今日も今日とて、どっかの誰かさんの所為で、こんなに遅くなっちまった。
 忍びである人間が遅れてくるなんて、そんなんで許されるのか!

「じっちゃん、バカカシの教育し直せ、今すぐに!!」

 バタンと大きな音を立てて窓を開いて現れたナルトは、何時ものように仕事をしていた三代目に、入ってくるなり殺気全開に詰め寄った。

「……行き成りなんじゃ、それに今、7班は任務中のはずじゃぞ」

 殺気全開で詰め寄ってきたナルトを前にしても、三代目は盛大なため息をついて、冷静に言葉を返す。

「んな面倒な事は、影分身に押し付けてきた!大体、カカシの奴が遅刻してこなかったら、とっくに終わっている任務だぞ!!」
「……カカシは、また遅刻してきたのか……」

 三代目に言われて、不機嫌そのままなナルトの文句。
 それに、三代目は呆れたように小さく呟いた。

「あいつが遅刻してこなかったら、今頃俺は何時ものようにが入れてくれた美味しいお茶飲んでんだよ!これで邪魔されたの、何度目だと思ってんだ!!」

 勢いのままに言われた言葉に、再度ため息。
 理由が理由なだけに、複雑な気持ちは隠せない。

 それでも、こんな我侭を言ってくれるようになったと喜んだ方がいいのだろうか……。

「10班も、今日は任務があったはずじゃが……」
「んなの、とっくに終わってあいつ等は解散してんだよ!こんな事してる間にも、どっかの誰かさんにを捕られる!!」

 そのどっかの誰かさんと言うのは、一体誰の事なのか聞きたいと思うが、これ以上ナルトを刺激するわけにはいかないと瞬時に判断した三代目は、広げていた本をゆっくりと閉じた。

「では、ここに来ずにの家に行った方がいいのではないのかのう。も、待っているのではない……」
「だから、また同じような事がねぇように、バカカシの教育し直せって言ってんだよ!」

 ゆっくりと言い包めるように伝えようとした言葉は、最後まで続ける事は叶わずに、ナルトの怒声によって遮られてしまう。
 三代目は、ナルトの言葉に素直に口を閉ざして再度大きく息を吐き出した。

「そうは言っても、あやつには何度も厳重に注意をしても聞かんのじゃよ」
「寝坊じゃねぇって事は知ってんだよ。任務がある時に慰霊碑で感傷にひたんじゃねぇって言っとけ!」

 バンッと強く机を叩いての言葉に、三代目は複雑な表情を見せる。
 確かに、ナルトが言うように、カカシが寝坊で任務に遅れてきていない事はちゃんと分かっているのだ。
 それでも、任務に私情を挟む事がどれほど忍びにとってマイナーになっているかを考えると、ナルトが言うように教育を再度した方がいいのかもしれない。

「ナルト、三代目を困らせちゃ駄目だぞ」

 本気でそんな風に考え始めた自分の耳に、新たな声が聞えて向き合っていた二人は同時に声のした方へと視線を向けた。
 この里の最高権力者である火影の自分にも、そして、この里1の実力を持つナルトにも気配を読ませない人物など、この里には一人しか存在しない。

、何でここに居るんだ!」

 ナルトがそこに居る人物の名前を呼ぶ。
 その表情は、どこか嬉しそうに見えるのは、気の所為ではないだろう。

「任務終わって、7班がまだ任務終わってないみたいだから覗きに行ったんだよ、そしたら影分身のナルトが居て、可笑しいなと思って気配探ったら火影様の所に居るのが分かったんで様子見に来た」
、迎えに行ってくれてたのか?」

 の説明に、ナルトが不思議そうに問い掛ける。
 それに、がフワリと笑顔を見せた。

「モチ!だって、全員揃ってねぇと、楽しくねぇからな。だから、三代目脅してねぇで、早く家に帰って来ねぇ」

 フワリと笑顔を見せたに、ナルトが素直に頷いて返す。

「んで、カカシ上忍に関してなんだけどな」
「あんなバカに上忍はいらない。の方がずっと強いだろう」
 素直なナルトに、はもう一度優しく笑って、一つの名前を口に出した。

