嘘、嘘、嘘。
 嘘で固められたあいつの世界。

 何処にも真実なんて無いとお前は言ったけど、一つだけ真実を映しているものがある。

 それは、お前の瞳。

 その瞳は何時だってお前の本当の気持ちを映している。
 お前が嘘をつく度に、その瞳が傷付く。
 傷付くのに、どうして嘘を付くのだろう。

 自分で言った言葉で、自分が傷付いていくのが分かる。
 言いたくないとその表情が訴えているのに、それでもお前は、自分を傷付けながらも嘘を付くのだ。

 それを見ているだけで、俺も同じように傷付くのだと言う事には、気付かずに……。



                                               キミは、傷付きながらも嘘をつく



「シカマル?」

 名前を呼ばれて意識を戻す。

 隣に居るのは、自分の幼馴染であり親友とも呼べる相手。
 その相手が心配そうに自分を見ている事に気が付いて、俺は複雑な表情を見せた。

「大丈夫?」

 もう一度質問されて、頷いて返す。
 そして、もう一度その視線をあいつへと向けた。
 今日は、めんどくせぇ事に、3班合同演習。視線の先には、あいつがキバを相手に楽し気に笑っている。

「ナルトって、何時も元気だよね」

 そんな俺に、隣に居るチョウジが何時ものように菓子を食いながらポツリと呟いた言葉。

 それに、俺は何も返事を返せない。
 あの姿が、偽りだと知っているから……。

「でも、時々すごく傷付いた瞳をするんだ…シカマルは、気付いているんでしょう?」

 何も返さない俺に、チョウジは全く気にした様子も無くそのまま問い掛けてくる。問われた内容に、俺は驚いてチョウジを見た。

「人に対して何かを言う時、それが間違っていなくっても、ナルトの目は辛そうな色を見せるんだよね……本当は、言うつもりなんて無かったんだけど、ナルトがその色を見せる時って、シカマルが傷付いた表情をするから……」

 『気になって』と続けたチョウジに俺は驚きを隠せない。

 本当に些細な色の変化。それに、気付ける奴が居るなんて思いもしなかった。
 きっと誰も気付いていないだろうと思っていたのに、ここに気付いている人間がいる事が信じられない。

 チョウジの言葉は、間違いなどではない。

 あいつは、ドベと言う仮面を被って生きている。
 その仮面が一瞬だけ外れる時、それはあいつが誰かに対して何かを言った時だ。
 冗談交じりのように言われる言葉でも、あいつの瞳だけは辛そうな色を見せる。

 嘘で塗り固められた中で、たった一つ真実を見せているのが、あの瞳。

 それだけは、嘘で塗り替える事が出来なかったのだろう。だからこそ、その瞳の色は、俺にとって一番見たくはない色……。

「誰も、気付いていないみたいだけど、シカマルはずっとそれを見ているから、ボクも気付けたのかもしれない……」

 ポツリと呟かれた言葉に、俺はそっとチョウジを見た。

 チョウジの視線は、ナルトへと向けられている。
 キバの挑発に、何時ものように言葉を返しているナルトを……。

「俺ってば、絶対お前なんかには、負けないってばよ!!」

 聞こえて来た声に俺も、ナルトへと視線を戻した。
 また、自分を傷付けるような言葉が聞こえてきたから……。

 誰も、そんな言葉を気になどしないのに、どうしてあいつは、自分で言った言葉で、自分を傷付けるのだろう。

 『なんか』と言う言葉、その言葉にさえお前は傷付いた顔をする。
 それは、その言葉が相手を侮辱する言葉だと言う事をお前は誰よりも知っているから……。

「ナルトは、優し過ぎるよね……」

 ポツリと呟かれたチョウジの言葉をただ黙って聞きながら、心ではそれに頷いて返す。

 あいつは誰よりも優しくって、そして繊細な心を持っている。
 自分が傷付いてきたからこそ、相手を傷付ける事を恐れるのだ。誰よりも、その痛みを知っているから……。

「……どうしたら、あいつが傷付かずに居られるんだろうな……」
「シカマル?」

 ポツリと呟いた俺の言葉を、チョウジが不思議そうな表情で聞き返してくる。
 それに俺は、ただ曖昧な笑みを浮かべた。

 聞えていなければ、それでいい。その答えを望んでいる訳じゃねぇ。ただ、俺はどんなにお前が傷付いたとしても、何時でもそれを見守ると決めたのだ。

 言えるとすれば、それが俺の出した答え。

「………この里が、この里である限り、無理な話かもしれないね……」

 何も言わない俺に、チョウジはまた視線をナルトへと向けて、ポツリと呟いた。
 全てを知っているようなその言葉に、俺は再度驚いてチョウジを見る。

「ボクは、待っているよ。シカマルやナルトが、本当の事を全て話してくれる事を……」
「チョウジ、お前……」
「お〜い、シカマルにチョウジ、何サボってんだんだってばよ!こっちに来て真面目に修行するってば!!」

 全てを知っているようなチョウジの言葉に、ただ驚いてその名前を呼ぶ。
 そんな俺達に、ナルトの元気な声が掛けられた。

「シカマル、ナルトが呼んでいるよ」

 何時もの笑顔で言われた言葉に、俺は複雑な表情を見せる。

 きっと、目の前に居る相手は全てを知っているのだろう。誰よりも人の心に敏感だからこそ……。
 それでも、自分達が話す事を待ってくれている。その優しい心に、今はただ感謝する事しか出来ない。

「……そうだな…いのの奴もそろそろ煩くなるだろうし、めんどくせぇけど、真面目にすっか……」

 だからこそ、今はその心に答えられるように……。
 今浮かべているその笑顔が偽りだと知っていても、自分にとって大切な奴が、笑って呼んでいるのに、答える為にゆっくりと立ち上がる。

「……チョウジ」

 ナルトに呼ばれて、歩き出した自分の幼馴染であり親友であるその名前をそっと呼ぶ。
 呼ばれたチョウジは、その歩みを止めて俺を振り返った。

「……何時か、本当の事を全て話す……その時は、ちゃんと聞いてくれ……」

 そして、立ち止まったチョウジの横を通り過ぎながら、今言える事を相手へと伝えた。
 今はまだ話す事は出来ないけど、何時か話すと言う約束を……。

「勿論だよ!」

 立ち止まっているチョウジを追い越して俺が歩いていく中、後ろから嬉しそうな声が返事を返してくれた。
 それに俺は何も返さずに、口の端を上げて笑う。

 なぁ、嘘で固められたお前の真実に気付いた奴が居るんだぜ。
 だから、俺はそいつを認める。お前の味方になると、そう思えるから……。





 嘘、嘘、嘘。
 嘘で固められたお前の世界。

 なら、今の嘘も全てを現実にしちまえばいい。

 だって、それもお前の一部だ。

 だから、お前を認める奴は仲間に引き入れていく。
 そうする事で、お前が傷付かなくなるのなら……。
 今はまだお前が傷付いてもそれを癒してはやれねぇ。それは、俺自身が一番分かっている事だ。

 だけど、何時か嘘偽りなどねぇお前の笑顔を、個々に居る全員に見せてやる。

 まぁ、勿体ねぇってのが本音だけど、あいつの本当の笑顔は、誰をも引き付ける力がある事を知っているから……。


 だから、何時か俺がお前を引きずり出してやるよ。
 嘘で固められたお前の世界から……。