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目の前で繰り広げられているこの状態に、俺はこっそりとため息をついた。
今年、俺達の班員となった周りには知られていない俺の幼馴染の。
この世の真実をその瞳に宿す力を持ち、更に誰をも従わせる事の出来る王者の瞳を持つ者。
そして、この里によって滅ぼされた一族の末裔。
本当はこの里の真の英雄である、うずまきナルトにとっては、もっとも近い存在と言ってもいいだろう。
だからこそ、表立って動く事をしなかったあいつが、自分の同期である下忍達と楽しそうに笑っているのを見るのは、本当に不思議な気分だ。
勿論、表でも当然のように話が出来るようになったのは、かなり嬉しい事だが……。
「シカマル!何黄昏てるんだってばよ!」
楽しそうにジュースの入ったコップを片手に俺に話し掛けてきたナルトに、俺はもう一度ため息をつく。
表のこいつは、どうしてこんなにも騒がしいんだろうか……いや、その理由は、ちゃんと分かっているけど……。
「お前なぁ、ジュースで酔ってんじゃねぇだろうな……」
ケラケラと楽しそうに笑っているナルトを前に、呆れたように言葉を返す。
まさに目の前の状況は、さながら宴会会場となっていたるのだから……。
おかしい、確か誰も酒などは飲んでいなかった筈なのに、何でこんなにはちゃめちゃな状態になってんだ??
「シカマル、お前もこの宴の主だろうが!飲め!!」
って、明らかに酔っ払いが絡んでくるようなその言い回しとともに、空になりかかっていたコップに並々とジュースが注がれる。
だから、なんでこいつ等は、ジュースで酔ってんだつーの。
「なんか皆出来上がってるみたいだね。大丈夫、シカマル?」
俺にジュースを注いで満足したキバがシノに絡みに行った瞬間、チョウジが心配そうに声を掛けてきた。
その手にはしっかりと料理が大量に乗っている皿を持っているのが、こいつらしいが今の俺にとってその気使いが有り難い。
「……やっぱチョウジだよなぁ……たく、何が悲しくってこんな騒ぎに巻き込まれなきゃいけねぇんだつーの。めんどくせぇ」
小さくため息をつき、俺はキバが注いでいったそれを飲む。
「気持ちは分かるんだけど、皆はみんななりに、シカマルやいのが生まれた事を祝ってるんだと思うよ」
「どうだか、ただ騒げる口実が出来て喜んでるだけじゃねぇかよ……」
俺の愚痴にチョウジが何時もの笑顔を浮かべながら言ったその言葉に、もう一度ため息をついて目の前で騒いでいる友人達を見詰めた。
賑やかに笑い合っているそいつ等に視線を向けた俺に、一人その輪に参加せず一歩引いた場所で事の成り行きを見守っているの姿が目に入り眉間に皺が寄るのが分かる。
完全に気配を消して、その存在自体を極限まで薄くしているから、誰も気付かないだろう。
「は、こんな騒がしいのってやっぱり苦手みたいだね」
俺の視線に気が付いたのか、チョウジが少しだけ困ったように口を開く。
この誕生日会と言う名目の宴会にが躊躇いながら来たはいいのだが、あろう事かは直ぐに帰ろうとしたのだ。
そう、俺といのにそれぞれプレゼントを渡してから、用事は済んだと言うように帰ろうとしたを引き止めたのは俺の親父。
多分、今回この誕生日会が開かれた場所が俺の家じゃなかったとしたら、何かに理由を付けて来てもいなかっただろう。
それが分かっているからこそ、複雑な気持ちを隠せない。
今の状態も、居るだけで、参加はしていないのだから……。そう、今あいつが居なくなったとしても、誰も気付かないだろう。
それほど、今のあいつの存在は儚いのだ。
じっと見詰めている俺の視線に気が付いたのか、賑やかにはしゃいでいるナルトやキバに視線を向けていたが俺の方を見た。
視線が交わった瞬間、フワリと何時もの笑顔が向けられる。
誰の心にも温もりをくれるその笑顔だけは、裏も表でも変わる事はない。
「やっぱり、のあの笑顔ってフンワリ出来るよね」
そんな笑顔を見せたに、一瞬俺も笑顔を返しそうになった瞬間チョウジの声が聞えて我に返った。
確かに、フンワリと笑うその笑顔は、俺やナルトのお気に入りだ。正直言えば、表であの笑顔を見せないで欲しいとそう思うぐらい、誰かに見せるのが勿体無いと思えるほどの笑顔。
「ああ……」
チョウジの言った言葉に、短く頷いて小さく息を吐く。
分かっているのだ。
あいつが、人を惹き付ける人間だと言う事を……。
「シカマル、疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
から視線を逸らして、机に膝を付く。そして、再度ため息をついた瞬間心配そうな声が聞えてきて顔を上げた。
「心配ないよ。毎年の事だからね。でも、はビックリしたんじゃない?」
だけど俺が返事を返すよりも先に、チョウジが笑いながらその質問に答えて質問で返す。
「……正直言うと、ちょっとビックリしてる……僕はこう言う風に誰かと騒いだ事ってないから、どうしていいのか分からなくって……」
チョウジの質問に、が少しだけ困ったような表情を見せて、正直に言葉が返された。
そんなに、チョウジは自分の隣に座るように進めているのは、流石と言えよう。
チョウジに進められるままに、は、俺とチョウジの間に素直に座る。
「でも、楽しいよね?」
さり気にの持っていたコップにジュースを注ぎながら、チョウジが再度質問。
それに、一瞬考えるような素振りを見せてから、素直にコクリと頷く。
「うん、楽しい……それに、このお祝いは、シカマルやいのがこの世に生まれてきた事を感謝してるんだよね。とっても大切な日だと思うよ」
そして、フワリと笑顔を見せてのその言葉に、俺は知らず手で顔を隠した。
たく、なんでんな恥ずい事を当然のように言えるんだ、こいつは!
