昨日は、何時のようにクリスマス・イブのお祝い。
 二人は毎年影分身作って里の行事に参加して、俺は何時ものように欠席で……。

 いのやチョウジにもちゃんと説明してるから、心配される事はないと思うけど、なんて言うのかこの状況って……。





 今年は珍しくシカマルの親父さんとお袋さんがパーティーの後家に来た。
 それは勿論大歓迎なんだけど、それが問題の発端。

 『昼』は親父さんが来たことで、秘蔵の酒だと何処に隠していたのか大量の酒を出してきた。
 勿論、俺は酒が飲める方だから問題ない。
 シカマルも、小さい頃から飲まされているから全然問題ないだろう。
 だけど、お酒が初めてだと言うナルトにお酒を飲ましてこんな状況になってしまった事は問題大有りだ。

「ナルト、ほらしっかりしろよ」

 完全に出来上がっているナルトは俺に抱き付いて離れない。
 いや、懐いてくれるのはすごく嬉しいんだけど、俺はそのお蔭で動けないのが現状だ。

『ナルってば、寝ちゃったの?』

 無理矢理引き剥がす事は絶対にしたくないから、そのままの状態で居る俺に、『夜』が声を掛けてくる。

「いや、半分寝てるかもだけど、一応まだ起きてるみたいだぞ」

 『夜』の質問に、ナルトの顔を覗き込んで返事を返す。
 まぁ、今にも意識を飛ばしそうな状態だけど、何とは瞳を半分くらい開いて眠気と格闘しているナルトの状況は正直言って可愛い。
 可愛いんだけど、この状況はそれでいいのだろうか?

は、ずるい……」

 内心困っている俺に、ポツリと呟いたナルトのその声が聞えて、思わずその思考を停止してしまった。

 ず、ずるいって、俺が??

「ナ、ナルト?」

 行き成り言われたその言葉に、思わず名前を呼ぶ事しか出来ない。

 なんで俺、ナルトにずるいって言われてるんだろう?な、何かナルトを怒らせるような事したんだろうか??
 停止していた思考が動き出した瞬間、グルグルと不安が過ぎる。

「……は、ずるい……」

 だけど俺のその問い掛けに答える事無く、ナルトがもう一度同じ言葉を呟く。

 ほ、本気で俺って何かしたんだろうか??
 頭の中では、今日の事が思い出されているけど、これと言ってナルトを怒らせるような事はなかったと思う。って、それは俺が気付かなかっただけど、本当は何か変な事でもしたんだろうか??

『ナル、の何がずるいの?』

 グルグル考え込んでいる俺に、その代わりと言うように『夜』がナルトへと質問。
 それに漸く我を取り戻して、思わずナルトへと視線を向けた。

「……俺やシカマルの事は何を置いても祝おうとするのに、俺達には祝わせてくれない……」

 『夜』の質問に、ナルトが素直に説明してくれる。

「ナルト!いいこと言ったな!もっと言ってやれ!!」

 その言葉を聞いて、親父さんが少しだけ酔っ払った状態でチャチャを入れる。
 いや、ちょっと待て!確かに去年はそうだったかもしれないけど、今年はちゃんと祝ってくれる事が嬉しいって言ったはずだぞ!

 そんでもって、何よりも!

「な、何でそこで『ずるい』なんだ?」

 ソレは何か違うような気がするんだけど……。

「ずるいんだ!だって、俺は、シカマルに教えてもらうまで、お前の誕生日知らなかったんだからな!!」

 思わず疑問に思った事が素直に口から出てしまう。
 そんな俺の疑問に、ナルトがキッと俺を見上げてきて言われたそれに、一体俺は何と返せば良いんだろうか……。

は、俺の誕生日知ってたのに、俺はの誕生日知らなかった。だから、ずるいんだ!」

 いや、えっと、酔っ払いの理屈って……。

 フンッと威張ったように言われたその内容に、俺は返事を返す事が出来なかった。
 えっと、ソレはつまり……。

『器のガキは、奈良のガキに嫉妬していたんだな』

 そして、俺の考え付いたソレをサラリと口にしたのは、大好きな酒を飲んで上機嫌な『昼』だった。

「なっ、ち、違うってば!嫉妬なら、シカマルに文句言うってばよ!!」

 『昼』の言葉に、ナルトが真っ赤になって全面否定。んっでもって、慌ててるからなのか、ドベ口調。

「……って、勝手に人の名前だしてんじゃねぇよ。それに、十分俺に文句いってんじゃねぇかよ、めんどくせぇヤツ」

 そんなナルトに、今まで黙って酒を飲んでいたシカマルまで口を開く。
 えっ?シカマルに文句なんて言ってたか??

