「絶対に嫌だ!!んなの俺が引き受けるなんて、ありえねぇだろうが!!」

 突然の声が、執務室に響き渡る。
 咄嗟に、この部屋に結界を張っておいた自分を誉めてやりたい。それだけ、言われた内容は有り得ない事だった。

「そう言うても、この里は忍び不足でのう、実力のあるお主が表でも動いてくれ……」
「だから、俺は表には出れねぇーて言っただろう!!今まで通り裏だけで十分だ」

 三代目の言葉を遮って文句を言う。里の最高責任者だろうが関係ねぇもんは、関係ねぇんだよ!
 大体、勝手な事しやがって、普通なら怒鳴るだけではすまねぇ事だぞ。

「しかしのう」
「シカシもカカシもねぇんだよ!大体、病弱設定の俺が、なんで既に下忍になってんだよ!!卒業はしていても下忍認定試験は受けてねぇだろうが!!」

 そう、確かに自分はアカデミーを卒業している。だが下忍認定試験は、自分の体調が悪いからと言う理由で辞退した、それなのにも係らず、しっかりと自分の名前は下忍として登録されていたのである。

 そんな前例のない事など、はっきり言って認められない。
 そう、本人の意見など全く無視した前例など!

「それがのう、その頭脳を眠らせるのが惜しいと、イルカを始めアカデミーの教師数名がお主を押してきたのじゃ。その上、上忍でも数人お前を自分の班にと……」
「だからって、人の意見無視して勝手に登録してんじゃねぇよ!」

 バンと力を込めて火影の机を叩く。
 こんなに火影相手に怒鳴った事など一度もないが、それでも理由が理由なだけに落ち着く事など出来ないし、納得も出来ないのだ。

「めんどくせぇなぁ、結界張ってまで、何火影を脅してんだよ」

 その瞬間、聞こえて来た声に俺は驚いて振り返る。

「シカマル!」

 そして、そこに立っていた人物を見付けてその名前を呼んだ。
 気付かなかったのは、怒りに周りが見えていなかったから……。

「じっちゃんが何かしたのかしたんだってば?」
「ナルト」

 そして続けて聞こえて来た声に、もう一度驚きを隠せない。慣れ親しんだ気配だとしても、全く気付けなかった自分が情けなさ過ぎる。

「お前が怒鳴りつけるなんて、一体何をやらかしたんだよ、火影様はよぉ」
「じっちゃん、に迷惑掛けちゃ駄目だってばよ」
「ナルト、シカマル!聞いてくれ!!三代目が人の事勝手に下忍登録しちまってたんだよ!!」

 自分の不甲斐なさを噛み締めていた俺は、だが呆れたように三代目を責める二人の言葉に、我を取り戻して俺が怒っている理由を話した。

「あ〜っ、マジかよ……」
てば、下忍になったんだ」

 俺の言葉に、二人がそれぞれ驚いたような表情を見せる。
 その表情から見れば、知らなかったと言う事が伺えた。だが、続けて言われた言葉に俺は思わず言葉を失ってしまう。

「三代目は、ちゃんと聞き入れてくれたみてぇだな」
「我侭聞いてくれたんだ。で、何処の班に登録したんだ?」

 今までドベ口調だったナルトの言葉が行き成り真剣なものになって、三代目へと問い掛ける。
 聞こえて来た内容は、自分にとっては信じられないものだった。

 だって、なんでシカマルやナルトが俺を下忍にする事を三代目に話してるんだよ!俺が忙しいって事を、こいつ等は一番知っている筈なのに……。

「その事なんじゃがの、迷った末に10班に入る事に決めた」
「俺等の班か、いいんじゃねぇのか、アスマはああ見えても、結構懐が深ぇみたいだからよ」
「って、俺の班じゃないじゃん!なんで!!」
「はたけカカシは、ああ見えてもこの里ではトップクラスじゃからの。お主以上にの事を知られる訳には、いかんのじゃ」

 人を全く無視した会話が目の前で進められる。
 いやちょっと待て、知られる訳にいかないなら、そのまんま下忍に登録しないでくれ。俺は、一族の仕事だってあるんだぞ、ナルトやシカマルみてぇに、暗部と下忍の両立だけじゃねぇ、それに一族の仕事まで係ってくるてぇのに、三代目は俺を本気で殺す気か??

「そこの三人!人を無視して勝手に話進めんじゃねぇぞ!てぇか、本気で俺の事殺す気か!!」
「そんな事ある訳ないじゃん」
「そうそう、お前を殺すなんてとんでもねぇなぁ」

 ぜぇぜぇと盛大に肩で息をしながら、目の前の三人を睨んでいる俺に、さらりと返された言葉は、にこやかな笑顔と共に言われた。
 いや、絶対に信じねぇぞ、んな爽やかな笑顔で言われても、ぜってぇに信じられるか!

