の任務は、確かにこの森で間違いなかったはずなのに、何処にもその姿を見つける事が出来ない。
俺にの気配を探る事は出来ないが、ターゲットとされている他の忍びの気配なら感じられ筈なのに、今この森の中に人の気配を感じる事は出来なかった。
「……入れ違いになったかなぁ……」
には、渡りと言う術があるから、一瞬で家に戻る事が出来るのだ。だから、自分がここに来るまでに入れ違いになったと言う事も考えられる。
そう思うのだが、何かがそれを否定するのだ。
自分の勘がここに、が居ると訴えてくるようなそんな感じ……。
「シカマルからも連絡ねぇから、もうちょっと探して………えっ?」
そして何よりも、家にが戻ってきたら心話で連絡をくれると言ったシカマルからも連絡がない。
その事からもう少しだけを探そうと踵を返した瞬間、何もない空間から走り出してきた自分が探しているその人の姿が目に入り、俺は驚きに瞳を見開いた。
「!」
しかし、その現れた姿が余りにもボロボロな状態だったため、慌てて駆け寄る。
何もない空間から現れた事に驚かされたが、それ以上にの姿に我が目を疑う。
「…………ナルト、来てくれて、すげぇ、助かった……」
駆け寄った瞬間、グラリとの体が傾くのを、慌てて支えてやれば、ホッとしたように俺を見て笑顔を見せる。
大きく肩で息をしているのその綺麗な顔にまで傷を作り、まだ赤い血が流れているのを確認して俺は思わず眉を寄せた。
体のあちらこちらにあるその傷は、まるで弄ばれていたかのような刃物傷。
「なんで、こんなにボロボロなんだよ!それに、さっき……」
『すまないが、今は休ませてやってくれ……直ぐに家に帰る……器のガキ、爺への報告を任せてもいいか?』
「それは、構わないけど……」
問い掛けようとした俺の言葉は、『昼』の声で遮られてしまう。
確かに疲れ切っているにこれ以上質問するのは、酷な事だ。一刻も早く休ませたいと思う『昼』の気持ちも納得出来る。
『頼む……』
珍しく素直に頭を下げられた瞬間には、グニャリと空間が歪む感覚。
『昼』が渡りを使ったのだと分かった瞬間には、そこは数分前に自分が出て来た部屋の中だった。
『……『昼』連絡取れなくなってたけど、一体何があったの!』
戻った瞬間、何時もは優しく出迎えてくれる『夜』が血相を変えて話し掛けてくる。
その直ぐ傍で、突然現れた俺達に驚いているシカマルが居るのを確認した瞬間、詰めていた息を吐き出した。
その事で、自分がかなり動揺していた事を知る。
『……荒神の結界の中に居たからな………『夜』の傷の手当てを頼む……オレは、器のガキと一緒にあの狸爺の所に報告に行って来る』
『……分かったよ…ナル、はこっちに貰うね』
何時もとは違う『夜』に対しても、『昼』は気にした様子も見せずにあっさりと簡潔に説明する。
そんな『昼』に『夜』は、諦めたようにため息をついて俺の腕の中に居るをゆっくりとソファへと横たえた。
そんな俺に残されたのは、を支えていた時に付いた見慣れた赤い血。
「…『夜』、ただいま……」
ゆっくりとソファに横たえさせられた瞬間、今まで閉じられていたリョクトの瞳が開かれて『夜』へと笑顔で挨拶をする。
『……お帰り……でも、疲れてるんだから、無理しなくてもいいよ……』
何時ものように挨拶をするに、『夜』は複雑な表情で、返事を返す。
ボロボロの疲れきった状態でも、笑顔を見せるに胸が痛くなった。
『器のガキ……行くぞ』
「うん…でも……」
そんな二人を見詰めている中、俺に『昼』が声を掛けてくる。
それは先ほども言っていた事だから分かるのだが、こんな状態のを置いてじーちゃんの所に行くなんて出来ない。
『の事は、『夜』に任せておけ。お前には迷惑を掛けるが、任務を放り出した状態だと気にしてゆっくりと休めないだろうからな』
『昼』が言っている事は、間違っていないだろう。
の性格を考えると、任務報告をしてない今の状態を気にして、そのまま自分でじーちゃんの所に行ってしまうかもしれない。