 だけど、その内容に俺は思わず首を傾げてしまった。

「ナルト、シカマルに文句なんて言ってないだろう?」

 今の会話からは、ナルトがシカマルに文句を言っているようには聞えなかったんだけど……。

「………鈍いヤツ…」
「あらあら、ナルトくんは本当にくんのこと大好きなのね」

 俺が疑問に思った事に、シカマルが呆れたようにポツリと呟いて、お袋さんが微笑ましいと言うようにコロコロ笑っている。
 いや、鈍いって……何処が??

「ち、違う!」

 お袋さんの言葉に、ナルトが慌てて否定してるけど、その顔が真っ赤になってるのは気の所為だろうか?
 でも、どうも俺一人その内容から取り残されているように思うのは気の所為……。

 うっ、それって、俺が鈍いって事なのか??
 混乱してきた頭の中で、グルグルとする疑問。

「違わねぇだろうが……めんどくせぇ奴」

 慌てて否定したナルトの言葉に、シカマルが何時の口調とため息一つ。
 いや、うん、なんて言うかそれって火に油……。

「ち、違うって言ってるだろう!!」

 案の定、真っ赤な顔のままナルトがシカマルに食って掛かる。
 ああ、何か表のナルトがうちはを相手にしてるみたいだよなぁ……。

「ムキになるところが肯定してるつーの……大体、にべったりの状態で否定されても説得力ねぇだろうが」

 そこで終われば、良かったんだろうけど、今日のシカマルは実は酔っているのか良く喋る……。
 しっかりと突っ込みを入れてくれた。
 シカマルに言われて、ナルトが勢い良く俺から離れる。

 あっ、ちょっと寂しいかも……。

「ち、違うからな!」
「うん、分かってるから……俺がずるいのも、分かったから、落ち着いて、ナルト…ごめんな」

 そして、俺に慌てて弁解。それに苦笑を零して、俺はポンポンと優しくナルトの頭を撫でてやる。
 嫉妬云々は良く分からないけど、俺がずるいと言ったナルトの気持ちは分かるから……だから、それを認めて素直に謝罪の言葉を口に出す。

「……違う、そんな言葉が聞きたかった訳じゃない……やっぱり、はずるい……」

 だけど、謝罪した俺に、ナルトは今にも泣きそうな表情を見せる。
 って、俺、何か悪い事言ったのか??

「…ナル坊のが欲しかった言葉はそんな言葉じゃねぇぞ、
「そうね、ナルトくんはね、くんの事が大好きだから、だから『ずるい』って言ったのよ。だって、大好きな人が生まれた日を祝いたいと思うの当然の事でしょう?」

 困惑した俺に、親父さんとお袋さんが少しだけ困ったように説明してくれる。
 優しく質問されたそれに、俺は素直に頷いた。

「だったら、今伝えるべき言葉は、『ごめんなさい』なのかしら?」

 優しく微笑んで言われたその言葉に、俺ははっとする。
 そうだよなぁ、言われるまで気付けなかった。確かに、今ナルトに言わないといけない言葉は……。

「……うん、有難う、ナルト」

 言われるまで気付けなかった自分が情けない。
 やっぱり、こればっかりは生きてきた時間の問題なんだろうなぁ……。
 俺も、やっぱり年相応って事なんだろう。ここに、親父さんとお袋さんが居てくれてよかったかも…。

「……、うん……でもでも、ずるいって言葉は撤回しない、やっぱりはずるい!」

 素直にお礼を言った俺に、ナルトは一瞬瞳を見開いて俺を見たけどそれが、嬉しそうな笑顔になる。
 だけど、しっかりと釘は刺されました。
 俺は、ずるいままらしい……なんでだろう??

