「親父さん?」

 家に帰ったら、珍しい人物がソファで寛いで酒を飲んでいた。
 この家の主をまったく無視して、まるで自分の家のように寛いでいるその姿に、思わず苦笑を零してしまう。

「おう!漸く戻ったか!!」

 俺の姿を確認して、片手を上げるのは、シカマルに良く似た…いや訂正、シカマルが似ている相手。奈良シカクその人だった。

「……もしかして、またお袋さんと喧嘩したのか?」

 この人は、シカマルと違って、この家には滅多な事では現れない。
 自分が覚えている中でも、数えるぐらいだろう。
 それも殆どが、奥さんと喧嘩して追い出されたのが理由だったように記憶している……。

「ち、ちげーよ!偶には、お前と飲むのもいいかと思ってだな!」
「いや、俺一応シカマルと同じで、未成年だから……」
「酒一升瓶空にして、シラフな奴が、何ぬかしてやがる!!『夜』が今つまみを用意してんだから、お前も飲め!!」

 言いながら、コップが渡されて、並々と酒が注がれていく。
 確かに、一升瓶空けて、シラフなのは否定しねぇけど、人の家の猫(?)を勝手に遣ってんじゃねぇぞ!

『シカのパパさんの注文分、持ってきたよ』

 言いながら入ってきたのは、『夜』。その手にはしっかりとつまみが乗せられたお盆。『夜』、親父さんに素直に遣われてるんじゃない!

「……俺、明日アカデミー……」
「細けぇことを男が気にすんじゃねぇぞ!」

 ボソリと呟いた事に、親父さんが、豪快に笑う。
 いや、全然細かい事じゃねぇし……。俺、今任務から戻ってきたばっかりなんだけど……。
 ってか、今日の任務は面倒な任務で、一人でやるにはかなり苦戦させられて、疲れてっから、早く寝てぇのに!!

 俺が、本気で殺気を放ちそうになった瞬間、見知った気配を感じて顔を上げる。
 親父さんも、気付いたのだろうドアの処に立っているシカマルを見た。

「あ〜っ、また、ここに逃げ込んでんのかよ、めんどくせぇなぁ……かあちゃんからの伝言だ。『に迷惑掛けたら、二度と家の敷居は跨がせねぇ』てよ」

 そして、呆れたように言われたのは、お袋さんからの伝言。流石お袋さんだ!子供の事を思ってくれているのは、母親だよな!!

「んで、『さっさと帰って来い』ってよ。めんどくせぇけど、ちゃんと伝えたからな!」

 シカマルにそう言われた瞬間、親父さんの姿が一瞬で消える。
 瞬身の術遣ってまで帰る必要あるのか??

「あ〜んでもって、かあちゃんからの伝言『迷惑掛けてごめん、またご飯食べにおいで』ってよ」
「了解!んじゃ、寝酒でも飲んで、寝ちまおう!お袋さんに、助かったって、伝えておいてくれ」
「あ〜っ、俺は伝書鳩じゃねぇっての、めんどくせぇ……」

 文句を言いながらも、瞬身の術を遣って、シカマルの姿が消える。
 文句を言いながらも、ちゃんと伝えてくれるのが、シカマルのいいところだよな。

「さぁてと、親父さんの置き土産を頂くか」

 コップ一杯に入れられた酒をぐっと一気に飲み干す。
 疲れた体に、少し度数の高いアルコールが効いたのか、その夜はぐっすりと寝る事が出来た。



 次の日の朝は、親父さんが『夜』に頼んだおつまみ料理が食卓に並んだのは、仕方ないことだろう。
 そして、折角作ったモノを食べてもらえなかったと、『夜』が不機嫌だったのを必死で宥めたのは別の話。