「、このままでは卒業は認められないぞ」
呼び出されての言葉に、思わず苦笑を零してしまう。
それはそうだろう。こんなに休んでばかりでは、体が資本の忍としては役に立たない。
「お前の成績なら、簡単かもしれないが、卒業試験は忍術だぞ。体の弱いお前には不利だ」
心配そうに見詰めてくるイルカ中忍の視線に、何とも言えない表情を見せる。
前髪で顔を隠して、眼鏡を掛けた暗い印象を持たせている自分。
その上病弱で、アカデミーも休んでばかりの別な意味での問題児。そんな生徒を本気で心配しているのだと分かるからこそ、申し訳ない気持ちは隠せない。
「……先生には、本当に申し訳ないと思っています。でも、両親の最後の願いだったんで、アカデミーだけは、卒業したいと……」
「ああ、お前の気持ちはちゃんと分かっているんだ。でもな、ココを卒業しても、今の状態では下忍になる事は出来ないと言っているんだぞ」
言い難そうに言われた言葉は、もっともな意見だ。
そう、卒業は簡単に出来るだろう。そんな風に、自分で設定しているのだから。
でも、病弱設定と言うのは、忍としては全く成り立たない設定なのだ。
「……ボクは、アカデミーさえ卒業できれば、それだけで良いです……」
少し困ったように微笑めば、イルカ中忍が小さくため息をつく。
「そうだったな……ご両親は、お前にアカデミーを出て欲しいと言っていたんだったな……」
言ってから、もう一度ため息。
まぁ、普通はアカデミーを卒業して欲しいって事は、忍になって欲しいって事だ。それが、この里では当たり前の事。
だけど、今のオレでは、忍になる事など出来ない事は百も承知している。
本当に、そう考えると性格悪いよな。
分かっているのに、絶対に忍になれない子供を演じているのだ。
目の前の教師が、どう思うかもちゃんと分かっているのに……。
それでも、自分は表で働く事は出来ないから、だからこそ演じ続ける……。
「先生、このまま卒業だけはさせてください。お願いします!」
複雑な表情で、書類を見詰めているイルカ中忍に俺は深々と頭を下げた。
それに、イルカ中忍が少しだけ困ったような表情をする。
「卒業は出来るんだぞ。だけどな、本当に下忍にはなれないんだが、それでも良いのか?」
最後の確認とばかりに質問されて、笑って返す。
「はい、それは、今のボクでは無理な事が分かってますから……」
ハッキリと言葉を返す俺に、イルカ中忍は、小さくため息を付いて頷いた。
「お前がそう言うなら、俺には何も言えないな……頑張って、卒業するんだぞ」
「はい、有難うございます」
ポンッと俺の頭に手を乗せての言葉に、俺は心からの笑顔を返す。多分、この姿では、初めて見せる本当の笑顔。
「……、お前ちゃんと笑えるんだな。先生安心したぞ」
そんな俺の笑顔に、少しだけ驚いたように、だけど何処か嬉しそうにイルカ中忍が笑顔を返してくれた。
笑顔を返してくれたイルカ中忍に、俺はもう一度笑顔を返す。
こんな俺でも、本気で心配してくれるこの先生が好きだから……。