「ナルト」
突然名前を呼ばれて、驚いて顔を上げる。
任務が終わって直ぐ、後は解散と言う時に現れたその人は、前髪で顔の半分を隠してクロブチ眼鏡でその瞳を隠した人。
「、どうしたんだってば?」
もうとっくに任務が終わって帰っているだろうと思った相手だけに、驚きを隠す事が出来ない。
「もう、終わった?」
俺の質問に、が質問で返してくる。
それに俺はカカシへと視線を向けた。
まだ、解散と言う言葉を聞いていないと言う事は、まだ終わっていないと言う事。
「ああ、もう終りだ。今日もご苦労さん……明日は慰霊祭だから任務はお休み。明後日は何時ものように任務あるから遅れてきちゃだめよ」
「それは、カカシ先生だってばよ!」
「そうです、遅刻しないで下さいね」
「ナルトも、サクラも酷いねぇ。それじゃ!」
軽く手を振ってそのまま姿を消すカカシの姿を見送る。
本当に、時々抹殺したくなる。何であんな奴が担当上忍やってんだよ。そんなに強くもねぇくせに!!
「それじゃ、私達も帰るわね」
カカシを見送った後、サクラがため息をついて、当然の言葉。
任務が終わったのだから、何時までもここに居ても仕方ないと言ったところだろう。
「サクラちゃん、ついでにサスケもバイバイ!」
踵を返したサクラとサスケに、ドベの俺らしく手を振る。
「ナルトも早く帰るのよ」
俺の言葉に、サクラがお姉さんのように、そんな事を言って手を振りながらサスケと並んで歩いて行く。内心では、サスケと二人で帰れる事を喜んでいるんだろう。
「、お待たせってば」
そんな二人を見送ってから、俺は静かに事の成り行きを見守っていたへと声を掛ける。
「突然お邪魔した僕が悪いんだから、気にしなくっても、大丈夫だよ……」
姿は見えなくなっても、まだ二人の気配が近くにあると言う事もあってか、は表のまま少し困ったような笑顔を浮かべた。
俺の大好きな瞳は、前髪に隠れて見えないのが残念だと思った自分に思わず苦笑を零す。
「でも、どうしたんだってば、が来るなんて、珍しいってばよ?」
俺も誰が来るか分からない場所と言う事で、表の自分を演じながら、へと質問。
勿論、誰かが来たとしても、気配で気付く自信はあるんだけどなって、考えている傍から、よく知った気配がまた戻ってきている事に気が付いて、と同時に苦笑を零した。
それは、本当に一瞬だけで、直ぐに何時もの表情を見せる。
「本当は明日直接渡そうかどうしようか迷ったんだけど、明日は忙しいと思うから……これをナルトに渡したいと思って……」
「なんだってば?」
俺の質問に、が言いながら一つの小さな包みを取り出し、俺に差し出す。行き成り出されたそれに、俺は意味が分からないと言うように首を傾げて見せた。
「明日、ナルトの誕生日だって聞いたから……本当は、明日渡したかったんだけど、明日は家から出して貰えないから……」
少し困ったような表情を浮かべて、が言った言葉に、俺は内心苦笑を零した。
それは、俺の方だって……。
「家から、出して貰えないって、明日は慰霊祭だってばよ。あれってば、俺は出られないけど、里人は全員強制参加のはずだってば」
「……火影様には、ちゃんと許可を貰っているから心配しないで……。昔から、その日は家から出してもらえないんだ…理由は、分からないんだけど……」
驚いたように言えば、困ったように、が言葉を返してくる。
確かに、も一度だって参加した事が無いと言う事は知っていけど、分からないって……。
「そ、そうなのかってば……俺も、慰霊祭には参加出来ないんだってばよ。だから、同じだってばね」
内心では、突っ込みたい内容だけど、近くにバカカシが居るから、下手な事は言えない。
本当は、が慰霊祭に参加しない理由も知っている。
