ナルトからのリクエストで、今年の誕生日ケーキはモカケーキ。
 他のリクエストも聞きたかったんだけど、他は何でもイイと言う返事だった……。

 う〜む、ナルトの好きなものなぁ……。

 何でも美味しいって食ってくれるから、何が一番好きなのか検討もつかねぇよ。それに、ナルトって、そう言うのさり気無く隠すの上手だし、嫌いなものなら何となく分かるんだけど……。

!何料理の本と睨めっこしてるの?ナルの誕生日をお祝いする料理作ってるんだと思っていたのに……』

 ぼんやりと料理の本片手に考えていた俺は、突然名前を呼ばれて我に返る。

「『夜』?」
『何か手伝おうと思って来たのに、ってば本見たまま動かないし、でもケーキはちゃんと作ってるんだね』
 自分の名前を呼んだ相手を確認するように名前を呼べば、呆れたように返されて思わず苦笑してしまう。
 確かに、料理を作る気は満々なんだけど、何作るかが決まってねぇから、こうして本を片手に考えてたんだけど……。

「ケーキはリクエスト貰ったからなぁ……『夜』は何が食いたい?」

 オーブンで焼けているケーキを覗き込んでいる『夜』に、俺は小さくため息をついて本を閉じると質問してみる。

『今日はナルの誕生日だから、ボクの好みよりも本人に……って、それでケーキしかリクエストもらえなかったんだ……』

 俺の質問に、『夜』がもっともな事を言い掛けて、その前の俺の言葉で納得したように呟かれたそれに、俺は頷いて返した。
 モカケーキが食べたいって言うのはしっかりとリクエストもらえたんだけど、料理に関してのリクエストはもらえなかったんだよなぁ……。
 シカマルの好みなら何となく分かるんだけど、ナルトの好みってどうだろう……ラーメンを出す訳にもいかにしなぁ……その前にそんなに美味しいラーメンなんて俺には流石に作れない。

『ナルの好きなモノって、の作った物だったら何でも喜んでくれそうだけど?』

 本気で考え込んでいた俺に、『夜』があっさりと言ったそれに思わず頭を抱え込んでしまう。

「それ、ナルトからも言われた。だから余計に困ってるんだよ!」
『そっか、言われたんだ……えっとね、ナルはね、結構シカと同じで和食モノが好きみたいだよ』

 本気で返した俺に、『夜』が納得したように頷いて、そして、嬉しい情報を教えてくれる。
 そうか、言われてみれば、確かに洋食よりも和食の方が好きみたいだよなぁ……。
 味噌ラーメン好きなのも、その為かも。

「んじゃ、和食メニューで考えるか」

 秋って言えば、きのこか?きのこ使った和食料理………。

「『夜』さん、何も思い浮かびません!」

 早速考えてみたけど、何も思い浮かばない。
 我ながら、情けないと思うのは気のせいではないだろう。

『もう!本当に何でも良いんだよ。シカの時には鯖の味噌煮に、和え物スマシ汁にご飯は炊き込み系だったんだから、ナルの場合もそうやって考えればいいと思うよ』

 素直に助けを求めた俺に、『夜』がため息を付いてアドバイスしてくれる。

「う〜ん、それが困るんだけど……つーか、モカケーキに合う和風料理ってどんなだ?」

 だけど、ナルトからはケーキのリクエストは貰ってるわけだから、シカマルの時のように和食で統一って言うのは難しい。
 その前に、モカケーキって何となく洋食って気がするんだけど……。

『……それ考えると、何も出来ないかも………とりあえず!』
「とりあえず?」

 その事を言えば、『夜』も気が付いたのだろう一瞬考え込んでしまう。
 だけど、続けて言われた言葉に、俺は思わず聞き返した。

『ケーキ焼けたみたいだよ』

 だけど、聞き返したそれに返された言葉を聞いた瞬間、思わず脱力してしまっても仕方ないだろう。

「『夜』!」
『だって、何にも思い付かなかったんだもん。ボク、ナル以外のみんなにも聞いてくるから!』

 少しだけ怒ったように名前を呼べば、『夜』が慌てて部屋から出て行った。
 あれは、逃げたな。まぁ、気持ちは分からなくも無いんだけど、さて、本気でナルトへのお祝い料理どうすっかなぁ……。

