この世界で信じられる者なんて、何一つなかった。
三代目火影であるじーちゃんは、確かに俺を大切に思ってくれていると知っている。
だけど、俺の事を大切に思っていてくれたとしても、じーちゃんはこの里の長。
だからこそ、里の嫌われ者であり一番の厄介モノである俺ばかりを優先する事は出来ないと知っている。
そう、里が望むのなら、俺という厄介モノは排除されるだろうと言う事も……。
それを説明付けるように、俺は小さい事から何度も命を狙われ続けていた。
だからこそ、力を手に入れたのだ。
死にたくなかったから、だから、強くなるしか方法はなかった。
そして、今俺は、この里の一番の忍びとしての力を手に入れたのだ。
立ち寄った食堂で、里の厄介者の自分に何時ものように言掛かりをつけて来た相手に反論すれば、それが気に入らなかったのだろう相手に思いっきり突き飛ばされた。
ドジで間抜け、その上落ちこぼれと言う表向きを持つ自分は、何の抵抗も出来ずに簡単に突き飛ばされて派手に転んではい、お仕舞い。
ただ運が悪かったのか、この場所が悪かったのか、狭い場所だけあって、突き飛ばされた先には、木の葉の中忍以上に支給されるベストを着た人が食事中だった。
勿論、その相手には綺麗に避けられるだろうと分かっているので、思わずため息をつく。
この里で、自分を助けようと思う奇特な人物など殆どと言ってイイだろうほど存在しないのだ。
(あ〜っ、派手にぶちまけちまうんだろうなぁ……)
何処か他人事のように考えながら、こっそりとため息をつく。
食事を駄目にされた相手からも、きっと非難の言葉を浴びせられるんだろうなぁと思いながらも、しっかりと衝撃に備えて瞳を閉じる。
だが、備えた衝撃が何時まで経って来ない事に不思議に思い、そっとその瞳を開く。
「あぶねぇなぁ!こんな場所で喧嘩してんじゃねぇよ。飯が食えなくなる所だったじゃねぇか……」
瞳を開いた瞬間、直ぐ傍から聞えてきた声に驚いて顔を上げた。
それが当然だと言うように自分を支えてくれた相手に、驚いて言葉も出てこない。
「ナルト!大丈夫か?」
そんな自分に、その人の隣に居たであろう人物が心配そうに自分の名前を呼ぶ声。聞き慣れたその声にそちらへと視線を向ければ、良く知った人物が心配そうに自分を見詰めていた。
「ネジ兄……お、俺は大丈夫だってばよ……この人が、支えてくれたから……」
「ネジ兄だ?ネジ、お前の弟かよ??」
自分の事を心配そうに見詰めているのは、里では珍しくも自分の事を弟のように可愛がってくれている上忍の日向ネジ。
ナルトのその言葉に、自分を抱き止めてくれた相手が、驚いたようにネジへと声を掛ける。
「いや、血の繋がりはないんだが……ナルトは俺の事をそう呼んでいるんだ」
「あ〜、こいつが噂のうずまきナルトかよ……」
ネジのその言葉に、自分を受け止めてくれた相手が面倒臭そうにため息をつく。
だが、その言われた言葉に、小さく肩が震えた。
『噂の』と言われるそれは、決していい意味ではない事を、誰よりも自分自身が一番良く分かっているのだ。
それは、『うずまきナルト』が、この里では厄介モノであり、嫌われ者であると言う事を意味しているのだ。
その理由を知っているのは、この里の大人達だけ。
だからこそ、助けた相手もそんな厄介者を助けたのだと分かれば、助けた事を後悔してもそれは当然の事と言えるだろう。
「お前の事はネジから色々聞かされてる。めんどくせぇが、俺は奈良シカマル。まぁ、お前を助けちまったのは、なんつーか条件反射ってのもあるが、一番には飯を駄目にされたくなかったからだな……」
バランスを崩したままの自分をちゃんと立たせながら言われたその言葉に、ナルトは驚いて顔を上げた。
言われた意味が分からないと言うような表情で見詰めるナルトに、シカマルと名乗った人物は面倒臭そうに頭を掻く。
「……お前のめんどくさいは、ただの口癖だろうが…それに、俺よりも先に動いた奴が何を言っている。そんなに動けるのに、何で中忍なのかが信じられないな」
そんなシカマルの言葉に、ネジが呆れたようにため息をついた。
「何で何て、んなのは決まってんだろうが、めんどくせぇからだつーの」
呆れたようなネジのこの言葉に、シカマルと名乗った人物は盛大なため息をついて言葉を返す。
そんな二人の遣り取りを前にしても、訳が分からないと言うようにただ相手を見詰める事しか出来ない。
『噂の』と言いながらも、面倒臭そうに自分へと自己紹介する相手の気持ちが分からない。
厄介モノで、嫌われ者の自分の『噂』ならば、彼が自分に自己紹介する筈がないのだ。
だが、彼が言った言葉は、自分の噂をネジから聞かされていると言うものだった。
それは、里で言われている『噂』ではなく、正真正銘自分に対しての話を聞いて居ると言う事。
面倒臭いといいながらも、自分を助けてくれて、手を差し伸べてくれた初めての人物。
「お、俺は、うずまきナルトだってばよ!シカマルの兄ちゃん。助けてくれて、有難うだってば!」
驚きを隠せないままだったが、それでも、自分を助けてくれた事に間違いはない。表の自分は素直で有名。
自分を助けてくれた上に、名前を名乗ってくれた相手には礼儀をつくすものだ。
だからこそ、満面の笑顔と共に自分の名前を言って礼をのべた。
「おう、めんどくせぇが、宜しくな、ナルト」
礼を言った自分に、シカマルはその頭を撫でると、ネジが言ったように口癖だろうその言葉と共に、笑みを浮かべる。
この里で、自分にそんな表情を見せる事が出来る人物は居るとは思いもしなかった。
ネジさえも、初めは自分に対して罪悪感と同情しか見せられなかったのだ。
それなのに、目の前の人物は、まるで何も知らないように自分に笑顔を見せる。
「まぁ、何にしてもだ。んな所で争ってんじゃねぇよ。他人の迷惑も考えられねぇ奴等の方が、ここで飯食う資格ねぇつーんだよ」
ネジの傍に居るのに、『うずまきナルト』を本気で知らないならただの馬鹿としか言えないだろう。
だけど、奈良シカマルと言う名前は確かに聞き覚えがあった。
この里一番の忍びである自分には、名家や旧家の苗字は全てインプットされている。
その中に、間違いなく奈良も入っているのだ。
だからこそ、その家の出である子供の事は誰よりも良く知っているのだ。
勿論、この奈良シカマルと言う人物の事も……。
自分を突き飛ばした相手へと嫌味を言っているシカマルのその声を聞きながら、口端が自然と上がって行くのを感じる。
久し振りに、面白い者を見付けた。
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