だけど、やっぱりこんな状態のを置いて、行く事が躊躇われた。
自分が居るからと言って、何かが出来る訳じゃないけれど傍に居たいとそう思う。
「……そりゃナルトじゃねぇとダメなのかよ……」
困惑している俺の耳に、今まで黙って事の成り行きを見守っていたシカマルが初めて口を開く。
突然のシカマルの言葉に、一瞬何を言われたのか分からずに、俺はただ驚いてシカマルへと視線を向けた。
『いや、オレでは報告にならないからな。木の葉の忍びであれば、誰でもいいぞ』
『昼』もシカマルの言葉に少しだけ驚いたようにだが、しっかりとその言葉に返事を返す。
「だったら、めんどくせぇが、俺が行ってやる。今のに無理させる訳にはいかねぇからな……報告つーっても、安否の連絡だけだろうが」
ソファから立ち上がって、何時ものようにめんどくさそうに頭を掻きながら言われたそれに俺は更に瞳を見開いてシカマルを見た。
『分かった。奈良のガキ、任せるぞ』
「あ〜っ、了解……んじゃ、ナルトは、に付いててやってくれ」
「いいのか?」
心配だから、の傍に居たいと思っている俺にとって、シカマルの申し出はとても有難いもの。だけど、俺と同じようにを心配しているシカマルを知っているからこそ、そう聞かずには居られない。
俺の質問に、シカマルがフッと笑顔を見せる。
「まぁ、無事な姿は確認出来たからよぉ……心配して探しに行ったお前に、譲っといてやるよ」
笑顔で言われたその言葉に、俺はそっと礼の言葉を返す。
『昼』とシカマルがじーちゃんの所へと行くのを見送ってから、へと視線を戻した。
『……傷は、大した事はないみたいだから心配ないよ。これなら、薬湯に入れば一瞬で直っちゃうからね……』
ソファに横になっているを『夜』がその状態を確認するように見ている。ザッと傷の確認をした『夜』が、ホッとしたように呟いたその言葉に、俺もホッと胸を撫で下ろした。
綺麗なの肌に傷が残るなんて、絶対に嫌だから……。
「良かった。でも、寝ちゃってるのに、お風呂に入れても大丈夫なのか?」
『夜』の言葉に安心して、俺もが寝ているソファの横に膝をついてその顔を覗き込む。
少しだけ顔色の悪いからは、既に寝息が聞えてきた。
『うん、大丈夫だよ。はボクがお風呂に入れてくるから、ナルはお茶の準備してくれる?』
「分かった!」
『夜』に言われて、俺は力強く頷いて返す。
それから、どのお茶をどうやって入れるのかを聞いて、準備の為に部屋を出る。
俺が出来る精一杯の事を、の為にしたいから……。
『本当、ナルって可愛いよね……』
ボクの話を真剣に聞いて、その準備をする為に部屋を出て行ったナルの後ろ姿を見送って、思わず笑ってしまう。
ボロボロになったの姿を見た時、正直言って冷静で居られなくなるところだった。
きっとがボクに笑いかけてくれなければ、大変な事になっていただろう。
『……荒神の結界の中に居たから連絡取れなかったって『昼』は言ってたけど、それって、ボク達よりも強い神って事だよね……』
そんな神が居るなんて、ボクは知らない。
きっと『昼』もも知らなかったんだろう。だからこそ、結界の中に入ってしまったのだ。
それは、にとっては大変な相手。自分達は、強い相手の結界の中では全く力を使えなくなってしまう。
そして、も結界内では、その力を半分封印されてしまうのだ。
『……それでも、帰ってきてくれて、有難う……』
こんなにボロボロなっても、戻って来てくれたことに心から感謝する。
きっと、大変な事だったと分かるから、そう思わずには居られない。
ナルがお茶の準備をしてくれているウチに、ボクもをお風呂に入れてしまおうと渡りを使って風呂場へと移動した。
ボロボロになっている暗部服を脱がせて、薬湯を貯めてある風呂へとを入れる。
人一人分しかないそれにを居れて、その間にの着替えをといりに行く。
「『夜』」
着替えを持って戻ってきたボクがの様子を確認しようとすれば、それよりも先にから声を掛けられた。
『起こしちゃった?』
