新年の始まり、毎年、この日だけは休みを貰う。

 それは、の行事が優先されるから……。




「今年も、貰ってるのか?」

 何時ものように家に来ていたシカマルが、カレンダーを前に質問してきた。
 年末の忙しい時期。アカデミー生である自分達は冬休みに入って、自由な時間があるはずなのに、裏の仕事は何時も以上に忙しい。

「まぁ、行事だからな……」

 もう直ぐ、今年が終る。
 そして、年明け直ぐに俺は何時も休みを貰っているのだ。

「貰うって、何を?」

 シカマルの質問に苦笑付きで答えた俺に、ナルトが不思議そうに首を傾げる。今年俺と言う存在を知ってもらったナルトは、何も知らない。

「十二月三十一日と一月一日、忍の方は休み貰ってんだよ、こいつ」

 ナルトの質問に、シカマルが答えてくれる。っても、面倒臭そうに見えるのは、気の所為じゃねぇよな?

「十二月三十一日と一月一日って、大晦日に元旦?何かあるのか?」

 だけど、シカマルの答えにナルトがまた首を傾げた。まぁ、普通は知らないよな。

「元旦って言やぁ、新年の始まりだろうーが!」

 不思議そうなナルトに、シカマルが呆れたように頭を掻きながら説明。っても、それでも説明になってない。
 そんな二人を前に、俺は苦笑を零した。

「新年って、言葉の通りだけど、新しい年だろう?だから、新しい年の初めには、奉納舞を舞うんだよ。一族の新年一番の仕事。神に感謝の気持ちとこれからも宜しくって言う挨拶だな」
「へぇ、知らなかった」

 俺の言葉に、驚いたような感心したようにナルトが頷く。

「一般のヤツ等だって、神に挨拶に行ってんじゃねぇかよ。初詣って、そう言うのからきてるつーからな」

 そんなナルトに、シカマルが初詣について説明。
 まぁ、間違っちゃいねぇけど、正解でもないような……。微妙なとこだな。

「だから、大晦日と元旦は休み。奉納舞を舞うのに、血生臭い事は厳禁だからな。大晦日から、俺は山に篭ってお清めの儀式に入る」
「寒いつーのに、大変だよなぁ……」

 お清めの儀式は、本気で滝に打たれなきゃならない。山の精気を含んだ清らかな水でこの世の穢れを一晩掛けて洗い流す。
 それを知っているからこその、シカマルの言葉にもう一度苦笑を零した。

「『昼』と『夜』はここに残ると思うから、ナルトも何時も通りでいいからな」

 シカマルに苦笑を零してから、多分自分が居ないって事で気を遣うだろうナルトへと先に手を打つ。

「っても、は居ないんだろう?」
「俺が居なくっても、ここはナルトの家でもあるんだから、気にしなくっていいだろう。それに、来なかったら、ナルト飯食わないだろうし……」

 俺の言葉に、予想通りの言葉が返ってきて、俺は困ったように笑みを浮かべた。
 ナルトのヤツ、まだ分かってないのか。ここは、ナルトのもう一つの家だって事。
 俺達は、新しい家族だって言ってんのに……。もしかして、俺って認めてもらってないのか?!

「あ〜っ、何となくだが、おめぇの考えてる事は分かった。どーでもいいが、戻って来い」

 自分で考えた事に凹みかけた俺に、シカマルが呆れたように声を掛けてくる。
 最近、シカマルに俺の思考読まれてばっかりいるのは、気の所為だろうか?

「気の所為じゃねーから…んでだ、馬鹿な事考えてねぇで、話進めろや」

 って、完全に俺の思考読んでるし……。でも、話進めるにしても……。
「……ナルトが、家に来るって言えば、終わりだろう?」

 そう、何時も通りにナルトが朝夕にちゃんと飯食いに来てくれれば、話は終わり。俺は安心して、山に篭る事が出来るし、舞だって舞える。

「終わりじゃねぇよ。ちなみに、元旦は、俺等も休み貰ってから、その辺宜しく」
「えっ?俺等って、シカマル何時の間にじーちゃんに頼んだんだよ!」

 俺が不思議そうに首を傾げてシカマルに問い掛ければ、シカマルがニヤリと人の悪い笑みを浮かべて信じられない事を言った。
 どうやら、それについては、ナルトも知らなかったらしい。驚いてシカマルに問い掛けている。