 大きく息を吐き出して、俺はまた本を広げて真剣に考え込む。



『もう、ナルの所為なんだからね!』

 行き成り部屋に入ってきた瞬間文句を言われて、俺は意味が分からずに素直に首を傾げた。

「行き成りどうしたんだ?」

 確か、が一人で料理作ってるはずだからって、手伝いに出て行ったはのに、戻ってくるなり文句を言われるなんて意味が分からない。

『ナルがちゃんとに食べたいモノ言ってくれてないから、何作っていいのか分からずにが途方にくれてたんだよ』

 思わず質問した俺に、『夜』が怒ったように言葉を続ける。
 言われた俺は、その言葉に思わず苦笑を零してしまう。

「だって、の作る料理は本当に美味しいから、だから何でもいいって言ったんだけど……」
『知ってる。何でもいいって言うのが一番難しいんだよ!』

 だから、素直に思っている事を返せば、逆に怒られた。

「あ〜っ、めんどくせぇが、そりゃあいつにとっちゃ嬉しい悩みだろうが……放っておけばいいだろう」

 何て返せばいいのか分からない俺に代わって、シカマルが何時もの口調と共に本から視線も逸らさずに口を開く。

『そうだな。も分かっていた事だろう。好きにさせておけ』
『そう言うけど、このままだと夕飯何時になるか分からないんだからね!』

 シカマルに続いて『昼』までも寛いだまま口を開けば、『夜』がこれが一番大事だというよう言ったその言葉に、俺達はピタリとその動きを止めて、思わず一斉に『夜』へと視線を向けてしまう。
 確かに、このままが悩んだ状態だとそれも有りえる事だ。
 別段夕飯が何時になっても俺は関係ないんだけど、3食しっかりと同じ時間に食べろと言っている『昼』にとっては大問題になるのだろう。

『……分かった。器のガキ、に食べたいものを言って来い!』

 一瞬考えてから、キッと俺を睨むような視線を向けて、あっさりと続けられたそれに予想はしていたけど、返事に困る。

「食べたいモノがどれか分からないから、そう言ったのに……」
「諦めて、さっさとリクエストしてくりゃいいだろうが……後は、思い付いたモン並べりゃあいつも納得する」

 だけど、そんな俺の言葉を納得してくれる人は誰も居なくって、シカマルもあっさりと人を売ってくれた。
 確かに、言えばは納得して何でも好きなモノを作ってくれると思う。
 思うんだけど、そんなに考え込まなくってもいいと思うんだけど……俺の生まれた日だからって……。

『器のガキ、その考えは間違っているだろう。それをの前では絶対に言うなよ』

 考えた事にため息をついた瞬間、『昼』が少しだけ怒ったように俺を見詰めて、まるで考えを読んだように言葉が続けられた。
 一瞬それに驚きを隠せない。

『お前の考えた事は、顔に出ているぞ』

 ビックリして『昼』を見た俺に、『昼』が呆れたように理由を教えてくれた。
 その内容に、思わず自分の顔を手で触ってしまう。

「確かにそりゃめんどくせぇが、こいつの言葉に間違いはねぇなぁ。そんな事考えちまったお前が悪い。つー事で、にしっかりとリクエストして来い!」

 そんな俺に、シカマルが楽しそうににやりと笑って、決定事項を述べられる。

『そんな訳で、ナルは強制的にキッチンに直行!』

 言うが早いか、『夜』は俺の腕を取って気が付いた時には、目の前に本を片手に微動だにしないが目の前に居る状態だった。

 あの二人、絶対に厄介払いしたかっただけだってばよ……。

 そう心の中で、もう目の前には居ない二人へと文句を言っても仕方がないと分かっていて、小さくため息をつく。
 その瞬間フワリと香る匂いに、俺の顔が知らずに笑みを浮かべてしまう。

 モカケーキ、本当に作ってくれてるんだ……。

 そんな些細な事で嬉しくなってしまう。は、頷いてくれた事は実行してれるって知ってるのに……。



 そんな自分の心情を隠して、小さく声を掛けてみる。
 だけど、真剣に本と睨めっこ状態のには聞えない。
 普段は、あんなにも人の気配には敏感なのに、家に居る時のは本当に寛いでいるのが良く分かる。

!」

 今度はもう少しだけ大きな声で名前を呼んだ。それでも、目の前のは反応を返してくれない。
 そんなに、今読んでいるのは面白いモノなのだろうか……って、読んでるのは料理の本だし……。

『ナ〜ル、今のにはそんな声じゃ聞えないよ。集中してる時は耳元で読んでも反応しない時があるからね』

 真剣に虚しくなってきた俺に、『夜』が呆れたように助言してくれた。
 それって、本に真剣になってるシカマルよりも性質が悪いかも……。

「もう、仕方ないってば、ね」

 それを聞いて、俺は本当はそんな事思ってないのに、呆れたようにため息をついてそっとに近付いた。

!」

 そして、本ととの間にひょっこりと顔を出す。

「わっ!!!って、ナ、ナルト?!何だ、どうしたんだ??」

 突然俺の顔が覗き込んだもんだから、の驚きは多分普通じゃないと思う。
 本気で驚いているのが、慌てて俺から数歩離れてドモっていることからも良く分かる。こんな、初めて見たかも……。