「いや、まぁ、さすがに薬湯はなぁ……ちょっと傷に……でも、お陰で全部綺麗に直ってくれたから、有難うな」
心配気に問い掛ければ、ニッコリと何時もの笑顔でが返事を返してくる。
頬にあった傷も綺麗に消えているのを確認して、ボクもホッと息をつく。
「さすがにチャクラ空っぽ寸前。悪いけど、朝食は『夜』特性の回復メニュー宜しく頼む」
そんなボクに、は冗談のように笑いながら、お願い。
でも、そんな風に冗談みたいに言っているけど、それが嘘偽りない事だって分かっているから、ボクはしっかりと頷いた。
『うん、任せておいて!でも、その前に回復茶をナルに作ってもらってるから、お風呂から出たらちゃんと飲んでね』
「あ〜っ、ナルトなぁ……心配掛けちまったし、今回は本気で助けられた」
今、元気そうに見せても、まだ自分で立つ事も出来ないと分かるから、そう言えばが困ったようにナルトの名前を呼んで苦笑を零した。
『そっか、が結界から出られたのは、ナルのお陰なんだね』
だけどその言葉で、ナルがを助けてくれたんだと知って、ボクは心からナルへと感謝の気持ちを示す。
『それじゃ、ちゃんと御礼言わなきゃだし、あんまり浸かってると逆上せちゃうから、出る?』
「頼む……さすがにまだ自分で動けそうにねぇから……迷惑掛けちまうけど、頼むな」
申し訳なさそうに言われるの言葉に、ボクは小さく首を振る。
『迷惑なんかじゃないよ。ボクは、の世話が出来て嬉しい』
言いながら、を脱衣所へと移動させて、持ってきた着替えを着せ掛けた。
「……浴衣なぁ……」
『着せるのには、一番楽だからね』
帯を緩く締めて、可笑しくない事を確認してからリビングへと移動する。
「、大丈夫なのか?」
リビング戻れば、お茶の準備を整えてナルが待ち構えていた。そして、心配そうにへと声を掛ける。
既に『昼』とシカも戻って来ていてソファに寛いでいるのを確認して、ボクはをソファへと座らせた。
「とりあえず傷は、大丈夫。後は『夜』のチャクラ回復料理で問題ないと思う……シカ、『昼』任務報告サンキューな」
ソファに座って、ナルに笑顔を見せながら自分の状態を説明し、シカと『昼』へと礼の言葉を継げる。本当に、こんな時でも、相手への感謝の気持ちを忘れないのがらしいと思う。
「これ、『夜』に言われて作ったんだけど……」
「ナルトも、サンキュー。これな、回復茶って言って、今の俺には有難いモノなんだ」
ボクが言ったお茶を準備してカップに注ぎ、ナルがへと手渡す。
それを受け取って、素直にが礼を言い一口飲む。
決して美味しいとは言えないお茶だけど、それを飲むにちょっとだけホッとする。
「で、一体何があったんだよ」
がお茶を飲むのを静かに見守っている中、一番に口を開いたのはシカだった。
「何ってなぁ……簡単に言えば、の仕事にブチ当たちまったつーとこか……」
シカの質問に、持っていたカップをテーブルに戻して、が一瞬考えてから返事を返す。
「の仕事って、でも、今日は任務……」
「おう、今日は暗部の任務してたんだけど、それが終わった時にバッチリとな……」
の答えに、ナルが信じられないと言うように口を開くけど、それもあっさりと返事を返した。
嘘じゃないけど、全てじゃないの説明。
「だから、ナルトが来てくれて、本当に助かった。有難うな」
ニッコリと笑顔で礼を言うに、ボクはこっそりとため息をつく。
何が『だから』なのか分からないのに、ナルはその笑顔に全てをはぐらかされてしまうだろう。
「お、俺は何もしてない……でも、が無事で本当に良かった……」
素直なナルを前に、ボクは再度ため息をつく。
ナルの事は騙せても、シカはきっと納得していないと分かるから……。
『じゃ、ナルが入れてくれたお茶飲んだから、はもう寝る事。ナルとシカもアカデミーの為に寝た方がいいね』
だから、先手を打つ。
そう言えば、もう何も言えなくなると知っているから……。
それに、を早く休ませて上げたいと言うのも本音。
「うん。本気で不味いから俺は素直に休むな」
