「ナルト?」

 何時ものように里人からの暴行を受けて、傷が癒えるまでの間、身を隠している自分の耳に、最近聞き慣れてきた声が聞こえて来て驚いて顔を上げる。

「また、殴られたのかよ!!」

 自分が顔を上げる前に、服が汚れている事で何が起こったのか直ぐに理解した相手が声を荒げて、俺の腕を掴む。

「これぐらい、大丈夫だ」

 俺は捕まれた腕を、少し乱暴に振り払って、そのまま立ちあがった。

「大丈夫じゃない!ちょっとそこに座れ!」

 そいつを無視して歩き出そうとした俺の腕をまた掴んで、強引に座らされる。その瞬間、温かなチャクラの流れを感じた。

「……お節介……」
「お節介じゃねぇよ。ナルトが傷付いてんの見んのが、嫌なだけだ」

 ボソリと零した俺の言葉に、キッパリとした言葉が返されて、思わず苦笑してしまう。
 そう言うのが、お節介って言うんだって事、分かっているんだろうか?

「良し、完治!やっぱり、九尾のチャクラのお陰で、普通よりも俺のチャクラを必要としないよな。お陰で、俺はぶっ倒れる心配なく治療が出来ていいけど……」
「はぁ?」

 綺麗に傷がなくなったのを確認してから、満足そうに笑いながら言われた言葉に、俺は驚いて思わず聞き返してしまう。
 ちょっと待て!今、ぶっ倒れるって言わなかったか??

「なんだよ、急に変な声出して?」

 だが、聞き返した俺の声に、意味が分からないと逆に聞き返されてしまう。

「お、お前!さっき、ぶっ倒れるとか言っただろう!!」
「ああ?俺、そんな事、言ったか?」
「言った!間違いなく言ったぞ!」

 だから、思わず声を荒げて言えば、不思議そうに首を傾げる姿。ってか、ハッキリ言ってただろうが!!

「……う〜ん、無意識って恐ろしいよなぁ……」

 キッパリと言い切った俺に、何処か遠くを見るように顔を上げて、小さくため息を付く目の前の相手に、俺は複雑な気持ちを隠せない。
 確かに、治療のために遣うチャクラは、かなりの体力を消耗する。それが、酷い怪我になればなるほど力を遣う訳で、だったら、初めて会ったあの時、こいつは……。

「あ〜っ、だからって、今まで治癒術遣って、倒れた事はまだねぇぞ!ただちょっと、何時もより疲れちまうだけだからな!それに、ナルトは、九尾が力貸してくれるから、普通の奴よりも、全然力いらねぇし……って事で、納得してくんねぇ?」
「納得できるか!お前、医療忍者って訳じゃないんだろう!だったら、むやみやたらにその能力遣うんじゃねぇ!!」

 恐る恐る上目遣いで見てくる相手の言葉に、説教。
 なんで、俺がこんな事言わないといけねぇんだよ!!
 『昼』と『夜』の猫コンビは、どう言う風にこいつの事を育ててんだ!

「あ〜っ、確かに、俺は医療忍者じゃねぇけど、あれって、一般の治癒術じゃねぇから、気にすんな!」
「『気にすんな!』じゃねぇ!!遣ってぶっ倒れるようなモンを遣ってんじゃねぇって、言ってんだよ!!」
『ほらみろ、だからオレが何時も、言っているだろう』

 ぜーぜーと、肩で息をするぐらい乱暴に言った俺の言葉に続いて、誰かの声が聞こえてきて驚いて振り返る。
 そこには、こいつの育ての親代わりと言う白猫の『昼』の姿。

『器のガキ、いい事を言ってくれた。感謝するぞ』

 そして、嬉しそうに笑っての言葉に、俺は複雑な気持ちを隠せない。
 一体、何時から話を聞いていたんだ、この猫。

「『昼』は、俺と一緒に来たんだから、初めからここに居たぞ」

 思わず疑問に思った事に、答えられて苦笑を零す。
 殆ど変らない俺の表情を読む事の出来る奴なんて、この里にはいないと思っていたのに……。

『器のガキ!に、もっと言ってやれ!』
「いや、言ってやれって、お前こいつの親代わりなんだろう?」
『オレの言葉を聞くような奴なら、今まで苦労などしていない』

 切実に願う白猫の姿に、俺が問い掛ければ、キッパリと言い返されてしまう。
 それって、こいつが、全然言う事を聞かないって事だよな?

「お前、ちゃんと言う事聞いてやれよ……」
「そう言うナルトは、親代わりの三代目の言う事聞いてるのか?」

 呆れたように隣にいる奴にそう言えば、返された言葉に『うっ』と声を出してしまう。
 言われてみれば、俺もじーちゃんの言う事を素直に聞いているとは、到底言えない。

「結局そんなもんだって!」

 俺の反応にが嬉しそうに笑う。いや、否定出来ねぇけど、それで納得していいのか?

『……お前の言う事なら聞いてくれると思ったんだが、やっぱり無駄のようだな……』

 複雑な気持ちを隠せない俺に、盛大なため息をつく『昼』の呟きが聞こえて、思わず苦笑を零してしまう。

「あ〜っ、力になれなくって悪かったな……」
『気にするな。もう諦めている事だからな……」

 そんな『昼』に思わず謝れば、もう一度盛大なため息と共に、言葉が返される。それに、俺はもう一度苦笑を零した。どうやら、本気でこいつ等も苦労しているようだ。

「それんじゃ、話も一段落したようだし、ナルトはこれから、家で夕飯決定な」
「はぁ?」

 話の中心となっていた相手からの突然の言葉に、2度目の奇声を発してしまうのは、仕方ないだろう。
 何が、どうしてそうなってんだ??

「ほら、ナルト行くぞ!」

 そして、人の腕を掴んで、さっさと歩き出す人物には、俺の拒否権などないというのがありありと分かる。先程まで話をしていた猫も、当然とばかりに後に付いて来ている事を確認して、思わず盛大なため息を付いてしまった。
 だけど、捕まれている腕は、決して嫌ではない。

「……仕方ねぇから、ご馳走になってやるよ」
「おう!もっとも嫌だって言っても、聞いてやる気はねぇけどな!」

 仕方ないとばかり言った俺の言葉に、返されたのは笑顔とやっぱり、拒否は認めないと言う言葉。


 今日は、何時もと同じように最悪な日だと思っていたけど、こうしてこいつに会えてちゃんといい事だってあるのだと思えたそんな日だった。