本当にめんどくせぇ奴だ。
 そうなったのは、この里の責任だと分かっているけど、どうして大切に思っている俺達の気持ちまで否定すんのかが分からねぇ。

 だから、今年こそ漸く祝えると思って喜んでいたつーのに……。
 なのに、祝っても仕方ねぇとか抜かしやがった。
 めんどくせぇが、本当にこいつとナルトは良く似ている。
 似なくっていいつーところだけが、同じなのだ。この里の馬鹿な奴等によって狂わされたところが……。



の部屋は、ここ』

 そう言って案内された一つの扉の前。
 何度もこの家に来ているのに、一度も入った事など無いの部屋。

『今は、オレと『夜』とで、の周りに結界を張ってある。中に入っても起きる心配はないだろう』

 そう言って説明された事に頷いて返す。
 時刻は朝の5時半過ぎ。が起きるのが、大体6時前後。なので、起きる時間まで後数十分。
 ナルトの考えで、今日は朝からの生まれた日を祝うと決めた俺達は、こうして準備をしている。

 渡されたのは、クラッカー。起き抜けの相手に鳴らしていいものかどうかは謎だが、否定ばかりしていた馬鹿には、十分だろう。

「それじゃ、クラッカー持って入ろう!」

 嬉しそうに言うナルトに、皆が頷く。
 ナルトの考えた事は、本当に単純だ。一日、が生まれた事を感謝すると言う事を、言葉と態度で示すのだと言っていた。
 だから、朝一番に『おめでとう』の言葉を、次に『ありがとう』の言葉を伝えるのだ。
 今日の料理は、ナルトと『夜』が用意したモノ。それも、ナルトから、へのプレゼントと言っていいだろう。

 言われるままに扉を開いて中に入る。が、期待を裏切って、部屋の主はベッドの上に座って自分達が入ってくるのをただ黙って見詰めていた。

『……結界だけでは無駄だったか……』
『え〜っ、何で起きてるの?』

 驚かせようと思った相手が起きている事に、猫2匹がまず口を開く。

「……起きてるんじゃねぇよ…寝てねぇの……お前等俺がだって、忘れてんだろう?」

 『夜』の質問に、呆れたようにがため息を付いて長い前髪を掻き揚げる。

「んなめんどくせぇ事、忘れる訳ねぇだろうが」
「えっ?って、払い屋で術者だろう?他に、何かあるのか??」

 そんな相手を前に、俺がため息を付いて、ナルトは意味が分からないと言うように首を傾げた。
 まぁ、確かには、払い屋にして術者な一族。それは、忘れねぇし、忘れらんねぇ事だ。

「……『夜』に『昼』もこんな半端な結界で、誤魔化せる訳ねぇだろう。には、先見の力もあんだよ」

 訳が分からない俺達を前に、がもう一度ため息をついて説明する。
 この一族、先見の力まで持ってんのかよ!何でもありな一族だなぁ……。そりゃ、里で最強とされていたのも、納得できるつーもんだ。

『その事を忘れていた訳じゃないが、お前がその力を遣うとは思っていなかったんだ』
「俺の先見は、安定してねぇから、自分の意志じゃ遣えねぇって事ぐらい知ってんだろう?」
『うん、だから、大丈夫だと思ったのに……その力邪魔!』

 の言葉に、『昼』が盛大にため息をつく。それに、呆れたように言葉を返すに、『夜』が不機嫌そうに文句を言った。
 『邪魔』ってのは、否定しねぇけど、それでいいのか?

「な、なんにしても、ここで言い合ってても仕方ないよな。ちょっと予定とはずれちゃったけど……、誕生日おめでとう!!」

 何かが違う言い合いを前に、ナルトが慌ててここに来た目的を口にした。そして、派手に鳴るクラッカーの音。

「……祝う必要ないって、言ったのに……」
「俺等には、必要な事だつーんだよ。……誕生日、おめでとう……」

 ナルトの言葉に複雑な表情で呟くに、言葉を返してから俺も、手に持ったクラッカーを鳴らした。言った言葉は照れ臭かったが、ずっと言いたかった言葉。

『おめでとう!!』
『……上に同じだ』

 俺に続いて、今度は『夜』と『昼』もクラッカーを鳴らす。
 だが、『昼』だけは、照れているのか『おめでとう』の言葉は言う事はしなかった。まぁ、性格からして、素直に言えるとは思っていなかったけどな。

 でも、『上に同じ』ってなぁ……。

「………そんな事言われたら、有難うしか言えねぇじゃんか……」

 『昼』の言葉に苦笑を零している中、がまるで泣き笑うような表情を見せ、ポツリと呟いた。

「俺達がしたいと思ったからだ。が生まれてきた事を、心から感謝してる」
「ここに居る全員、お前と出会えた事を喜んでんだぜ。素直に祝われとけ!」

 そんなに、ナルトがまず笑顔を見せて、続いて俺も言葉を告げる。それに、何処か嬉しそうな困ったような表情で、がフワリと笑った。
 昨日一日、何処か悲しそうな表情をしていたが見せた漸くの笑顔に、ドキッとする。

 綺麗な綺麗な笑顔。

「……んじゃ、ここで話してても仕方ないから、少し早いけど朝ご飯にする?ナルトとシカマルは今日休みかもしれないけど、俺は休み貰ってないし……」

 そして続けられた言葉に、呆れて盛大なため息を付いてしまう。
 馬鹿じゃねぇ筈なのに、何でんな単純な事は分かってねぇんだ、こいつは!

