「なぁ、カカシ……」
2チームに別れての鬼ごっこと言う名の演習が始まって直ぐに気が付いた事に、俺は直ぐ傍にいたカカシへと声を掛けた。
「何よ、アスマちゃん」
何時ものようにイチャパラ片手に様子を伺っているカカシは、ふざけた調子で俺の名を呼ぶ。
「お前、読めるか?」
そんな人を馬鹿にしたような呼び掛けを無視して、問い掛ける。注意しても、無駄な事は身をもって体験しているからな。
俺の問い掛けに、カカシは持っていたイチャパラで元からマスクに覆われている口元を隠した。
「………まぁ、見事だわなぁ…」
そして返されたのは、ため息混じりの賛辞の言葉。
その言葉からも分かるように、俺だけでなくカカシにもその気配が感じられないと言う事だ。
「気配もなけりゃ、チャクラも感じる事が出来ない。この俺でさえ見つけられない」
ため息交じりに言われたその言葉に、俺は驚いて瞳を見開きカカシを見る。
「チャクラもだと!」
「……気配の消し方は、暗部クラスの実力って所だろうねぇ……」
素直に誉められたその言葉に、俺は信じられないと言うように辺りを見回した。
情けない話だが、今もその存在を見つけられないのが正直な所だ。
確かに、俺達上忍にその気配を悟らせられないと言うのは、暗部クラスというのも頷ける。…だが、下手すりゃ下忍にもならなかったかもしれねぇガキにそんな実力があるなんて思いもしなかったてぇのが正直な所だ。
たく、どんな人生送ってやがったんだよ、あのガキは。
「なぁんだ、アスマは彼の実力を知ってた訳じゃないんだ……」
「……頭がいいのは知ってるが、実力に関しては、全く聞いてねぇよ……体が弱くって、実技は休みが多かったみてぇだからな」
パタンと持っていた本を閉じて、俺に問い掛けてきたカカシ相手に、ため息をつきながら正直に返事を返す。
知ってりゃこんなに驚く訳ねぇだろう。
「な〜るほどねぇ……こんな実力持ってるんなら、眠らせてしまうのは惜しいわなぁ……」
素直に感心しているカカシに、俺も同じように頷く。
確かに、あの頭脳もそうだが、これほどの実力がある子供をそのまま眠らせてしまうのは惜しいだろう。
そうじゃなくっても、この里は忍者不足だからな……。
「この勝負、どっちが勝つか賭けるか?」
「アスマちゃん、教師としてそれってどうよ……それに、おなじチームに賭けると賭けになんないでしょうが」
ニヤリと笑って提案すれば、呆れたようにカカシがため息をつく。
そして言われた言葉は、賭けにならないと言うもの。
それは、どっちが勝つか分かっていると言うのだろう。もっとも、俺もカカシと同じ意見だが……。
どちらが勝つか分かっているからこそ、賭けを持ちかけたのだ。
「まぁ、今は大人しく成り行きを見守るしかないでしょう」
ため息をつきながら言われたカカシの言葉に、俺は今まで吸えなかったタバコに火を点けた。
「だな……」
タバコの煙を肺に流し込むように吸い込んで、その煙をため息と一緒に出す。
カカシの合図とともに気配が分散する。
始まった鬼ごっこと言う名の演習は、2チームに別れての潰し合い。
2チームに別け、それぞれのチームの額当てを多く集めた方が勝ち。制限時間は、2時間。もしくは全部の額当てを手に入れた時点で終了。
分散した瞬間、の気配は完全に消えて今では何処に居るのか探し出せない。
下忍の演習で、こんなに完璧な気配の消し方、大丈夫なのだろうか……。
「よぉ、ウスラトンカチ」
の気配を探していた俺の後ろから、感じた気配に、振り返る。
勿論、その事にはしっかりと気が付いていた。ドベの俺が分かる訳には行かないから、驚いた振り。
「な、何で、サスケがここに居るんだってばよ!」
「忍びなら、気配ぐらい察知しやがれ!まぁ、弱い奴から先に片付けて行くってのは、楽でいいけどな」
馬鹿にしたように笑うサスケに俺は、相手を睨みつけた。
サスケの手が俺の額当てへと伸びてくる。それを避けるのは簡単だけど、どう対処するかを考えて居た俺は目の前に居る人物に瞳を見開いた。
「そっか、そっちは弱い相手からなんだね。それじゃ、ボク達は、その逆にしようか」
声と同時に、既にその手にはサスケの額宛が持たれている。
「!」
「なっ!」
俺が驚いてその名前を呼べば、サスケも漸くそれに気付いて驚いて振り返る。そして、自分の額当てが既に取られている事に気が付いたようだ。
「油断大敵だよ。うちは君。ナルト!」
ニッコリと笑顔で言われた言葉にサスケが悔しそうにを睨むが、それを全く気にした様子も見せずにが俺の名前を呼んで、持っていたサスケの額当てを投げて寄越す。
「まずは、一人だね」
笑顔で言われた言葉に、俺は額当てを受け取って、複雑な表情を見せた。
――、そんなに力見せて大丈夫なのか?