だけど、今は何も知らないフリ。
そして、俺も、自分の事は何も話さない。
そう、九尾の器だから、慰霊祭には参加出来ないと言う事を……。
まぁ、言わなくっても、は全部知ってるんだけどな。
「それで、これ貰ってくれるかな?」
暫くの間沈黙が続く、それを先に遮ったのはの戸惑ったようなその声。
「ほ、本当に、俺が貰ってもいいんだってば??」
心配そうに訪ねてくるに、俺も貰っていいのか分からずに、恐る恐る訪ね返す。だって、表の俺は、プレゼントなんて貰った事が無いから……。
だから、これを自分が貰っていいのか、分からないのだ。
「ナルトの為に用意したから、貰ってくれると嬉しい」
心配そうに訪ねた俺に、ニッコリと笑顔で言われたそれは、なんか女の子からプレゼント貰っているよう気がした。
いや、全然そんな事無いんだろうけど、こう好きな子が必死で相手にプレゼントを渡している図が、頭の中に浮かんでしまう。
それが、調度今の場面と重なってしまったのだ。
「そ、それじゃ、喜んで貰うってばよ!有難う、」
自分で考えたそれを振り払って、精一杯の演技を見せながら、プレゼントを受け取った。
まだ、カカシの気配は遠去かる様子を見せない。
「僕こそ、貰ってくれて、有難う」
俺の言葉に、がフワリと何時もの笑顔を浮かべた。
それは、演技ではない本当の笑顔。
俺の大好きな笑顔に、思わず俺の顔も笑みが浮かぶ。
「そろそろ帰らなきゃ、の家の人も、心配するってばよ!」
だけど、これ以上ここに居る訳にもいかないから、帰る事を促した。
「……そうだね。それじゃ、途中まで一緒に帰ってもいいかな?」
俺のその言葉に、も素直に頷いて、それからまたまたお伺い。
「勿論だってば!」
それに俺は、ドベらしく元気よく返事を返した。
その瞬間遠去かっていくカカシの気配。
「やっとで、居なくなったか……」
その気配を感じて、思わずポツリと呟く。それに、が苦笑を零した。
「お疲れさん、ナルト」
そして、言われたのは労いの言葉。
「そう言えば、これって……」
言われた言葉に俺も思わず苦笑を零して、貰ったモノの事を思い出す。
確か、シカマルやいのは、表のに誕生日石と言うモノを貰っていた。
だから、俺に渡してくれたのもきっと……。
「うん、いのやシカマルにもあげたように、ナルトにも誕生日石。10月10日は、ブラックオニキス。邪念・邪気を払ってくれるし、精神力・運動能力を上げてくれる。って、精神力や運動能力はナルトには、関係ないけど、邪気を払ってくれるお守りにもなるからな」
俺の予想通り、中身を教えてくれたは、それと同時に俺の誕生日石の持つ特性と言う奴も教えてくれる。
いのやシカマルに渡していた時も同じように説明していたのを思い出して、納得。
でも、オニキスって名前を言われても、それがどんな石なのか分からない。
「……開けてもいい?」
「どうぞ、ナルトのモノだから、好きにしてもらって構わないよ」
だから、それを確認したくって、問い掛ければはフワリと笑って頷いてくれた。
許可を貰ったので、その包みを丁寧に開く。
開いた先には小さな白い箱。それをそっと開けば、今度は青い箱が出てくる。
「……なんだか、厳重だな……」
「まぁ、傷付きやすいものだからな……芸が無くって申し訳ないけど、いのやシカマルに渡した奴とデザイン的には同じ奴だけど」
箱を開いてのその状態に思わず文句を言えば、が理由を教えてくれた。
そして、言われた言葉に頷いて、青い箱を開く。その中には皮で出来た袋が入っていて、それを開いた先に、真っ黒な丸い石を嵌め込んだ飾りの付いたペンダントがあった。シルバーの鎖にその黒がよく映えるシンプルなデザイン。
