「誰じゃ、急にわしをこんな所に呼び出した奴は!」

 行き成り呼び出されたガマブン太は、突然自分のことを呼び出した子供を睨みつける。

「そう言うなって!ちょっとだけ、紹介したい奴が居るんだ」
「何だ、金色のガキじゃねぇか……紹介したい奴だと、何だお前のコレか?」

 子供、ナルトは、睨まれても全く気にした様子もなく嬉しそうに笑顔を見た。
 その言われた内容に、ガマブン太はからかうように小指を立てるような素草を見せる。

「ち、違うってばよ!でも、俺の大切な奴だから、オヤビンにも紹介しておこうと思って……」

 からかわれた事でナルトの顔が赤くなって、慌てて否定した。
 ドベ口調になっている事からも、その慌てぶりが良く分かるだろう。

「だからってのう、わしはこの満月を見ながら一杯やっとたんじゃ、それを邪魔する理由にはちーっとばっかり弱いのう」

 だが、そんなナルトの様子にも、不機嫌そうにガマブン太が空を仰いで文句を口にする。

「それは、お邪魔をして申し訳なかったですね。なら、家で変わりの酒を用意いたしますよ」

 そんなガマブン太を前にナルトよりも数歩離れてで話を聞いていた人物がその姿をガマブン太に見せるように前に出て会話に加わった。
しかしそれとは逆に、その口調を聞いて、ナルトは思わず後ず去ってしまう。
彼が、裏の姿でそんな離し方をする時は、怒っている時だとある人物から聞かされているのだ。

「おう、話が分かるのう。で、何処の酒じゃ!」

 だが、そんな事を知らないガマブン太は、その言葉に嬉しそうに飛付いた。

「そうですねぇ、『木の葉・明月』などいかがですか?この月を見ながら飲むには、いいお酒でしょう」

 ニッコリと綺麗な笑顔を見せているのに、恐いとそう思うのは本当の姿を知っているからだろうか?

「悪くはないのう。なら、その礼にわしが夜の散歩にでも連れて行ってやるかのう」

 聞かされた酒の名前に、気を良くしたガマブン太は、そんな事まで言い出す始末だ。
 目の前で繰り広げられている会話に、ナルトは何も言えずにただ黙って話をく事しか出来なかった。
 確か、ガマブン太を呼び出したのは自分だった筈なのに、これでは、まるでが呼び出したようではないか……。

「いいんですか?」

 ブン太からの申し出に、が少しだけ意外だと言うように聞き返す。

「おう、わしらガマ一族はのう、感謝の気持ちはちゃーんとしっとるけんのう。いい酒を出されたんなら、それ相応の礼はせんと、罰が当たるわい」
「それは、突然呼び出して、月見酒の邪魔をしてしまった事への謝罪だったんですけどね……」

 ニコニコと話をしているとガマブン太を前に、ナルトは小さくため息を付いた。
 は、ガマブン太でさえ虜にしてしまうのだと分かった一瞬だ。
 こんな事なら、呼び出すんじゃなかったと後悔しても時は既に遅い。

「お前さん、名を聞いてやるけん、言うてみい」
「それは、有難うございます。俺の名前は日成と言います」

 偉そうなブン太の態度にも、全く気にした様子もなく、はニッコリと笑顔を見せながら、自己紹介した。
 その口調は今でも丁寧なままで、何時ものを知っているモノには、違和感を感じる。
 しかも、怒っている様子も全く見せない。
 自分の彼女に間違われた事に切れているのだと思っていただけに、ナルトは訳が分からずに首を傾げた。

「ほう、お前さんが、あの日成一族の生き残りじゃったんか……確かに、その顔は女主<おんなあるじ>にそっくりじゃのう」
「…って、あの人の事、知ってんのかよ……」

 自己紹介をした瞬間、懐かしそうに言われたその言葉に、の口調がガラリと変わってしまう。
 それは、何時もの態度。
 豹変した態度に、ガマブン太が楽しそうに目を細めた。

「どうやら、今までは、猫をかかぶっとたようじゃのう……女主には、何度か会おた事があるんじゃ」
「・……あの人を知ってる奴に猫被っても仕方ないからな……」

 小さくため息をついて、が何時もの口調に戻る。
 そんなを前に、どうやら怒っている訳じゃないと言う事が分かってナルトもホッと胸を撫で下ろした。
 
「ナルトが世話になってるって言うガマ親分に会って見たかったんだ、だから、ナルトに呼び出すようにお願いしたのは、俺。本当に月見酒の邪魔して悪かったよ」

 そして、続けてナルトを庇うように言葉を述べる。
 確かに、が逢って見たいと言ったのは本当の事だったが、呼び出すようにお願いされた記憶などなかったナルトは複雑な表情でを見る。

「それは、酒をご馳走になるのでチャラにしちゃるけん、安心せい」

 だがそんなの言葉に、がブン太は楽しそうな口調で言葉を返す。
 そんなブン太の言葉に、がフワリとナルトの大好きな笑顔を見せる。
 それは、綺麗で人を安心させてくれる笑顔。
 ガマブン太はそんなの笑顔を何処か懐かしそうな、少しだけ悲しそうな表情で見詰める。

 それは、懐かしい女主人と同じ暖かな笑顔だったから・……。

「……そんじゃ、わしの気が変わらん内に出掛けるかのう」

 感傷に浸りそうになる気持ちを切り替えるように、ブン太は空を仰いで促すように口を開いた。

「って、散歩ってマジだったのか?!」

 だが、行き成り言われたその言葉に、ナルトが驚いたように声を上げる。
 この大ガマの性格を知っているだけに、自分から人を乗せて散歩するなど信じられなかったのだ。

「わしは、一度言うた事は守るけんのう。それに、お前さんの事が気にいったんじゃからこれぐらいは当然じゃろう」
「それは光栄だな。って事だから、お言葉に甘えようぜ、ナルト」

 楽しそうな口調で言葉を口にしたブン太に、が何時もの口調で返してニッコリとナルトを促す。

「えっと、それじゃ、お願いするってばよ……」

 それに返事を返したナルトの口調が表口調だったのは、目の前の一人と一匹(?)についていけない状態だったからかもしれない。


 その後、ガマ親分の背に乗って夜の月見ドライブを堪能する事になった。
 散歩と言う名目のドライブが終わってから、『夜』が準備していたらしい『木の葉・明月』を貰ったガマ親分が嬉しそうに帰っていったのは、言うまでもないことだろう。