だから、思わず心話で話し掛ける。
そんな俺に、から返されたのは意外な言葉だった。
――力見せるって、俺は気配隠してるだけで、力なんて見せてないぞ。
不思議そうに言われたの言葉に、俺は思わず首を傾げる。
そう言えば、確かに気配は全く感じられないけど、それ以外は何もしてないのは本当の事。
サスケの後ろに立っていたのも、俺の直ぐ傍に居たからだだし、額当てを取るにしても、ただ近付いてそっと外しただけだ。確かに、気配を消す事以外の力は何も見せていない。
「……気配消すのって、すげぇ大事なんだってばね……」
だから思わず感心したように呟いてしまった。
相手に気付かれない事が、これほどのまで有利になるのだと改めて思い知らされた気分だ。
シカマルが、戦力になると言っていた意味を今更ながらに理解して、俺は小さくため息をつく。どうして、そんな簡単な事にも気付かなかったのか、本当に自分のお間抜けさに頭を抱えたくなった。
それが分かった後は、簡単に俺達のチームが勝利を収める事に成功する。
もっとも、一番活躍したのはだけだったが……。
「思ったよりも、早かったな。で、どうだった?」
バカカシが相変わらず如何わしい本を片手にサクラへと問い掛ける。
「……気配が読めない事がこんなに脅威になるなんて思ってませんでした……」
バカカシの言葉に、サクラが素直に感想を述べた。まぁ、俺も同じ事を思ったんだから当然だろう。
悔しそうなサクラやサスケと反対に、チョウジは何も考えていないのか菓子を片手に何時もと全く変わりが見えない。
「まぁ、今回シカマルのチームが圧勝だったな。それにしてもだ、お前の気配の消し方は完璧だったぞ」
アスマはそんな二人に苦笑を零しながら感心したようにへと声を掛ける。
「……そう、なのですか?ただ何時ものように自然体で居ただけなのですが……」
「って、それが自然体って……ありえないでしょう……」
アスマに言われて、が不思議そうに首を傾げる。うん、今回はバカカシと同意見。
自然体で気配消すって、本当にの生活ってどうなってるんだろう・・・・・・。大体、普段から気配を消してるのは知ってるけど、どうしてそこまで気配を消す必要があるのか・・・・・・・・。
「ですが、小さい頃からそれが当然と言われれば、誰もが身に付くものだと思います。それは、俺の世話をしてくれた人達から学んだ事ですよ」
驚いているバカカシに、は少しだけ困ったような表情を見せて理由を口にした。
確かに、小さい頃からそれが当たり前になれば、自然と身に付くと言うのは嘘じゃない。それを証明するとすれば、俺と言う存在がいい例だ。小さい頃から命を狙われ続けて、今ではこの里のトップの実力となっているんだから……。
「それに、そうしなければ、生きている事など出来なかったでしょうから……」
そして、小さく続けられたその声を俺はしっかりと聞いてしまった。
そうしなければ、生きて行けなかった?一体、どう言う意味なんだろう……。
最後の言葉は俺以外の誰にも聞えて居なかったようで、の能力は忍びとしては一番大事な事だと言うもっともな言葉で締め括られた。
「んじゃ、予定よりも早いが、今日はここまでだ。強制じゃねぇが、が入った事を祝って甘栗甘で俺とカカシで奢ってやるぞ」
「ちょっと、アスマ、何勝手に話進めちゃってる訳……って、まぁ、今回は仕方ないか……」
そして、アスマが言い出した事によって、周りが賑やかになる。
も、そんな上忍の二人に表情を笑顔に変えた。
呟かれた言葉が気になったけど、今はが笑ってくれた事にホッと胸を撫で下ろす。
――どうした?