「これが、ブラックオニキス?何か、不思議な石だな……」
「真っ黒な石だけど、温かいんだよなぁ……ナルトと同じ……」
そのペンダントを持って呟いた俺に、が嬉しそうに呟く。
「……どこが?」
「すっごく優しいところ」
それに思わず聞き返せば、勢い良く返事が返された。
って、俺、そんなに自分の事を優しいなんて思えないんだけど……俺なんかよりも、の方がよっぽど……。
「明日は、ナルトの誕生日パーティだな……ナルト、何か食べたいモノあるか?」
俺の考えている事なんか全く知らないが、もう話を明日へと持っていく。
そして、その質問された事に俺は一瞬だけ考えてから、あるモノを口にした。
「それじゃ、前にが作ってくれたモカケーキが食べたい!」
少し前に俺の為にとが作ってくれたモカケーキ。
コーヒーのほろ苦さと、ケーキの甘さがお気に入りの理由。
「了解!んじゃ、明日のバースデイケーキはモカで決まりだな……で、後は?」
「う〜ん、が作るのなら、何でもいい」
俺の注文に嬉しそうに頷いて、それから更に質問。
だけど、の作ってくれるモノは、何でも美味しいから、それ以外のモノが思い浮かばなくって、そのままそれをに伝えた。
「……嬉しいけど、煽てても、何も出ないぞ!」
「別に煽てた訳じゃないし……本当の事……」
「それが、煽ててるの!」
少し顔を赤くして、が俺の言葉を遮って文句を言う。
っても、本当にそう思ったから素直に言っただけだしなぁ……。
「どうでもいいが、お前等ちっとは場所を考えろよ……」
の言葉に自分の言った事を考えてうた俺の耳に、呆れたような声が聞えてくる。
勿論、その気配には気付いていた。
偽る必要など無い相手だと分かっているからこそ、態度は変えない。
「待っててくれたのか?」
そんな相手に、が驚いたように声を掛ける。
「任務終わって直ぐに居なくなったから、こんな事だとは思ったんだけど……」
待っていた人物シカマルは、小さくため息をつくと凭れていた木から体を離す。
「下忍から、うずまきナルトへ誕生日プレゼントの配達。明日は、家から出して貰えない身の上だからな」
自分達の方にゆっくりと歩いてくるシカマルに、がニッコリと笑顔を見せた。
「出して貰えないんじゃなくって、出たくねぇだけだろうが!」
笑顔のまま言われたそれに、シカマルが呆れたように文句を言う。
俺もその言葉に、思わず頷いてしまったのは、同意見だったから。
「嘘じゃねぇもん。一度だけその日に出て酷い目にあってから、『昼』と『夜』に出して貰えなくなったのは事実だぜ。まぁ、俺もその事があったから出たいとは思わねぇけどな」
シカマルに続いて俺も頷いた事に、が楽しそうに笑いながら信じられない事をサラリと言う。
その酷い目と言うのは分からないけど、の能力を知っているだけに、複雑な気持ちを隠せない。
「笑いながら言う事じゃねぇだろうが……」
そんなに、シカマルがボソリと文句を言うのが聞える。
俺も人の事は言えないけど、自分の誕生日でもある慰霊祭は、自分の家でその日が無事に終わる事だけを願っていた。
だから、一度だって自分の誕生日を祝ってもらった事など無い。
そう、に出会うまでは……。
に出会って、俺は初めて自分の誕生日を祝ってもらった。
里では、九尾の犠牲になった人達の魂を慰める儀式が行われているのに、俺は生まれて初めて自分が生まれた事を喜んでもらえたのだ。
それと同時に、毎日一緒にご飯を食べてくれる人まで出来た。
家族と言うものを知らない俺に、それと同じ温もりをくれたのは、目の前にいる人。
「……ごめん……」
だけど、リョクトが大変な目にあったその理由を考えて、俺は思わず謝罪の言葉を口にする。
