昨日は、素直に風呂に入ってそのまま夕食と言うよりも夜食をとってから寝た。
 そこまではいい。
 ナルトとシカマルが家に戻らずにそのまま泊まったのも問題無い。
 でも可笑しい、明らかに可笑し過ぎる。
 俺が、参加しないのは何時もの事だけど、どうしてそれにナルトとシカマルが一緒になって不参加なんだ?
 大体強制参加なのに、三代目は何で許してんだよ!!

「シカマル、お前親父さんやお袋さんに迷惑が……」
「あ、その為に影分身を行かせてるんだよ、めんどくせぇけどな」

 当然とばかりに書庫から持ってきた禁書を読んでいるシカマルに問いかければ、あっさりと言葉が返される。
「でもなぁ……」
「親父達なら、喜んで賛同してくれたぞ」

 それでも、続けようとした言葉にサラリと返されて言いかけた言葉は、虚しくも続けられなかった。
 いや、確かに親父さんとお袋さんが、パーティーに参加しない俺の事をすごく気にしてくれていたのは知っている。知っているけど、息子を里行事から遠ざけてイイのか!!

 もう既に、この里唯一の会場では、賑やかなクリスマスパーティーが始められているだろう時間。
 それなのに、ナルトとシカマルは、全く気にした様子も無く好き好きに時間を過ごしていた。
 シカマルは読書、ナルトは……。

「って、そう言えば、ナルトの姿が見えないけど??」
「ナルトなら、台所で『夜』と一緒に作業中だぞ」

 辺りをきょろきょろと見回した俺に、本に視線を向けたままの状態でシカマルが答えてくれる。

 台所?しかも、『夜』と一緒に作業中??
 正直言えば、俺はナルトが料理しているところを見た事は一度も無い。

「今日のクリスマスの準備は終っているはずだし……何で?」

 昼間に、しっかりとクリスマス用の夕飯は準備した。
 うん、参加しないって二人が言ったから、ちゃんと二人の分も作ったし、勿論ケーキだってバッチリ準備OKだ。
 その間に、ナルトとシカマルがクリスマスの飾りつけをしてくれたのには、ちょっと驚いたけどな……。だから、今年は、ちゃんとクリスマスツリーもあるリビングが出来あがっている。
 この家では初めてだろう、こんなにクリスマスらしいクリスマスは…。

「……明日の準備じゃねぇのか……」

 不思議に思って首を傾げる俺に、シカマルが呆れたように答えてくれる。
 明日の準備?って、クリスマス本番の準備??

「漸くお前の誕生日を祝えるんだ、めんどくせぇなんて言ってられねぇからな」
「俺の、誕生日??」

 確かに、明日は自分が生まれた日。だけど、それが……

「俺達の誕生日は、我先にと祝うくせに、自分の誕生日は祝わせないつもりかよ。今年は、三代目の許可もちゃんと貰っているから、文句はねぇだろう」

 不思議に思っていた俺に、シカマルが読んでいた本を閉じて真っ直ぐに俺を見てきた。
 確かに、毎年シカマルに、自分の誕生日を祝いたいと言われていたのを忙しい事を理由に断っていたのは本当の事。

 だって、俺なんかの誕生日は祝う必要はないから……。

「俺の誕生日なんて祝っても仕方ないだろう……」
「そう思えねぇから、祝うんじゃねぇか」

 シカマルが言ってくれるのは嬉しい。だけど、俺は……。

「存在云々言うつもりなら、ナルトが怒るぜ」

 認められない存在。存在してはいけない、モノ。

「……シカマル……」
「だから、今年からは黙って祝われろ。俺らが望むのは、それだけだ」

 キッパリと言われた言葉に、俺は何も言えなくなる。

 俺と言う存在を認めてくれる人達。
 本当なら、この世界に生まれてくる事の無かった命。それが、術者である両親とその遣い魔だった2匹の猫のお陰でこうして生きていられたのだ。
 だから、この里にとって俺は亡霊と同じ。

「でも……」
『諦めろ、こいつ等はそんな言葉では納得しない』
「めんどくせぇなぁ、『昼』も『夜』もお前と違ってちゃんと分かっているつーのによ」

 それでも続けようとした言葉は、今度は『昼』によって遮られた。そして、『昼』に続いてシカマルが頭を掻きながら盛大なため息を付く。

 分かってる。二人の気持ちは、ちゃんと……。

 『昼』や『夜』も自分が生まれた事を、本当に喜んでいる事もちゃんと知っている。だけど、それでも、自分は本当はこの世には存在しない者だと言う事を考えると、祝ってもらう事は間違いだと思えるのだ。