そんな俺に気が付いたのか、シカマルが心話で話し掛けてくる。
――……何でもない……。
それにそっと返事を返して、俺は表の仮面を被った。
「んじゃ、の歓迎会をするってばよ!!」
ぐっとの腕を取って甘栗甘へ向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっと、ナルト!」
突然の俺の行動に、が慌てて俺の名前を呼ぶ。それを無視して、今はただが下忍になった事を本気で祝いたい気分だ。
だって、やっと念願叶って、表の時にもに名前を呼んでもらえたのだから……。
「ナルト!」
「なんだってばよ?」
「えっと、一人で歩けるよ……」
俺に腕を取られて引っ張られるように歩いているが大声で俺の名前を呼んだ事で、漸く返事を返す。少しだけ困ったように言われたそれには、聞く耳など持たない。
だって、漸くこうして堂々とと歩けるのだ。絶対に離してやんない。
「俺ってば、の事すんげぇ気に入ったってばよ!だから、絶対に離さないってば!!」
ぎゅっと腕に抱きつくようにすれば、が諦めたように小さくため息をつく。
表の俺が、イルカ先生以外にくっつく事なんてなかったけど、相手なら別。絶対に、誰にもやらないからな!
「珍しい、ナルトがそんなに懐くなんて。イルカ先生以外じゃ初めてなんじゃないの」
そんな俺に、サクラが意外そうに口を開いた。うん、やっぱりバレてるよなぁ……俺が、自分から抱きつく相手って、イルカ先生だけだったのだから……。
「は、特別だってばよ。理由なんか分からないけど、傍に居るとすっごく安心できるってば」
「それ、僕も分かる気がするな。確かに、の傍って何かふんわり温かいんだよね」
サクラの言葉に弁解するように言ったそれに、チョウジが同意してくる。
って、流石チョウジだってばよ。初めて会っただけで、もうの事分かってるってば……やっぱり、侮れない。
俺とチョウジに言われたそれに、が少し顔を赤くする。
「そんな事言ってもらえるなんて思ってなかった……有難う、ナルト、チョウジくん」
そして、俺の大好きなふんわり笑顔での、お礼。
「御礼言われるような事言ってないよ。でも、、僕の事君付けしちゃだめだからね!」
その笑顔を表でも見れたことに感動していた俺と違って、チョウジはが君付けした事を突っ込んでいる。
俺は裏で普通に読んでいるから違和感ないんだろうけど、やっぱり他の相手を呼ぶのは躊躇いがあるみたいだ。
「ご、ごめん。で、出来るだけ早く慣れるね……あっ!ほら、アスマ上忍とカカシ上忍が待ってるから早く行こう!うちはくんと春野さんも勿論行くんだよね?」
素直にチョウジに謝るが、そのまま何も言わずに立ち止まっているサクラとサスケに声を掛ける。
「……俺の事は、サスケでいい。俺も、お前の事をと呼ぶ」
「私の事も名前でいいわよ」
声を掛けられて、サスケが小さく息を吐き出して名前呼びを主張。同じようにサクラもへと笑顔を見せた。
「わ、分かった、サスケくんに、サクラさんだね・・・・・・・」
二人にそう言われても、呼び捨てには出来ないらしい。は少しだけ困ったように二人の名前を呼んだ。
でも、何かサスケがの名前を呼ぶのはムカツク。
「ほら、そんな事してないで、早く行きましょうよ!折角上忍二人が奢ってくれるのよ。が入った事を盛大に祝わなくっちゃ!」
複雑な気分の俺を無視して、ことさら明るくいのが先を促す。
確かに、今日はが下忍になった嬉しい日だ。漸くこうして一緒に居られるようになったのだから、いのの意見には賛成。
「よっしゃ、いくってばよ!」
の腕を取ったまま、表の俺らしく元気良く残っている手を上げる。
なぁ、何時か、本当に何時かでいいんだけど、さっき呟いた事の理由を聞いても許されるだろうか。
大切だと思える人だからこそ、知りたい。
でも、今はこうして一緒に居る事が出来るのを祝おう。
だって、堂々と名前を呼べるのだ。
そう、裏でも、表でも・・・・・・。