「んなの、今朝に決まってんだろう。今年こそ、お前の舞姫姿を拝んでやろうと思ってたんだからな」
「舞姫姿??って、の舞いって姫スタイルなのかよ!!」

 楽しそうなシカマルの言葉に、ナルトが驚いた声を上げた。
 ……シカマル、余計な事言いやがったな……。

 そう、奉納舞いは、元来女の仕事だ。
 だけど、一族は俺しか居ねぇって事で、俺が2歳の頃から舞っている。
 俺の母親だった人が死んで、2年程その舞いは舞われる事はなかった。俺が舞う事になった初めての年、荒れた神々の姿は子供心に怖かったのを覚えている。
 今現在は、決まったように舞いを舞えば、神々は大人しく眠りにつく。
 もし、俺も死んじまったら、あの神々はどうなるのだろう。2年放って置かれただけで、あんなにも荒れてしまうのに、誰も慰める者がいなくなったら……。

「俺も見たい!!」

 怖いことを考えてしまった俺の耳に、ナルトの声が聞こえて、意識を取り戻す。
 先の事は分からない。そして、考えてはいけない事。
 生きている自分が、精一杯彼等の安息を願う事こそが、大切な事だから……。

「な〜る〜と〜!シカマルも余計な事言うな!!」
「余計じゃねぇよ。『昼』と『夜』お薦めの姿だから拝みてぇって思ってたんだ。こんなチャンス逃す手はねぇだろう」

 ……シカマルへの提供者は、『昼』と『夜』かよ!
 俺は、正月用の買い物に出掛けている自分の育ての親でもある2匹に心の中で文句を言う。

「あのなぁ、奉納舞いに、人間は参加出来ねぇの!」
「あっ、なら俺は、大丈夫じゃん。だって、俺九尾だし!」

 呆れたように言えば、ナルトが嬉しそうに言葉を返してくる。
 いや、ナルト、お前も人間であって九尾じゃねぇから……ただ、腹に九尾を封印されてるだけ…。

 ナルトの言葉に、思わず頭を抱えてしまったのは、許されるだろう。

「ずるいぞ、ナルト!」

 そして、シカマルが、『ずるい』なんて言葉使うとは思わなかったけど、違うだろう!絶対、使う場所間違えてんぞ!

「ナルトは、九尾じゃねぇし、ずるくもねぇぞ!お前等な、人が嫌々やってる行事に参加してぇとか言うな!」
『なんだ、嫌だったのか?』

 痛くなる頭をそのままに二人に文句を言えば、第三者の質問。
 その声に、俺は驚いて振り返った。

「『昼』!」
『『夜』は、お茶の準備中だ。で、器のガキと奈良のガキは、奉納舞いに参加したいと言ったのか?』

 出掛ける前は、しっかりと人の姿を作ってたのに、戻ってくれば、そのまま猫の姿。名前を呼んだ俺に、『昼』は、サラリと『夜』の事を説明して、ナルトとシカマルへ質問。

「出来ればな」
「うん、の舞姫見たい……」

 って、シカマルもナルトも、素直に返事してんじゃねぇ!!

「だから、人間は参加出来ねぇって!」
『何時からそんな決まりが出来たんだ?』

 俺はもう一度同じ事を言う。だが、その言葉に、『昼』が不思議そうに首を傾げた。
 そして、質問された内容に、俺は一瞬言葉を失う。

「……って、参加して大丈夫なのか?」
『勿論だ。人間が参加出来ない決まりはない』
「ちょっと待て!!だって、俺、一度もあれに人間が居るの見た事ねぇぞ!!」
『当たり前だ。お前が招待しないのに、人間が来られる訳はあるまい。ちなみに言えば、初代火影はもちろん、ニ代目に三代目、そして四代目も招待されていたぞ』

 聞いてねぇし……三代目も、言ってくれれば……。
 いや、昔ちらっとそんな事を聞いたような……奉納舞いの事知ってる時点で、俺も可笑しいと思えよ!

「んじゃ、俺達も、参加出来るのか?」

 わくわくと楽しそうに瞳を輝かせているナルトは可愛い。可愛いけど、素直に招待したいとは思えないのは、女物の服着て舞うからだ。
 ただでさえ女顔なのに、女物なんて着ていたら、もろ女にしか見えねぇ……。ナルトとシカマルが、俺をそんな風に見ないって分かっていても、嫌なものは嫌だ!

