間違いなく目の前に居るのは、俺のよく知っている人のはずなのに
この時の俺には全く知らない人のように見えた。
「?」
家に戻ってもその姿が見当たらなくって、『夜』に言われて森の中をその姿を探して歩く。
そして、小さな物音が聞えて、そちらへと足を向ける。
そこは、開けた場所になっていて、その調度真中辺りに目的の人を見付ける事が出来た。
『違うぞ、それでは認められない』
だが、聞えて来た厳しい声に、俺はその足を止める。
あの『昼』がを相手に、あんな厳しい声を出す事が信じられない。
基本的に、の傍に居る2匹の猫(と言ってもいいのだろうか?)は、本当にに甘い。
もう、溺愛していると言ってもいいくらいに、の事を大切にしている事を知っている。
「悪い……もう一度!」
『昼』の言葉に素直に謝罪して、構える。
そして、流れるような動きで、舞う。
その優雅な動きに、俺は暫く見せられてしまった。
『違う!そこは、激しくだ!』
だがそれも、また厳しい声で言われたそれによって、現実に引き戻されてしまう。
「だぁ〜っ!何でこんなに面倒くさいんだよ!!」
怒られた事で、が非難の言葉を口にする。
えっと、これって俺は声を掛けてもいいんだろうか?
「ナルト、そこに居るんだろう?出て来ても問題ないぞ」
真剣に何かの稽古をしているを前に、どうしたものかと考えていた俺へと声が掛けられる。
は、俺に背中を見せているのに、やっぱり気付かれていたんだと思うと、何だか情けなくなってしまう。
これでも、この里の暗部でトップだって言うのに……。
俺って、そんなに気配消すの下手なんだろうか??
『器のガキ。『夜』に言われてきたのだろう?なら、調度休憩の時間だ気にするな』
何だか、自信を無くしていた俺に、続けて『昼』も声を掛けてくる。
休憩って、ああ、だから『夜』は、俺にこんなものを持たせたんだ。
「えっと、それじゃ、お邪魔します……」
何だか、その雰囲気を邪魔してしまったような気がして、思わず恐る恐る達が居る方へと移動する。
「これ、達に渡してくれって……」
そして、『夜』から持たされたバスケットをへと差し出す。
「サンキュ、調度喉が乾いてたんだよなぁ」
俺が差し出したバスケットを受け取って、蓋を開けると水筒を取り出して口にする。
「えっと、聞いてもいい?」
「おう、何だ?」
『昼』も同じようにから飲み物を貰うとそれで喉を潤しているようだ。
そんな二人を見ながら、俺はへと問い掛ければ、さらに聞き返されてしまう。
「えっと、何の稽古なんだ?」
一瞬困ってしまったけど、思わず直球で質問してしまう。
「ああ、これなぁ……雷の神へ捧げる舞の稽古……あいつ等って、異形の神と言われるような奴だから、その舞がめちゃくちゃ面倒なんだよなぁ……俺は、これだけは苦手で、舞う前は必ず『昼』に扱かれてるんだ」
しまったと思った俺なんて、全く気にしないで、がサラリと説明してくれた。
「雷の神?えっと、それって、この間の……」
「いや、全く関係ないとは言えないけど、それぞれを司る神って言うのは、一人だけじゃないんだ。まぁ、階級や位の違いはあるみたいだけど、人間界の祠とかに住み着いている神は、殆どが位の低い神だな」
「そうなんだ……」
俺の疑問にが説明してくれた内容に思わず感心してしまう。
神って言っても、やっぱり一人じゃないんだ……いや、何となくそう言う話は聞いてたんだけど……。
「ナルトは、これから時間あるか?一度流してみるから、見学してく?」
一人で納得していた俺に、が人心地付いたのだろう、持っていた水筒を籠に戻してタオルで汗を拭きながら質問してきた。
「邪魔になるんじゃ…」
それに、チラリと『昼』の方を見てしまうのは、こちらが先生と言う立場だからだろうか。
『気にするな。見学人が居た方がこいつも遣り甲斐があるだろうからな』
「おう!無様な舞いは見せられねぇから、気合入る」
『昼』はまだお茶を飲みながら、それでも全く気にしないと言うように返事を返してくる。それに続いて、もガッツポーズまで見せて頷いた。
「なら、見学させてもらう」
まぁ、多分『夜』もそのつもりで俺にこの荷物を届けさせたのだろう。
もっとも、内心では自分が持って行きたいと思っていただろうけど……。
『それじゃ、俺も見てるだけだから、通しでやってみろ』
「了解!」
俺が返事を返した事で短い休憩が終了して、が気合を入れて立ち上がるとゆっくりと俺達から離れて行く。
『まったく、毎年この舞にだけは手をやかされるからな、器のガキも気になるところがあれば、注意してやってくれ』
そんなを見ていた俺に、『昼』がため息をつきながら声を掛けてくる。
って、俺にはの舞に注意するなんて、そんな事出来る訳ないのに……。
でも、の舞が見られる事に、正直喜んでしまう。だって、の舞は綺麗で優しいから……。
と、思っていたのに、見せられた舞は優しさの欠片も見受けられなかった。
何時もの舞が静の動きだとすると、この舞は動だ。
激しく荒々しい動きは、見ている者を圧倒するほどの迫力を持っている。
『漸くまともに踊れるようになったようだな』
ポツリと呟かれた『昼』の言葉にハッと我に返った。
「今の感じでバッチリか?」
舞終わったが、肩で息をしながら声を掛けてくる。
『上等だ。器のガキが見ていたのは正解だったな。予定よりも早く勘を取り戻したようだ』
「だぁ〜!本気でこの舞は辛い………毎年踊ってるつーのに、勘を取り戻すのに一日掛かっちまう」
『昼』から合格の言葉を貰った瞬間、が疲れて座り込む。
確かに、この舞は普通の舞よりも短いと言っても、ずっと動きっぱなしの激しい動きで疲れてしまうだろう。
10分ぐらいの短い舞だとしても……。
『器のガキ、に飲み物を持っていってやれ』
疲れ切っているを心配するように、『昼』が俺に声を掛けてくる。
言われて、慌てて俺は水筒をが座り込んでいる場所まで持っていった。って、言っても数歩離れているだけだけど……。
「サンキュ、ナルト。で、どうだった?」
俺から水筒を受け取って、が礼を言い質問してくる。
「………凄い迫力だった。でも、綺麗だった」
そう、これだけは言えるのだ。
何時もの舞が綺麗で優しいものだと言えるなら、今日見せられた舞は荒々しいけど綺麗で、また惹き付けられる舞だと言う事。
「サンキュ。ナルトに気に入ってもらえたんなら、雷の神にも許してもらえるかな……」
「って、俺が基準でいいのか?」
「大丈夫。だって、『昼』からも合格貰ったし、何とかなるだろう」
って、気楽に言うだけど、確かに毎年舞っているんだから、大丈夫だろう。
それに、が舞うんだから……。
「雷の神は、先も言ったけど、異形の神と言われてるから、本番はナルトには見せられないけど、練習に付き合ってくれて有難うな」
ふんわりと俺の大好きな笑顔を見せて、が礼を言う。
だけど、俺としてはこっちからお礼を言いたいぐらいだ。
だって、綺麗なの踊りを見ることが出来たんだから……。
だからこそ、ちょっとだけ異形の神に感謝した。
が練習しなきゃいけない舞を必要としている事に……。