今日と言う日は、自分が生まれた日。

 だからと言って、何も変わらなかった。
 そう、何てことない…いや、前の日が里の行事の為に機関が麻痺する為、何時も以上に忙しい一日。

 それだけだと認識していた筈なのに、今では祝ってもらう日となっている。
 大切な人達が俺の為に今日も準備をしてくれて居るだろう。

 俺は、この里にとっての亡霊。

 そんな俺の生まれた日を祝ってくれるなんて、申し訳ないように思っていたのに

 だけど、俺が生まれてきたからこそ、そんな大切な人達に出会えたんだと言われてしまえば、素直に祝われるしかない。

 だって、それは俺自身が一番良く分かっていることなのだから

 
 そう、生まれてこなければ、誰にも出会う事なんて出来ない。
 だからこそ、生まれてきた日を祝う。

 そんな当たり前の事を、自分はすっかりと忘れていた。
 と言うよりも、自分に対してだけその事が適用されないと思っていたのだ。

 でも、それは違うのだと教えてくれた人達が居る。





 名前を呼ばれて視線を向ける。

『準備が出来たようだぞ』

 リビング出入り禁止を食らってしまったので、自室で大人しくしていた俺を呼びにきたのは白猫の姿をしている『昼』。
 多分、何時ものようにリビングで慌しく準備をする二人を見ていただけだから、使われたって所だろう。

「うん」

 声を掛けられて、素直に返事を返す。

 でも、その後思わず笑ってしまった。
 そんな俺に、『昼』が不思議そうな表情を見せる。

「…何か、くすぐったい」

 自分が生まれた日を祝ってもらう事。
 こうして準備をしてくれる事が、今では当たり前になってしまった。

 自分が生まれた日だからといって特別な日だとは思っても居なかったから余計にそう思う。

『それは、いいことだな。お前が生まれてきた日を素直に祝われるようになっただけでも進歩だぞ』
「それは否定しない」

 ナルト達に会うまでの自分は、自分の存在を否定してきたから
 だからこそ、こんなにもくすぐったく感じるのだろうか?

、誕生日おめでとう!!」

 考え込んでいる中、突然部屋の扉が開いて勢いよくナルトが飛び込んで来る。
 その時に言われたその言葉に、俺はちょっとだけ驚いて瞳を見開いてしまった。

 だって、気配を全く気にしていなかったから……

「『昼』、お前囮だったな」
『何の事だ』

 その理由が分かって、直ぐ傍に居る相手へと文句を言っても全く取り合ってくれる筈がない。

「まぁ、作戦は成功って事だな」

 ナルトに続いて部屋に入ってきたのは、この里の頭脳とまで言われている策士。

 いや、うん、分かってたけど、そこまでしなくっても、今はちゃんと素直に祝ってもらってるのに、俺。

「俺、まだ信用されてないんだな……」
「信用してないわけじゃなくって、の事を驚かせたくって……」

 思わずボソリと呟けば、慌てたようにナルトが言い訳してきた。

 うん、分かってるけどね。
 でも、本気で驚かされたから、少しぐらい仕返ししても良いだろう?

 言い訳するナルトに、思わず笑ってしまえば、怒ってないという事が直ぐにバレてしまう。

!俺の事からかったな!」
「違うよ、本気で驚かされたから、仕返ししただけ」
「十分、からかってんだろう、それ」

 当然ナルトにバレて文句を言われたから、素直に返せば呆れたようにシカマルがため息をつく。

 だって、これは本当の事。
 俺と言う亡霊でも、こうして生まれた事を喜んでもらえる嬉しさ。

『もう!皆して遅いよ!!ナルと、シカは作戦成功したんなら、早く連れて来てよ!!』

 拗ねてしまったナルトを慰めるように口を開こうとした瞬間、またしても賑やかな声が聞こえてくる。
 突然空間から現れた黒猫の姿に、慌てだしたのはナルトとシカマルで……

「ご、ごめん。『夜』!」
「まぁ、確かに作戦は成功したっちゃしたんだけどな……」

 慌てて『夜』に謝罪するナルトと、ぽりぽりと頭をかきながら言葉を濁すシカマル。

「ごめんな、『夜』。俺がちょっとナルトに仕返ししてた……」
『あ〜っ、そう言うこと。、本気で気付かなかったんだね。『昼』の囮作戦成功だったんだ』

 そんな二人が気の毒で、俺が正直に理由を話したら、楽しそうな声が返された。

 ええ、本気で気付きませんでしたよ。

 だって、まさか同時に来るなんて思わないだろう、普通は!
 しかも、家の中に居るのに神経を研ぎ澄ませたりしてなかったんだから……

『なら、ボクからも言ってもいいよね?、誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、ボク達と生きてくれて、有難う』
「うん、『昼』と『夜』が居てくれたからこそ、今俺はここに居られるんだ。だから、有難う、俺を生かしてくれて……」

 死んだ母親の体から俺を取り出して、誕生させてくれたのはこの二人だ。
 この二人が居なければ、俺は今ここに生きて居られなかった。

 だからこそ、俺を大切にしてくれた二人に精一杯の感謝の言葉を返す。

『本当に進歩だな』
『うん、ナルと、シカのお陰だね』

 大好きな大切な人達に囲まれて、俺は自分が生まれてきた日を過ごす。

 それが、今の幸せ。


 まぁ、そのお陰で火影はかなり大変な思いをしているのはこの際気付かないフリをしておこう。