言うが早いかはそのまま『昼』と一緒に一瞬でその姿を消す。
「、大丈夫なのかなぁ……」
後に残されたナルが、心配そうな表情で天井を見上げた。
『これからチャクラ回復メニュー作るから大丈夫だよ。それに、ナルが作ってくれた回復茶で、少しは回復してるからね。心配しないで、ナルも休んでね』
ボクの言葉に素直にナルが頷くのを確認して、笑みを浮かべる。
本当にナルって可愛いとそう素直に思えるから……。
「で、シカマルはどうするんだ?」
ボクの言葉に従って休むために部屋から出て行こうとするナルが振り返って、シカに問い掛ける。
「おりゃ、もう少し本読んでるから、気にするな」
そんなナルに声を掛けられて、シカは持っている本へと視線を向けた。
「あんまり無理しちゃだめだぞ」
シカの返答にナルが呆れたようにため息をついて、心配するように言葉を継げると部屋から出て行く。
それを見送って一息ついた瞬間、鋭い視線を感じて苦笑を零す。
『で、何が聞きたいの、シカ』
その視線を辿るように振り返って質問。
「あんなんで、俺が納得するとは思ってねぇんだろう?」
真っ直ぐにボクを見詰めてくる黒曜石の瞳にボクは笑みを浮かべた。
『勿論思ってないよ。でも、納得してくれると有難いんだけど……だって、ボクも詳しい事分かってないんだよ』
「……まぁ、一緒に居たのは『昼』の方だしな……」
素直にシカの言葉に返事を返せば、それに納得したようにシカが頷く。
『そう。でも、説明するとすれば、『荒神』に捕まったってところかな』
そんなシカに、ボクは分かっている事だけど説明した。
「『荒神』?でも、今日のあいつの任務は、木の葉からそんなに離れた場所じゃ……」
ボクの言葉に、シカは驚いたように聞き返してくる。
うん、流石にの禁書を読んでるだけあって、それだけで理解出来るのは凄いかも……。
『うん、だからこそ、ボク達は戸惑っているんだよ。の知らない荒神が、木の葉の直ぐ傍に居る事に……』
「で、何とかなりそうなのかよ」
『今日は、逃げ帰るだけで精一杯だったみたい。もっと情報を集めないとなんともね……』
「つー事は、近い内に大きなの仕事があるって事かよ……」
本当に頭の回転速いよね。
そんなところは、凄いと思う。
『そうなるね……の体調が戻ってからだけどね……』
ボク達よりも強い荒神。
そうなると、ボク達にの手伝いは出来ない。
それが分かっているからこそ、複雑な気持ちになる。
「……場所教えてくれりゃ、俺の方でも調べてみるぜ」
考え込んでいたボクの耳に、シカからの申し出。
『シカ?』
「あんまり役には立てねぇけど、調べる事に関しちゃ俺の方が得意分野だからよ」
『うん、そうだね……分かった。『昼』に言って正確な場所を教えてもらうね……』
本当に有難いシカの申し出に、ボクは素直に頷く。
『呼んだか?』
その瞬間、と一緒に部屋に戻っていた『昼』が戻ってきた。
『『昼』、は?』
『もう休んでいる。かなり大変だったからな……で、オレの事を呼んだのは?』
戻ってきた『昼』にの事を訪ねれば、休んでいると言う事で、ホッと胸を撫で下ろす。そして、戻って来て一番に言われた言葉を再度口にした『昼』に、ボクとシカは顔を見合わせて苦笑を零した。
『シカがね、下調べを引き受けてくれるって……『昼』荒神の場所を教えてくれる』
シカの申し出そのまま『昼』へと伝えれば、少しだけ驚いたように『昼』がシカを見て、それから小さく息を吐き出してから、素直に説明をしてくれる。
今は、まだ何も出来ないけど、遠くない未来に一人でその荒神を何とかしなくてはいけない。
それが、の仕事だから……。
だけど今は、その時までもう少しの間、ゆっくりと出来ればいいと思う。
本当は、無視できるなら無視してしまいたいけれど、それがの仕事だと誰よりもボク達が分かっている事だから、だからこそ今は、がゆっくりと休めればいいとそう願う。
遠くない未来の為に、少しでもその仕事が楽になるように……。