「何でナルトが謝るのか謎。それに、笑いながら言う事だよ。だって、そのお陰で俺はナルトの誕生日が祝えるんだからな」
ニッコリと綺麗な笑顔。
何時の間にか前髪は何時ものように分けられて、外された眼鏡はその笑顔を邪魔しないから、大好きな笑顔が目の前にある。
「……あ〜っ、確かにな……俺は明日は影分身かよ、めんどくせぇ……」
大好きな笑顔を向けられた瞬間、シカマルがため息と同時に何時もの言葉。
そうだよな、慰霊祭は、任務のない里人達全てが強制参加なのだから……。
「頑張れよ、シカマル!」
そんなシカマルに、が楽しそうに笑いながら応援の言葉。
「めんどくせぇ……」
励ましの言葉に、シカマルは心底嫌そうな表情を見せる。
「そんな事思ってない奴の台詞は聞いてやらねぇ。んでもって、早く帰らないと『夜』が心配するから、ここから渡り遣っちまうぞ」
シカマルの事を無視して、が突然俺とシカマルの腕を掴む。
そして、言われたその言葉に、俺とシカマルは同時にため息をついた。
何時ものように空間が歪む感覚を感じた瞬間、景色が変わる。
「ただいま!」
『遅かったな。早く『夜』に挨拶して来い。不機嫌そうだったぞ』
「了解!んじゃ、ついでにお茶の準備してくるから、ナルトとシカマルは座ってていいぞ」
元気良くが挨拶すれば、淡々とした声が聞え、それに頷いてが俺とシカマルから腕を離して部屋から出て行く。
それを見送ってから、俺達は同時にため息を付いた。
『器のガキ、奈良のガキ戻ってきたなら言う事があるんじゃないのか?』
その瞬間、不機嫌そうな声が聞えてその声の主へと視線を向ける。
「あっ!『昼』ただいま」
そして、と同じように挨拶。
ここは、もう一つの俺の家。だから、戻ってきたらその挨拶がいるのだと、何度も言われたからすんなりとその言葉を口にする事が出来る。
『ああ……で、奈良のガキ?』
「へいへい、ただいま……これでいいのかよ」
面倒臭そうに返事をしたシカマルに満足そうに『昼』が頷く。
『お帰り』と言う言葉が帰ってくる訳じゃないけど、『昼』は絶対に俺たちにその言葉を言わせる。
それが、ここに帰って来た時の約束事。
『ナルにシカもお帰り!』
そして、時間を空けずに明るい声が聞えてきた。
当然のように貰えるその言葉に、思わず顔がほころんでしまうのは止められない。
去年まで、自分に向けてその言葉を言ってくれる人などいなかったから、その言葉を貰える事がこんなにも嬉しいことだと初めて知った。
「ただいま、『夜』」
「ただいま」
挨拶を貰ったら返すのが当たり前。
だから、俺もシカマルも『夜』へと言葉を返した。
『も直ぐ来るからね』
ニコニコと嬉しそうに言われる言葉に、ただ頷いて返す。
こんな風に挨拶してもらえる事を自分にくれたのも、みんなが居たから。
が俺にこの時間をくれた。
「お待たせ!」
戻ってきたが、テーブルに紅茶の入ったカップを並べていく。
「………」
「んっ?」
暖かなお茶と優しい時間。
この全てを自分に与えてくれたに、俺はずっと言いたかった事。
「有難う……」
それが、ずっとに言いたかった言葉。
俺と出会ってくれて、有難う。
そして、俺にこんな暖かな時間をくれて、本当に有難う。
「…なんで礼言われたのか分かんねぇんだけど……」
突然の俺の礼の言葉に、は意味が分からないと言うように首を傾げる。
それに俺は笑みを浮かべた。
「分からなくっても、ずっと言いたかったから……」
「んじゃ、俺からも……ちょっと早いけど、生まれてきてくれて、有難う……それから、誕生日おめでとう、ナルト」
そして、くれたのは、一日早いけど、去年と同じ言葉。
今年も、また君が、君達が祝ってくれる。
だから、俺は生まれてきた事に感謝しよう。
君達に出会えたから……。