのだとその身を持って理解している。
自分と言う存在は、この里には存在しないモノ。
「何時になったら、本当に笑ってくれるんだろう……」
何時だって、どんな時だってドベのフリして笑顔を絶やさない姿を見せられていても、知っていから、何時だってその笑顔が偽りのものだと言う事を…。
心が、泣いていると言う事を……。
彼の相棒と言う立場にある者も居る。だけど、そんな相手にさえ彼は心から信じてなど居ないのだ。
「……何時になったら、心を開いてくれるかなぁ……」
『器のガキの事か?』
ポツリと呟いた俺の言葉に、『昼』の声が掛けられる。
心配そうに見詰めてくる『夜』と『昼』に俺は困ったように笑って小さく頷いた。
「うん、ナルトとの事……『昼』だから、器って言うのは駄目だぞ!」
『なら、里人のように『狐付』と呼んだ方がいいのか?』
そして、『昼』の言葉を訂正させようと言った言葉に、『昼』が呆れたように俺を見る。
「……お前、分かってて言ってるだろう……」
言われた言葉に、盛大にため息をつけば、当然と言うような顔で返された。
確かに、『昼』からすれば、九尾を封印されている器と言う言葉に間違いなどない。
里人達のように、九尾と同一視してないだけマシなのかもしれないが、それでも、ナルトには、ちゃんと名前があるのだ。
「…そう言えば、シカマルの事も、奈良のガキって言ってるよなぁ…面倒じゃねぇの?」
『慣れているから、面倒じゃない。それに、オレから言わせてもらえば、どちらもガキと言う事に違いはないぞ』
「……『夜』は、ちゃんと呼んでるのになぁ……」
『シカもナルも、イイ子だからね』
ニコニコと嬉しそうに言われた言葉に、思わず苦笑してしまう。
そう言うお前が一番『イイ子』だよなぁなんて思っても、絶対に口には出せない。
『、器のガキが帰るようだぞ』
そして、言われた言葉に視線をナルトへと戻す。
殴られた怪我は、九尾が癒したのだろう。それに対して、少しだけホッとした。
「…俺が行って傷を治したい…本当は、傷付けられる前に守りたい……」
『その内、望む世界が来るよ』
呟きに慰めるように言われた言葉。
きっと、ナルトは俺という存在を知らないだろう。
俺とナルトが出会う事は、きっとこの里にとっては、許されない事だ。
だけど、望む事は許されるだろうか?
『時間だ、任務に行くぞ』
「……そうだな…『夜』何時ものように、留守番頼む」
『うん、気を付けて行って来てね』
見送られて、笑顔で頷く。
家へと戻っていく気配を感じて、これ以上あいつが傷付かない事を祈る。
それだけしか、自分には出来ないから……。
「……行こう…」
だから、今はこの里が変わる為に、少しでも前えと進んでいく。
何時か、彼の傍に居られる事を願いながら……。