、誕生日おめでとう、これからも、ずっとずっと、言い続けるからな!」

 そして、続けて言われたのは、俺への祝の言葉。
 時計を見れば、何時の間にか日付は俺の誕生日を迎えていた。

「……有難う、ナルト。毎年、その言葉を楽しみにしてるよ」

 だって、祝ってくれるその言葉は、今俺がここに居てもいいのだと、そう言ってくれているから……。
 満足したのかナルトが嬉しそうに笑って、そのままふーっと、後ろに倒れていく。
 それに驚いて、俺は慌ててナルトを抱き止めた。

『あらら、ナルってば、完全に潰れちゃったね。でも、すごく満足そうな顔してるよ』
「……今年も、先越されちまったか……、誕生日おめでとう」
「おめでとう、くん」
「めでてぇなぁ。つー事で、『昼』もっと飲むぞ!」
『当然だ。奈良の、まだ飲むぞ』

 って、後の二人はまぁ、置いといて、次々に言われた俺への祝の言葉に、俺はただ笑顔を返した。

 去年まで拒絶していた言葉。
 だけど、今その言葉を受け入れられるのは、俺の腕の中で幸せそうに眠っている存在がるから……。

「有難う」

 だから素直に、感謝の言葉を口に出す事が出来るのだ。
 ああ、そりゃずるいって言われえも仕方ないよな。だって、俺は祝ってくれる人たちが居るのに、それを拒んでいたのだから……。

『それじゃ、ナルは部屋に連れて行くね』

 俺が抱えているナルトに、『夜』が苦笑を零しながらその体を預かると言うように言われたそれに、素直に頷く。
 ここで寝かせると、ナルトが風邪ひいたら大変だし。
 だけど、ナルトを『夜』に引き渡そうとした時、くんっと服が引っ張られた。
 それに気付いて視線を下へと向けると、ナルトがしっかりと俺の服を掴んでいる。

『これじゃ、連れて行けないね』

 それに気付いた『夜』が苦笑を零す。

「う〜ん、無理に離す事はしたくねぇから、『夜』悪いけど、毛布持ってきてくれるか?」
『分かった』

 本当はちゃんとベッドで寝かせて上げるのが一番いいんだと思うんだけど、それは俺が休む時に連れて行けばいいから問題なし。
 今日も、俺達3人はお休みを貰っているわけだからな。

「お前、ナルトを甘やかし過ぎだ」

 そう考えていた俺は、呆れたように言われたシカマルの言葉に、意識を相手へと向ける。

「シカマル?」
「めんどくせぇが、俺からも言ってやる。お前はずるい」

 いや、面倒なら言わなくっても……って、シカマルからもずるいを貰ってしまった。

「あらあら、本当にシカマルが可愛いわ」

 って、お袋さんそう言う問題じゃないように思うんですが……後の二人は、楽しそうに酒飲んでるし……。
 滅多に見られない拗ねているシカマルに、お袋さんは嬉しそうに笑っている。

「楽しまないで下さい……」
『持ってきたよって、何かあったの?』

 そんなお袋さんを前に、俺がため息をついた瞬間毛布を持って戻ってきた『夜』が不思議そうに首を傾げた。

「いや、何でもない……」
「何でもなくねぇだろうが!俺には、言葉を返しちゃくれねぇのかよ」

 それを受け取って、ナルトに掛けてやる。
 だけど、その返答が気に入らなかったらしいシカマルが、文句を言う。
 きっと、シカマルも珍しく酔っているんだ、きっとそうだ!

「………有難う、シカマル」

 自分にそう言い聞かせて、シカマルへもナルトへ返した礼の言葉を返す。
 少し間があいたのは、俺の葛藤の時間だ。
 俺の返答に満足そうに頷いて、シカマルは何時ものように読書の時間に入る。

「シカマルもナルトくんも、本当にくんの事が大好きなのね。ねぇ、くん、忘れないで、私もあの人もくんの事を本当の息子のように思ってるんだって事」
「お袋さん」

 親の温もりを知らない俺に、その温もりを教えてくれた人。
 優しく微笑みながら初めて抱き締められた時の事をボンヤリと思いだす。
 あの時、俺は初めて人の温かさを知ったのだ。

「有難う」

 だから、精一杯の俺の思いを言葉に載せる。俺がこの里を嫌いになれないのは、誰しも、この温かな心を持っている事を知っているからだ。

「どう致しまして、これからも、シカマル共々宜しくね」

 ニッコリと笑顔を見せるお袋さんに、俺もただ笑顔を返した。


 俺が生まれた日。
 今日、また沢山の温かな心を貰った。
 今なら、俺を生かしてくれたお袋に心から感謝出来る。
 生まれて来たからこそ、俺はこの温かな心に触れられたのだから……。