「俺とシカマルが休み貰った理由を考えれば、も休みに決まってんだろう!」

 俺と同じ意見なんだろうナルトが、少しだけ声を荒げてに言う。
 全く、んな事は考えねぇでも分かりそうなもんだつーんだよ。大体、こいつ昨日からそんな事思ってたのかよ…俺等の説明不足の所為なのか?
 じゃねぇよな、こいつが天然過ぎなんだつーんだよ!

「えっ?俺も、休み??だって、俺は……」
『休みだというんだ、素直に休めばいい。三代目からのプレゼントだと思っておけ』
『そうだよ、今日も皆でお休み。それでね、一日が生まれた事をお祝いする日なんだよ』

 ナルトの言葉でも納得できなかったのか、それでも何かを言うとするその言葉を『昼』と『夜』が順番に黙らせる。
 確かに、誕生日なんだから、考慮してくれたつーのは間違いじゃねぇだろう。三代目自身も、こいつの事を本気で心配しているのは俺でも知っているからなぁ……。

 つーか、三代目は、こんなの2人も心配してっと、その内心労で倒れんじゃねぇのか?いや、マジで……。
 ナルトと、里にとっては厄介なモノ達で、排除すべき者。里の真の英雄と、この里の真実を知る者。
 彼等が三代目にとって、一番の心配の種である事は、傍から見ていれば良く分かる事だ。

「……分かった。素直に家に居る……任務貰いに行っても、貰えそうもないからな……んじゃ、決まったら、移動!やっぱり、ベッドの周りを囲まれてるのって、変な気分だ……」

 諦めたのか、苦笑を零しながらの言葉に思わずハッとする。確かに今の状態は、ベッドの上に座っているを俺とナルトがベッド脇に立って見下ろしていると言う状態。

「そ、そうだ!移動しようってば!!朝食の準備は、俺と『夜』で終わらせているから!冷める前に食べるってばよ!!」

 言われた事に、ナルトも慌てて移動を勧める。動揺しているのは、その口調で良く分かった。

『うん、今日はね、ナルが作ってくれたんだよ。早く食べに行こう!』

 ナルトに便乗した訳じゃねぇんだろうが、『夜』も嬉しそうにを促した。それに、俺とナルトが同時にため息を付いて、お互いの顔を見て思わず苦笑を零したのは、別な話だ。
 深い意味がねぇって分かってけど、かなり焦ったのが正直なところだ。




 んで、素直にの部屋を後にしてリビングへ移動。
 ナルトが作ったつー朝飯を、が運ぶって言ってたけど、結局ナルトがそれを押し止めて、『夜』と一緒にリビングから出ていった。
 はと言えば、不機嫌そうな表情のままナルト達が出て行った扉を見詰めたままだ。

「あ〜っ、今日は、何も出来ねぇと思うぞ」
「……なんで?」

 そんなに、俺はため息をついて口を開く。
 休みの日なんかでも、はジッとしてねぇ。だから、今日は何もさせないと、ナルトが張り切っていた事を思い出して言ったつーのに、何で俺が睨まれなきゃいけねぇんだよ、めんどくせぇ。

「……それが、ナルトのプレゼントだろう……」

 睨んでくるに、盛大なため息を付いて説明してやる。大体、考えれば、それしか思いつかねぇつーんだ。

「……俺的には、そんなプレゼント欲しくないかも……」

 俺の言葉に、リョクトが複雑な表情のままボソリと小さく呟く。それを聞き逃す事などせずに、俺はもう一度ため息をついた。

「……ナルトが、初めて祝いたいつーってんだぞ、その気持ちを無駄にすんのかよ?」

 だからこそ、卑怯な言い方だと分かっていても、尋ねずには居られない。
 そうでも言わねぇと、この馬鹿は本当に分からねぇだろうから……。

「……そんな気が、俺にないって事、シカマルが一番知ってるだろう……」

 俺の質問に、少しだけ拗ねたようにが言葉を返してくる。
 分かってから、聞いてんだつーんだよ。大体おねぇが、めんどくせぇ事ばっかり考えてるから、そんな質問したんだからな。

「知ってから、言ったに決まってんだろう。今日くれぇはナルトの好きにさせてやれ」
「……分かった……」

 俺の言葉に、本当に渋々と言った様子でが頷く。

『お待たせ!』

 その瞬間、扉が開いてお盆を手に持った『夜』とナルトが入って来た。ナルトの後ろには『昼』も居る。姿が見えねぇと思ったら、どうやら手伝いに借り出されていたらしい。

が作ったみたいに美味くないかもしれないけど……」

 言いながらナルトがテーブルに料理を並べていく。
 ナルトが作ったからって訳じゃないだろうが、洋食のメニュー。
 本当にナルトが作ったのか疑いたくなるのは、サラダがしっかりとあるところだろう。
 メニューは、サンドイッチにサラダ。果物の盛り合わせに飲み物は、オレンジジュースと紅茶にコーヒー。

