「あんたが、四代目?」
目の前に見えたその姿に、思わず問い掛けてしまう。
自分の大切な相手をそのまま大きくしたようなその人物は、何度も過去の幻影に現れた人。
『驚いた。オレの姿が見えるのかい?』
「まぁ、俺は一族だからな……」
一族は、『払い屋』にして『術者』。
『そうか、君がの……ごめん……』
俺の言葉に、一瞬泣きそうな程青の瞳が歪められる。
「何で、あんたが謝るんだよ……ああ、過去のことなら話さなくっても良いぜ。全部知ってるからな」
俺は、全部を知っているから、だからこそ、目の前の相手が自分に謝る理由が分からない。
そして、本当に謝る相手は、俺じゃないはずだ。
『…君は、真実の瞳を持っているんだね……なら、知ってる筈だよ、あの時……』
「知ってる。だけど、あんたに謝って欲しくなんてねぇよ。今も、死神の腹の中で地獄のような苦しみを味わっているあんたには……」
俺の言葉に、目の前の相手が寂しそうな笑顔を見せる。
四代目が何を代償として、この里を守ったのかと言う事を、誰よりも自分自身が知っているからこそ、謝罪の言葉など聞きたくなどない。
「それに、あんたが本当に謝らなきゃいけねぇ相手は、俺じゃねぇだろう」
『………そうだな。だけど、オレは君に許されない事をしてしまった。ナル君には、顔向けも出来ない酷い事をしたんだ……』
今にも泣き出すんじゃねぇかってほどの哀愁を漂わせる相手に、思わず苦笑を零してしまう。
「だから、俺の事は気にすんな!まぁ、ナルトには、顔向けできないってのは否定しねぇ。でも、俺は感謝してるよ。九尾をナルトに封印してくれた事」
『やぱり、オレは、ナル君に顔向け出来ないんだね』
ズーンと俺の言葉に落ち込む姿に、本当にこいつが四代目だったのかと言う事を疑いたくなってしまった。
確かに、姿形は間違いなく四代目だと言うのに……。
「まぁ、何にしても、今日はナルトに逢いに来たんだろう?逢ってこないのかよ」
『……ナル君に顔向け出来ないって、言ったばかりなのに……』
小さくため息をついて言えば、恨めしいと言う瞳で見られる。それに俺は、苦笑を零した。
「まぁ、ナルトには、あんたの姿は見えないだろうからな。陰から見るんなら別にいいんじゃねぇの」
サラリと言えば、驚いたように俺を見詰めてくる青い瞳。
本当、姿がナルトと同じだから冷たく出来ないんだよなぁ……。俺って、ナルトに甘いし……。
「それとも、やっぱり逢って話がしてぇ?」
驚いて見詰めてくる瞳に、問い掛ける。それに対して、首がちぎれるんじゃねぇのかってくらい勢い良く横へと振られた。
『そんな贅沢な事は、思ってないよ』
「ならちゃんと会いに行かなきゃじゃん。12年も掛かって漸くここに戻って来られたんだぜ、後悔したくはねぇんだろう?」
『……君は、本当に何でも知ってるんだね……』
「『真実の瞳』を持つ者だからな」
『…そうだね……どれだけ時間を費やしたとしても、ココに戻って来られた事に、感謝するよ……君に逢えて、本当に良かった。ナル君をこれからも頼むね』
嬉しそうな言葉と供に、スーっとその姿が消えていく。
最後に見せられた笑顔と言葉に、俺も満足げに頷いた。
今日から、お盆。
3日間だけ、ナルトの傍に彼の姿を見る事が出来るだろう。
彼にとって、それは漸く許された時間だろうから……。
―おまけ―
「、後ろに何か居るのか?」
ここ数日、俺の少し後ろを嬉しそうに見ているに気付いて問い掛ける。俺が、の視線と同じ方を見ても、普通に景色が見えるだけで、が嬉しそうに笑う理由が分からない。
「何でもねぇって!」
俺の問い掛けに、はただ笑いながら首を振るだけ。だけど、その視線は嬉しそうに後ろを見ている。
「めんどくせぇが、今はお盆だし、四代目でも帰って来てんじゃねぇの」
そんな俺達の遣り取りを黙って聞いていたシカマルが、欠伸をしながら漏らした言葉に驚いて俺はもう一度自分の後ろを見た。
勿論、俺の瞳には、誰の姿も見付けられない。
「?」
だからその言葉が本当かどうか知る為に、へと視線を向ければ、少しだけ困ったような表情。
「ナルトは、四代目…親父さんの事、許せない?」
そして、心配そうに尋ねられた事に、一瞬考えてしまう。
確かに小さい頃には、本気で恨んだ事は否めない。だけど、今こうしてシカマルやに出会えた事に対して、心から感謝してるのだ。
それは、親父である四代目が、俺の腹に九尾を封印してくれたからこそ出会えたのだから……。
俺は、の質問に、首を振って返す。
俺の反応に、フワリとが笑う。俺の大好きな笑顔。
「それは、12年掛かって漸くこの場所に戻ってきた四代目にとって、すっごく嬉しい答えだ」
嬉しそうに笑いながら言われた言葉に、俺は信じられないと言う様にを見た。
「四代目も、納得して帰る事が出来るよ」
優しい笑顔と共に言われた言葉に、今日がお盆の最終日だという事を思い出す。
「俺は、本当はあんたの事をずっと恨んでた。だけど、やシカマルに会えたから、出会う事が出来たから、今は、本当に感謝してるから!」
俺には見えないけど、が言うなら絶対に嘘はないと、見えない相手へと言葉を伝える。
「ナルト、『ありがとう』だって……」
俺が何も見えない相手を見詰めて居れば、少しだけ寂しそうにが言葉を伝えてくれた。
何時だって、大切な事を教えてくれるのは、目の前の人。
本当なら気付く事の出来ない相手の事も教えてくれた。
だから、素直に感謝する事が出来るのだ。
俺と言う存在をこの世に残してくれた事に……。
「俺も、有難う……」