聞かされたのは、信じられない内容。
 自分の中に封印されているモノが、何も悪く無いという真実。

 10年前に起こったのは、悲しい神の話。

 ただ静かに、里を護っていたモノに対して、里人の愚かな行動。
 感謝の気持ちを持たない人間に、神が怒るのは、当然の結果。

 それでも、神はずっとこの里を守り続けていた。
 そして、それは、知らなかったからでは、済まされない事。


 静かに眠る神の祠を、何も知らない里人達が、用無しだと壊したのが原因。

 それまで、ずっと静かに里を見守ってきた神は、この所業に怒り狂った。
 ずっと見守り続けてきた者達からの所業。自分の住処を壊されたのだ、静かなその場所を……。

 だからこそ、10年前、九尾は里を襲った。

 これが、真実。
 里人が知ろうともしない、この里の過去。


「な、なんだよ、それ……じーちゃんやシカマルは、知ってたのかよ!」
「……ああ、知っていたなぁ…」

 聞かされた過去の真実に、震える声で自分の相棒へと問いかければ、冷静な声が同意する。
 自分の中に封印されているモノの事なのに、そんな事があったなど、全然知りもしなかった。
 10年前起こった事は、全て愚かな里人の所為。

「……三代目は、ナルトに真実を話す事を躊躇われていた。でも、俺はナルトには、少しでもいいから真実を知ってもらいたかったんだ」
「……少し?なんだよ、少しって!んじゃ、まだ知られてない事があるのか?!」

 困ったような表情で語られた言葉に、俺は声を荒げて相手を睨み付けた。

 自分に関係している事なのに、知らない事が多すぎる。

 禁書も禁術書も、嫌って程見て来た。だけど、この里の真実を記したモノを自分は見た事が無い。
 表で見たのは、四代目が自分の中に九尾を封印した事。
 そして、九尾は、意味も無く里を襲ったと記されていたのだ。

「世の中には、知らなくてもいい真実があるんだ。真実が、全ていいモノであるとは、限らない……だから、俺は、ナルトに真実を知って欲しいと思う反面、何にも知らないで居てもらいたいって、思ってるんだ。……矛盾、しているだろう」

 睨み付ける俺の前で、そいつが複雑な表情で笑う。
 まるで、泣き笑うようなその表情に、俺は言葉を失った。

 こいつは、この里で、ただ一人真実を知る者だと言う事を思い出す。
 歪められたこの里の真実。それを、この少年は、全て知っているのだと……。

「……馬鹿みたいだな………俺は、何も知らないで、こんな里護てったって言うのかよ……」
「ナルト」

 何もかもが隠されている、汚れた里。こんな里の為に、俺は生かされ、そして、恨みの対象になっていたなんて、馬鹿過ぎる。
 吐き捨てるように、呟いた俺に、咎めるように名前が呼ばれた。それに、さらに自嘲的な笑みを浮かべて、言葉を続ける。

「だって、そうだろう!自分達で災い招いて、んで、厄介だからって、人に押し付けてんだぜ!そんな里、護る必要なんかねぇだろう!!」
「違う!聞いてくれ、ナルト。確かに、九尾も同じ事を言っただけど、お前の父でもある四代目の願いを聞いて、お前の中で眠っているんだ」

 バカバカしい事だと嘲笑うように言った俺に、必死で言葉が繋げられる。その言われた内容に、俺は一瞬言葉を失った。
 四代目、俺の本当の父親……。里では知られていないその事実。それは、この里で一握りと知らない事。

「なんで、お前が……」
「言っただろう、俺の左目は真実を映す。そして、この里で唯一全てを知っているんだと……」

 驚いたように見詰める中、困ったような悲しそうな表情で、あいつが小さく呟いた。

「四代目の願いは、この里の者から護るべき価値を見出す事」
「どう言う意味だよ」

 言われた言葉に、俺は意味が分からなくて問い掛ける。それに、目の前の相手がフワリと笑った。

「一人でもいいから、お前や九尾の存在を否定しない者が在る事。なぁ、シカマルや三代目は、お前を否定しなかった。それだけでも、この里を護る価値があるとは思えないか?」
「何、言って……」