 それに、一気にナルトの機嫌が下降するのが分かって、思わず苦笑を零す。

「了解。んじゃ、ナルト曰くバカカシの遅刻癖なんだけど、ずっとは無理かもしんねぇが、最低でも半年位ならなんとかなるぞ」
「って、もしかして……」
「おう、俺の右目遣えば楽勝!ただし、長く持って一年、短ければ半年の効力しかねぇけどな」

 ニッコリとウインク付きで言われた言葉に、ナルトの表情が一転して複雑なモノへと変化する。

「それ絶対に駄目!!あんなバカにの能力遣う必要はないから!!」

 そして、直ぐに拒否の言葉を口にした。

 確かに、カカシの遅刻癖がなくなってくれるのは本気でありがたい。
 だけど、その為に、リョクトの存在をカカシに知られてしまうのが、何よりも許せないのだ。

「う〜ん、やっぱり駄目か……いい案だと思ったんだけどなぁ……」

 自分の案を力一杯却下されて、が少しだけ残念そうな表情を見せる。

「もういいから、シカマルも家に居るんだろう?待たせちゃ悪いから帰ろう……」

 残念そうにしているを相手に、ナルトは盛大なため息をついて、促すようにその腕を掴む。

「……もういいのか?」

 そんなナルトに、はチラリと三代目に視線を向けて小首を傾げた。

「もういいってば……どうしても許せない時には、影分身に任せる」

 どっかの誰かさんの為に、大切な時間を邪魔されるのが許せないけど、その為に大事な大事なこの人をその誰かさんに見せてしまうのは、勿体無いと言うよりも、許しがたい事。
 表の姿だって、本当は見せたくないのだ。

「そっか、それでも駄目な時には、何時でも力貸すから言ってくれよ」

 それでも、ニッコリと笑顔で言われた言葉に、ナルトは小さく息を吐く。

「その時には、頼む……」

 と返しながらも、心の中では、『絶対にの力は借りない!』と自分に言い聞かせていた事に、この場の誰も気付く事は無かった。




 〜お ま け〜

「なぁ、シカマル」
「ああ?」

 何時ものようにソファで寛いで本を読んでいるシカマルへと声を掛ければ、その視線が不思議そうに向けられる。

「なんでは、あんなに自分の容姿を気にしないんだ!」

 そう、本当に綺麗な金の瞳と深い紺色の瞳。それにすっごく整った顔立ちは美少女と言っても間違いは無いほどの容姿。

 そう、美少女なのだ。美少年ではなく、彼の容姿は美少女。
 いのやサクラなんて太刀打ち出来ないほどの美少女なのだ。

 表では、金の瞳をコンタクトで隠して、更に分厚いクロブチの眼鏡。おまけとばかりに、顔の半分を隠すかのような前髪だから誰も気付かないかもしれないが、それでも一度でも本当の笑顔を見せると、誰もが引かれる雰囲気を持っている。
 それは、チョウジやいのも認めている事。

「……あ〜っ、まぁ、言っても無駄だから気にすんじゃねぇよ。めんどくせぇだけだぜ」
「それじゃすまないんだ!って、その容姿だけで人を虜に出来るって自覚無さ過ぎなんだよ!」
「ねぇだろうな。だけどな、その容姿に虜にされちまった俺達が言っても、信じねぇんだから、しかたねぇだろうが……」

 面倒臭いと言うように、シカマルの視線がまた手元にある本へと戻される。
 言われた言葉は、確かにその通りだと納得出来るのだが、だからと言ってそれで許せる問題じゃない。

「絶対『昼』達の教育が間違ってるんだ!」
『それは違うぞ、器のガキ。あいつは、初めから変わってない。ちなみ言えば、主もあいつと同じ態度だったから、アレは間違いなく遺伝だ』

 大声で文句を言ったナルトに、小さくため息をつきながら新たな声が掛けられる。
 本当に何時現れたのか分からないのが、暗部最強と言われている自分にとっては、情けないくらいだ。

「……そんな遺伝いらない……」
「迷惑な遺伝だな……」

 そして言われた内容に、同時にナルトとシカマルが呟いたのは、仕方ない事だろう。