自分でも分かる、顔が赤くなっているのを誤魔化すように二人から逸らした。
そんな俺の心情を、この二人なら的確に悟ってくれると分かっているからだ。
これがキバや表のナルト相手だと絶対に覗き込んでくるのは目に見えている。
顔を逸らした先では、その人物達が賑やかに笑い合っているのが視界に入り、思わず苦笑を零してしまった。
後ろからは、楽しそうに笑っているチョウジとの声。
笑っている理由が分かっているからこそ、不機嫌を装うってしまう。
「それに、こうして皆と一緒の時間が持てる事が、僕にとっては信じられない事だから……」
一通り笑った後、ポツリと呟かれたその言葉に、俺は驚いて振り返った。
チョウジも言われた事の意味が分からずに、を見ている。
「僕にとっては、毎日が夢や幻に近い……だけどね、皆と一緒に居ると生きてるんだって思えるんだ」
驚いて俺達が見詰める中、は賑やかに笑い合っているナルト達を何処か眩しそうに見詰めながら続けた。
言われたそれは、の事を知っている俺には十分納得出来る言葉かもしれない。だけど、を知らないチョウジにとっては、納得出来ない言葉だろう。
「僕も、に会えた事、良かったと思うよ。だって、それは全部生きているから、この世に生まれて来たからこそ出来る事だと思うから」
だけどチョウジはやっぱりチョウジだった。
がどんな気持ちでそれを言ったのかを本能で感じ取って、笑顔で的確な言葉を返す。
言われたそれに、一瞬は驚いたような表情を見せたが、それは本当に一瞬の事でそれが直ぐにフワリと柔らかな笑顔を作った。
「うん、そうだよね……有難う、チョウジ」
自然な笑みで礼を返すに、チョウジもニコニコと嬉しそうな笑顔を見せている。
本当に、のお気に入りな訳だよなぁ……俺も、チョウジのそう言う処は本当に凄いと思えるのだ。
本能で相手を理解出来るのは、きっとこいつだけに与えられた能力。
「にシカマル、チョウジ!何三人で話ししてるんだってばよ。ほら、これからゲームするから、お前等も来るってば!」
鮮やかな二人の遣り取りに一瞬和んでいたその瞬間、楽しそうな声が俺達の名前を呼んで現実へと引き戻された。
一番最初にの名前を呼んでいる事が、ナルトの心情を物語っているように見えるのは、俺だけだろうか?
ナルトに呼ばれて、三人で顔を見合わせてから思わず苦笑を零してしまう。
だが、呼ばれているのだから行かなければ、後でどんな文句を言われるのか分からない。そんな面倒を避ける為に、俺達は同時に立ち上がった。
「そうだ、シカマル。一日遅いけどちゃんと言わないとダメだから……誕生日おめでとう。そして、生まれてきてくれて有難う」
立ち上がった瞬間、チョウジは一番にあいつ等の方へと歩いていく。それを見送って歩き出そうとした俺に、が思い出したと言うように笑顔で言葉を伝えてきた。
それは、昨日も散々聞いた言葉。
だけど、表では初めて聞く言葉だった。
それだけを伝えて、満足したのだろうは、チョウジに続いてナルト達の元へと歩いていく。
「シカマル?」
俺以外の人間が一ヶ所に集まった中、何時までも来ない俺に不思議に思ったのだろう、ナルトが名前を呼んだのが聞える。
俺はといえば、折角立ち上がったと言うように、またその場に座り込んで、赤くなった顔をただ手で隠す事しか出来なかった。

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