「そんな事ねぇって!美味しい!!……有難う、ナルト」

 早速サンドイッチを一つ持って食べたが、ナルトへと嬉しそうな笑顔を見せる。
 本当、こう言う演技力は、ナルトとタメ張れるよな、こいつ……。
 先ほどまでの不機嫌はまったく見られない様子に、俺はこっそりとため息をつく。
 それでも、俺の前では素で居てくれた事を素直に喜んでいるのは、ナルトには絶対に内緒だ。んなめんどくせぇ事教えられるはずもねぇ!

『ん〜とね、今日一日は、ナルが作ってくれたモノを食べるの。それでね、夜はが生まれた事を感謝する時間!』

 嬉しそうにナルトが作ったモノを食べている『夜』が、今日の事を話す。それに、ナルトが苦笑を零す。

「……『夜』それ言っちゃ不味いって……」
『あっ!!内緒だったっけ?でも、ナル頑張ったから、、ちゃんと誉めてあげてね!』

 ナルトに言われて、それでも気にした様子もなく、小首を傾げてからへと一言。
 そんな『夜』に、またナルトが苦笑した。

「そっか、分かった!ナルト偉い!」

 『夜』に言われるままに、がナルトの頭を撫でながらその言葉通り誉める。

!人を子供扱いするな!!『夜』もだってばよ!!」
『俺達に言わせれば、器のガキも奈良のガキもガキには違いないぞ』

 子供扱いされた事に、ナルトが不機嫌そうに文句を言うが、その後黙々と食っていた『昼』がサラリと口を開く。
 確かに、俺達はまだまだアカデミーのガキなのは、間違っちゃいねぇ。
 そんなガキが集まって、その日その日を生きているつーのも間違いじゃねぇだろう。

「うん、俺達はただのガキだ。だから、子供扱いじゃなくって、これが普通の扱い」

 『昼』の言葉に、が当然とばかりに言葉を返して、そしてまたナルトをギュッと抱き締めた。
 それは、親が子供を抱き締める動作と同じ。ナルトも、そんなに抱き締められて、少しだけ顔を赤くして、大人しくしている。

「……あのさぁ、あのさぁ!これだけは、言わなきゃと思ってたんだってばよ!」

 に抱き締められたまま、ナルトが言い難そうに口を開く。

「ナルト、ドベ口調に戻ってんぞ」
「煩いってばよ、シカマル!」

 考えていた俺の前で、ナルトがドベ口調で口を開いたもんだから、思わず突っ込んでやったつーのに、逆に怒鳴られた。しかも、ドベ口調で……。

「えっと、あのな…その、生まれてきてくれて、有難うだってばよ!」
「ナル、ト?」

 抱き締められていた腕からすり抜けて、真っ直ぐにの顔を見たまま言われた言葉に、ただ驚いたようにナルトの名前が呼ばれる。

「それで、俺と出会ってくれて本当に、有難う!」

 ギュッと今度はナルトがを抱き締めながら伝えた言葉。それは、ナルトの本心。

 って、有難うを伝えるのは、夜じゃなかったのかよ!
 もう、予定変りまくりだつ―んだ!

「んじゃ、もう予定変りまくりだから俺も言うぞ!俺も、おめぇに出会えた事を、心から感謝している……」
「シカマル」

 ナルトの笑顔と俺の言葉に、はただ名前を呼ぶだけ。
 そして、抱き締めているナルトの肩へと顔を埋めた。

「……俺だって、お前等に会えた事、本当に感謝してるんだからな!……『昼』、『夜』、俺を見殺しにしなかった事、本当に有難うな……」

 泣き笑うような笑顔で、顔を上げたが、『昼』と『夜』に礼を言う。

、ボク達も、が生まれてきてくれた事、本当に感謝してるんだよ』
『お前を助けたのは、『』の意志を託されたからだ。だが、今でも一緒に居るのは、オレ達がお前を大切に思っているからだと言う事を忘れるな』

 偉そうな『昼』の言葉に、が小さく頷いて返す。

『それじゃ、今日はもう予定変更のオンパレードついでで、一日が生まれた事を感謝するパーティーに決定!!』

 嬉しそうに声を張り上げた『夜』の言葉に、俺達は苦笑を零しながらも同意するように頷いた。

 今日は、里全体が忙しいだろう。
 だけど、この中だけは、のんびりとした時間が流れている。

 自分達の中心となる人物が生まれた日。
 こいつが居なければ、俺はナルトに出会う事は出来なかっただろう。
 そして、こんな時間など持つ事など出来なかったとハッキリと言える。それは、ナルトも同じ。
 こいつが居て、初めて俺達は出会う事は出来たのだ。
 だから、感謝しよう。君に出会えた事を……。