何時ものように里が悲しみに彩られていく。
 そんな里を何処か冷めた目で見詰めていたが、フト視線を空へと向ける。

「ここに居たのか?」

 それと同時に声が聞えてきた。

 気配を読んだ訳じゃないけど、時々何気ない事で彼が居るのが分かるようになったのは、ここ最近の事。
 アカデミー時代の時、シカマルが言った事は確かにその通りかもしれないと妙に納得してしまったのは内緒。
 まぁ、言った本人覚えてるか謎だけどな。


「何か、見えるのか?」

 相手の名前を呼べば、笑顔を見せながら、俺の隣へと座る。
 咎める必要もないので黙ってその動作を見守っていた俺に、が質問してきた。

「……哀れな里人が……」

 その質問に、俺はから視線を逸らしてまた里の方へと視線を戻した。

 ここは火影岩の上。悲しみに彩られた里人達には、この場所に居る俺達など気付くはずもないだろう。
 13年経った今でも、この里は、その当時の悲しみを忘れる事が出来ない。

「……そうだな、この里は、まだ何も変わっていない」

 里を見下ろす俺は、きっと何処までも冷めた目をしているだろう。
 里を見ていた俺の耳に、ポツリと聞えたの声でハッとして隣に居るを見た。
 俺と同じように里を見下ろしていたの瞳は、俺とは違って哀れみの瞳の色を見せている。
 それは、変わらない里人を思っての色。

「……」
「でも、子供達が居るだろう?未来を託される子供だけは、真実を知って貰いたい……」

 思わずその名前を呼んだ俺に気付いて、がその視線を俺へと向けてフワリと柔らかな笑顔を見せた。
 でも、口に出されたそれは、の本心。そして、願い……。

「ああ、その為にも、俺が里を変えてみせる」

 だから、俺もはっきりと口に出す。

 将来なんて何も望んでいなかった俺が、今はこの里に真実を知って貰いたいとそう思ったから……。
 表の俺が口にする『火影になる』と言う夢は、何時しか裏の俺にとっての目標にもなった。
 そう、それはこの里の影で消されてしまった日成一族の為に……。
 そして、二度と同じ過ちを繰り返さない為にも……。

「うん、ナルトなら、出来るよ」

 しっかりと口にしたそれに、は何処か眩しそうに俺を見て、頷いてくれる。
 それが、どれだけ俺に力をくれるのか、きっと知らないだろう。

 初めて、自分が護りたいと思った人。
 暖かな、本当に暖かな気持ちを俺に教えてくれた、大切な大切な人。

「それじゃ、何時までもこんな所に居ないで、家に戻ろう。『夜』が待ちくたびれてる頃だからな」

 そっと瞳を閉じた俺に、の声が聞えてその瞳を開き隣に居るを見る。

「そう言えば、今年もするのか?」

 促されるように言われたそれに、もう恒例となってしまった行事が、今年も行われるのだろうと思わず確認してしまった。

「勿論!ナルトが生まれた日だからな。あっ!遅くなったけど、ナルト、生まれてきてくれてありがとう……それから、誕生日、おめでとう」

 確認した俺に、は当然と言う言葉を返して、そして大好きな俺の笑顔を見せながら、毎年必ずくれる言葉を言う。
 それは、自分がこの世に生まれてきて本当によかったと思える一瞬。

「有難う、

 彼等に出会うまでは、貰ったことなど一度もなかったそれが、こんなにも嬉しい物だと知る事が出来たのは、自分にとっては、掛け替えのない事だろう。
 返した言葉に、優しい優しい笑顔が返される。
 この笑顔が、自分に生まれて来た喜びをくれた。

「ほら、帰ろう」

 スッと立ち上がって、差し出される手を、迷わず握り返す。

「ああ」

 そして、しっかりと頷いて返せば、また笑顔が返された。



 里が悲しみに彩られる今日、俺は何時も幸せ色に包まれる。
 それは、大切な人が、直ぐ傍に居てくれるから……。