「お主が一族の仕事をこなしておる事は誰よりも一番良く分かっておる事じゃ。じゃがの、わしはそろそろお主にも表に出てもらいたいとそう願っておったのじゃ。だから、良い機会じゃから下忍として登録させて貰ったのじゃよ。勝手な事とは分かっておったのじゃが、年寄りの最後の我侭と思って諦めておくれ」

 しおらしく言われる言葉は、確かにずっと言い続けられた事。
 だが、そんな言葉で騙される訳にはいかない。

「って、病弱で任務も休みがちな忍びが居てもいいのかよ!」
「その事に関しては、ちゃんと認められておる。お主に関しては、特別制度も適用しておるから心配は要らぬよ」

 自分の事を必死で言えば、さらりと笑顔で返される言葉。
 それに、一瞬言葉を詰まらせて、そして次の心配事を口に出す。

「シ、シカマルの班って言えば、猪鹿蝶トリオで十分バランス取れているだろう!俺が入ったらそのバランス……」
「心配いらねぇよ。お前が入ったからと言って、俺等のバランスが悪くなる筈ねぇだろう。そんな事は、ありえねぇよ」

 今度は自分の言葉を最後まで言えずに、シカマルによって否定されてしまった。

「そうだな。が俺の班に入らないのは面白くないけど、下忍になるのはいい事だって」

 そして続けて言われたナルトの言葉に、俺は盛大なため息を付いた。
 そう、出来ない事はないと分かっているから、これ以上何を言っても労力の無駄だと言う事を一番自分が分かっている。

「……下忍任務より、俺は一族の仕事を優先する。それでいいと言うのなら、その話乗ってやるよ」
「……うぬ。勿論それが一番の条件じゃよ……では、今日より、を10班の下忍として認める。しっかりと頑張るのじゃぞ」
「……御意」

 不本意な結末に、盛大なため息をついて火影に膝をつく。
 その様子を楽しそうに見ている、自分にとっては何よりも大切な仲間と呼べる存在。
 まったく、ありえねぇ事を人に承諾させちまいやがって……っても、俺は今までと変わる事はねぇんだろうけどなぁ……。

「たく、またこれから忙しくなっちまうな……」

 漸く、アカデミーと言う場所から解放されて二足草鞋に戻ったと安心していた矢先の出来事。

「つー事で、これからは同じ班員だ宜しく頼むぜ」
「これで、漸く表でもと仲良く出来るな」

 嬉しそうに笑っているその顔に、俺は全てを諦めた。
 それが、こいつ等の望んだ事なら、受け止めるしかねぇよな……。

「……これからも、宜しく」
「勿論!」
「たりめぇだつーの」

 伸ばした手に、しっかりと返される手。
 それを嬉しそうな表情で三代目が見守っている。

 今日、ありえねぇ事に、俺、は下忍となりました。
 そして、また新たな日々が始まりを告げる。





〜お ま け〜

「そう言えば、俺は下忍認定試験受けてないけど、なんで下忍になってんだ。そんなの上忍だって認めないだろう」
「その事なら、心配はいらぬよ」

 そう、下忍認定試験を受けてもいない俺が、下忍なんて許されないだろう。
 シカマルの上司であるアスマ上忍だって、認めるないだろうし、山中に秋道も同じだ。
 なのに、疑問に思ったそれを口にしても、あっさりと三代目が言葉を返してくる。

「……どう言う意味?」
「数日前に、お主に受けて貰ったテストが、お主にとっての下忍認定試験じゃよ」

 意味が分からずに不信気に三代目を見て問い掛けたその言葉に、さらりと返されたそれは、俺を驚かせるには十分だった。

「って、卒業の為に必要なテストだからって、イルカ中忍が態々人をアカデミーに呼び出した時のアレかよ!」
「そうじゃよ。あのテストで、お主が見事な成績を収めた事によって、下忍として認められたのじゃ」
「何、そんな試験受けたのか?」

 ニコニコと嬉しそうに笑う狸爺々基、三代目火影。そんな三代目を恨めしく見ても、全ては騙された自分が悪い。
 そんな俺の心情など知らないナルトが、不思議そうに首を傾げ問い掛けてくる。その表情は、可愛いけど、気分はまさに複雑過ぎだ。

「これが、その試験じゃよ」

 そう言って差し出したのは、見覚えのある一枚の用紙。
 それには、間違いなく自分の筆跡で書かれたモノが……。
 ナルトがその用紙を手にとって、シカマルはそれを覗き込む。

「これって、アカデミー生に、解ける問題じゃなんだけど……」
「…だな、どう見ても特上・上忍レベルだぞ」

 しっかりと用紙を見ている二人が呆れたようにため息をつく。
 そんな事を言われても、表のは、その手の問題が得意なのだ。だから、手を抜く事は出来ない。それが、出来ないと言う事は、今までの存在を否定してしまう事になる。

 それを証拠に、イルカ中忍にこの用紙を渡された時に、『には、簡単かもしれないけどな』と、笑いながら言われた。
 だからこそ、手を抜く事は出来なかったので、しっかりと問題を解いたのだ。
 だが、それが今回の問題を起こしたのだと言うのなら……。

「手を抜くべきだった!」
「いや、違うだろう!」
「そうだな、それこそ有り得ない事だ。は、休みがちだけど、優等生なんだから、そんな事しちゃ駄目だな!」

 な、なんにしても、決まったものを悔んでも仕方ない……。

「結局は、なるようにしかならねぇんだよな!」

 人生、流れに身を任せるべき!

「あっ、が、開き直った……」
「なんにしても、これで表でも堂々と話が出来るつー訳だしな」

 後ろから聞こえる声を完全に無視して、俺はどうにでもして状態で、もう一度盛大なため息をついた。