「探せば、この里にだって、そう言うヤツが、もっと居ると思う。認めてくれる存在って、すげー大事なんだぜ」
「俺は……」

 言われている言葉は理解できる。だが、それでも納得できないのだ。

 この里は、勿論好きだ。だが、この里に居る者達は好きじゃない。それは、自分を自分として見ない、身勝手な者が多いから……。
 それでも、俺を俺だと認めてくれた者は、確かに居る。それが、言われたように、じーちゃんとシカマル。そして、今自分の目の前に居る相手だ。
 この里の全てを知っていると言うのに、目の前の相手は、里を見捨てる事無く、自分と同じように、この里を裏から支えている。

「答えは、直ぐには見付からない。ゆっくりでいいんだ。だけどナルトが、答えを見付けた時、その答えがどんなモノであったとしても、俺はナルトの力になる。それだけは、覚えておいてくれ」
「……なんで、そんな事……」
「俺は、九尾の守護族なんだよ。そして、何よりも、それがお前の親父さんが望んだ事だからな……」

 悲しそうに笑う相手のその表情に、俺は違和感を覚えた、だって、どう見たって、目の前の相手は、自分と同じ歳か下手をすれば、それよりも下に見える。
 それなのに、言われる言葉はその場で聞いていたかのようなはっきりとしたモノ。

「お前は、一体幾つなんだよ……」
「えっ?」

 思わず疑問に思った事を、そのまま口に出してしまう。
 どう見たって、自分と同じ歳かその下にしか見えないのに、時々感じる違和感。本当に、全ての事を知っているように見えるその雰囲気は、この里の長であるじーちゃんと同じ空気を纏っている。

「ああ?何言ってんだよ。は、見えなくっても、俺等と同じ歳だぞ。ちなみに、誕生日は、お前よりもおせぇかんな」
「シカマル、その見えなくってもって、どう言う意味だ!」
「めんどくせぇが、童顔って事だつーの」

 今まで黙って話を聞いていたシカマルが、呆れたように話に加わってくる。そして、言われた内容に、俺は少しだけ驚いた。
 自分と同じ歳で、しかも誕生日が遅いって事は、10年前の出来事は、全くの無関係という事。それなのに、全てを知っているように見えるのは、どうしてなのだろう。

「言っただろう。こいつは、この里の全てを知っているんだって」
「……シカマル……だけど……」

 知っているという事は、理解できた。
 だけど、こいつは、まるで全てを見ていたような口調なのだ。そんな事、決して有り得ないのに……。

の家系には、時々その瞳に全てを映す者が生まれる。それが、だ』
「全てを、映す?」

 俺の疑問に答えるように、『昼』と呼ばれた猫が口を開く。それに、俺は意味が分からなくって、問い掛けた。

『ナル、言葉通りだよ。の目には、過去に起こった事も全て映像として見える。それが、真実の眼を持つ者の力』

 自分の問い掛けに、今度は『夜』と言う猫が、説明してくれる。だが、言われた内容に、俺は驚いて、目を見開く。
 そんな力を持つ眼なんて、迷惑なだけだ。特に、こんな里の過去なんて……。

「気にすんなって!もう慣れている。…なぁ、ナルト、そんな俺だから、お前が大切なんだって思うんだよ」

 驚いて、俺がそいつを見れば、またあの笑顔を向けられる。
 何の迷いも無い見惚れるような綺麗な笑顔。全てを知っているのに、その笑顔は本当に綺麗で、俺はその笑顔を前に、知らず間に、涙を流してしまった。
 自分で言った言葉なのに、忍のくせに泣くなって……。
 必死で涙を止めようとする俺に、すっと気配が近付いてきて、そっと抱き寄せられる。

「泣いて、いいんだ。忍だから、泣いちゃいけないんじゃなくって、人だからこそ、泣いていいんだ」

 そして、聞こえてきたのは、優しい声。
 生まれてきて、初めて聞く自分に向けられた優しい声。

 何の迷いもなく、抱き寄せてくれた腕は、今まで俺に触れてきたどんな奴よりも、暖かくって、そして安心できる腕だった。


 そして俺は、自分にとって掛け替えのない場所を手に入れた。