『そろそろ夕食にしよう!ナルが運んでくれるの手伝ってくれるんだよ!』

 何も言えないまま俯いてしまった俺に、小さくため息を付くのが分かった。そして、何かを言おうと口が開かれた瞬間に、勢い良く扉が開いて『夜』が作っておいた料理を持って入ってくる。

「……、また沢山作ったんだな……これ、4人でも食えるか謎……って、何でこんなに空気が張り詰めてんだ?」

 『夜』に続いてナルトも料理を持って入って来たが、俺達の空気を読んで不思議そうに首を傾げた。
 そんなナルトに、俺は思わず苦笑を零す。

「何でも無い。俺も料理運ぶの手伝うな……」

 言って、逃げるように部屋を後にした。




「で、何があったんだよ、シカマル」

 が部屋を出て行くのを見送って、俺がソファに座っているシカマルへと問い掛けた。

「ああ、明日の事言ったら、祝われる権利はねぇつーからな……」
『…そこまでは、言ってないぞ。まぁ、自分の誕生日など祝っても仕方ないとは言ったが……』

 シカマルが盛大なため息と共に説明する。それに、『昼』がをフォーローするように続けた。

『もう、ってば、いっつもそんな事言うんだから!!』

 そんな『昼』に『夜』が、少しだけ怒ったように文句を言う。言われた言葉に俺は驚いたように2匹を見た。

「って、お前等、祝った事ないのか?」

 正直言って、この2匹の事だから、嬉々としてあいつの誕生日も祝っていたのだと思っていたのだ。

『25日は、里全体が忙しくなる。それは、も同じだからな。あいつは、何時も自分の存在を否定する、だから生まれた事を祝うなど出来なかったんだ』

 ため息をつきながらの言葉に、俺は一瞬考え込んでしまう。
 あいつも俺と同じように、自分の存在を否定している……。俺は、あいつのお陰で、生まれてきた事を素直に感謝する事が出来たのに……。

「決めた!明日は、一日あいつを祝う!!」

 考えて意を決し、顔を上げる。

「ああ?どうすんだ??」
「朝起きた時から、ずっと祝い続けてやる!」

 突然の俺の言葉に、シカマルが不思議そうに俺を見た。それに、俺は自分が考えた事を簡潔に伝える。
 朝起きた瞬間から、一番に祝いの言葉を伝えよう。今まで祝えなかった分も一緒に!

『ボクも力を貸すよ!だって、が生まれてきてくれて、本当に嬉しかったから、だから、ちゃんとお祝いしたいもん』
『オレも手を貸してやる。が目覚めないように、してやろう』

 『昼』と『夜』も賛成してくれたので、簡単にの部屋に入る事が出来るだろう。

「料理運んできたぞ!って、何話してるんだ?」

 詳しい事を話そうと口を開きかけた瞬間、トレーに料理を載せて戻ってきたの声が掛けられてしまい慌てて言葉を飲み込んだ。

「な、何でも無い!!料理、それで全部だったっけ?」

 そして、振り返って話を誤魔化す。

「う〜ん、まだいくつかある……ナルトの言う通り、作り過ぎちまったかなぁ……シカマルお袋さん達にお裾分けしても大丈夫か?」
「ああ?喜ぶと思うぜ……でも、俺は今日もここに泊まっからな……悪いが、届けてくれねぇ、かあちゃんもその方が喜ぶと思うぜ……」
「そっか…んじゃ、後で俺が持っていくよ……木の葉のパーティーは遅くても、11時には終るよな?」
「まぁ、各自勝手に解散だかんなぁ、親父達は大体10時には帰ってんぞ」
「んじゃ、そのぐらいに持っていくか。残りのやつも持ってくるから、先に食べ始めてていいぞ」

 とシカマルの話を黙って傍で聞いて居れば、が残りの物を取りにまた出ていく。
 それを見送ってから、ニッコリと笑顔。

「シカマル、ナイス!」
「おう、こう言う事なら得意だかんな」

 バッチリとを家から出す事が出来れば、話し合いは楽だ。
 まぁ、嘘を付いている訳じゃないからな。本当にが料理を持っていけば、シカマルの両親も喜ぶだろう。

 その後、しっかりと重箱まで持ってきたが戻ってきて、自分達だけのクリスマスパーティーが始められた。
 自分にとって、安心できる場所で、クリスマスと言う今まで最悪な日が、過ごす場所が違っただけで、こんなにも楽しい日になるのだと改めて知る事が出来た。

 そして、それを教えてくれた人の生まれた日は、明日。
 自分が貰った分を、相手にも返す事が出来ればと、そう思わずには居られない。