「『どうした』っていうのは、こっちのセリフ。何度も呼んだのに、気付いてくれなかったのは、だし……」
「うっ、ごめん……マジで気付いていませんでした……」

 呆れたように俺が返せば、素直に謝罪してくれるに、俺は苦笑を零す。

「まぁ、それは別に気にしてないんだけど……俺がにクエストしなかったから、が悩んでるって聞いたんだけど」
「それ言ったの、『夜』だろう……」

 それから隠しても仕方ないから、自分かここに居る理由を正直に話せば、恨めしそうに近くに居た『夜』を睨みつけた。

『ボクの他に誰が言うの?もう、が変な事で悩んでるから、夕飯が決まらないんだからね!』

 そんなに、『夜』が呆れたように返せば、「うっ」とが言葉に詰まる。

「そうなんだよなぁ……本気でどうすっか……ナルト、今からでもリクエスト聞くけど……」
『その為にナルを連れて来たんだよ。ほら、ナル!』

 小さく息を吐き出して、が再度俺に困ったような視線を投げてきたそれに、『夜』が呆れたように俺を促した。

「えっと、思い浮かば無いんだけど、一緒に料理作るのじゃダメ?」
 促された俺は、一生懸命考えたけど、やっぱり何も思いつかなくって、精一杯考えた末に思い付いたそれを妥協案として提示してみる。

 思わず上目使いでの様子を伺う俺は、一体の目にはどう写っているのか分からないけど、見詰めている中、少しだけ困ったような笑顔を向けられてしまった。

「ダメじゃないけど、主役に手伝ってもらうのは、なぁ……分かった。ナルト、この本でこれ食ってみたいのを言ってくれ、それを作るから!」

 そして、言われたと同時に持っていたその本が渡される。
 渡されたそれを素直にぺらぺら捲ってみると、どれもすっごく美味しそうな写真付きの料理本。

「……決められないんだけど……」

 ザッと目を通したその本からも、やっぱりどれを食べたいと言うのは選べなかった。
 いや、本当にどれも美味しそうで、全部って言ってもいいぐらいで……。

『もう、仕方ないなぁ……ナル、目を閉じて、一番初めに思い付いたものを口に出して!』

 困ったように呟いた俺に、『夜』が呆れたようにため息を付いて助言してくれる。
 それに従って、俺は素直に瞳を閉じた。
 が作ってくれる中で、俺が一番食べたいと思うモノ。それは……。

「天ぷら!」
「はぁ?」

 思い付いたそれに、一瞬訳側からないと言うようにの声がする。
 だって、一番に思い付いたのがそれだったんだから仕方ない。

「天ぷらって、何の?」
「何でも!サクサクの衣の天ぷらが食べたい!」

 俺の申し出にが再度質問。
 だけど俺は、あっさりとその質問に返せば、困惑したの表情。
 そりゃ、自分の誕生日に天ぷら食いたいなんて言うのは、俺くらいだろう。

『良かったね。ナルの食べたいものが決まったから、今日の夕飯も決まり!それじゃ早速料理に取り掛からなきゃだね』
 俺がリクエストした事で、満足そうに『夜』がを促す。

「えっと、それじゃ、掻き揚げと、挟み揚げ……う〜ん、エビ天にイモ天……」

 の方も、俺がリクエストしたから、何の天ぷらにするかをグルグル考えている。

「天ぷらだけじゃアレだから、和え物作って、汁物はすまし汁かな?」
「うん、それでいい!食後にが今作ってくれてるモカケーキでお茶しよう。俺も天ぷら作るの手伝うし!」

 どんどんメニューを決めていくに、俺も提案。
 って言っても、メニューを考えた訳じゃなくって、と一緒に夕飯を作りたいって申告。

「いや、だからナルトは今日の主役だから……」
「主役だからお願いしてるんだ。と一緒に準備したいって!」
の負け。ナルの言うように、今日はナルが主役だから、主役の言う事はちゃんと聞いてあげなきゃね』

 俺の言葉に、『夜』が楽しそうに後押し。
 そのお陰で、が折れてくれた。

「確かに、そうだな……それじゃ、ナルト一緒に作ろう!」

 返されたそれに、俺は大きく頷く。
 それから、しっかりと3人で俺のお祝い料理を作った。
 綺麗に盛られた料理は、俺とが一緒に作ったモノ。

「んじゃ、少しだけ遅くなったんだけど、ナルト、誕生日おめでとう。それから、料理作るの手伝ってくれて有難うな」

 並べられた料理と、一緒に言われた言葉に、俺は知らずウチに笑みを浮かべた。
 昨日も聞いた俺への祝の言葉。
 だけど何度聞いても嬉しくなるのは、大好きな人が言ってくれるから……。

「うん、俺もと一緒に料理作れて嬉しかった」

 口々にお祝いの言葉を告げられて、俺は笑顔でそれに答える。


 来年も再来年も、こうやって過ごせる事を心から願いたい。
 一緒に居られることが、今の俺の一番の望みだから……。