『勿論だ。がお前達を招待すれば、参加出来る』

 『昼』の言葉に、ナルトとシカマルの視線が一斉に俺へと向けられる。
 そんな期待に満ちた目で見られたら、唯でさえ二人に弱い自分の事、負けちまう事なんて明らかだ……。



 た、頼むから嬉しそうに俺の名前呼ばないでくれ…しかも、同時に……。

『お茶の準備できたよ!お正月の準備も万端だし、明日からは、清めの儀式に入っちゃうから、今日は美味しいモノ一杯……って、どうしたの?』

 根負けして口を開きかけた瞬間に、『夜』が勢い良く部屋に入ってくる。
 正直言えば、助かったと思うのは俺だけだろう。それを証拠に、ナルトとシカマルが小さく舌打ちしたのが聞こえた。

『大した事じゃない。器のガキと奈良のガキが奉納舞いに参加したいと言っているだけだ』
『えっ?何、まだ話してなかったの?ボク、二人を招待するんだとばっかり思ってたから、報告しちゃったよ。の舞姫、すっごく綺麗だから、楽しみにしててね』

 って、誰に報告したんだよ!!
 明るい声で爆弾発言をしてくれた『夜』に思わず心の中で突っ込んでしまった。
 『夜』の話から考えれば、ナルトとシカマルは、俺が許可しなくっても、参加決定と言う事……。

「ラッキー!俺等もう招待受けてたんだ!!、楽しみにしてるな」
「ずっと見てぇと思ってたんだ。めんどくせぇなんて、言わねぇで楽しみにしてんぞ」

 『夜』の言葉で、すっかり上機嫌になった二人がそれぞれに言葉をくれる。それに、俺は盛大なため息をついた。
 明日の清めの儀式、邪念本気で捨てねぇと、舞えねぇかも……。
 本気で、そう思わずには居られない。









 が清めの儀式と言うモノで山に篭って丸一日。
 奉納の舞いは、夕方の六時から始まると聞いて、俺達は『昼』に案内されて森の中を奥に向かって歩いていく。
 『夜』は、の方の手伝いがあるからと、自分達よりも先に出掛けている。

 出掛けに着せられたのは、着物。俺が紺色で、シカマルが深緑。それを着せてもらってから、最奥にあると言う奉納寺がある場所へと歩く。
 走るのは厳禁。ここは魔の森と呼ばれているから、騒ぐ事は魔を呼び寄せる事だと説明された。
 だから、静かにゆっくりと時間をかけてその場所へと向かう。
 勿論、話をする事も禁じられた。人間である自分達は特に、それは深く注意された事だ。


 歩き続けてどのぐらい時間がたったのか分からないが、突然森の中に似つかわしくない建物が現れる。どうやら、それが目的の建物らしい。

『あの中に入れば、お前達も話して大丈夫だ』

 前を進んでいた『昼』が頭の中に話しかけてくる。何時ものように声を出して居ないのは、仕来りの為。
 建物の中に入るまで、声を出す事は禁じられているから……。俺とシカマルは、『昼』の言葉に頷く事で返す。

 大きな門を潜り中に入れば、古ぼけた寺。
 古いがしっかりとした建物で、管理の手は隅々まで抜かりない。

『もう話してもいいぞ』

 門を抜けたところで、『昼』が声を掛けてくる。
 それに俺はただ頷いて、その建物を見上げた。
 シカマルも、俺と同じらしく建物を真剣に見ている。

『どうやら、建物の方に興味があるらしいな。ここは、人間の世界と神の世界の狭間。普段は、無い建物だ、しっかりと見ておけ』
『あっ!漸く来た!!ナル!シカ!!『昼』、こっちだよ!!』

 『昼』の言葉に、真剣に建物を見ようと思った瞬間、賑やかな声に邪魔されてしまった。

『『夜』静かにしろ!幾らこの中に入れば話をしてもいいと言っても、ここの連中は頭が硬いヤツばかりなんだぞ』
『ごめん……えっとね、席は決まっているから、ここからはボクが二人を案内するね』

 『昼』に叱られて、素直に謝罪してから、『夜』がニッコリと俺達に笑顔を見せる。
 言われた事に、俺とシカマルはただ頷く事しか出来ない。

 話をしても大丈夫だと言われても、ここの雰囲気は、自分達に口を開かせるような雰囲気ではないのだ。何処か遠い世界で、人間である自分達を拒絶しているような雰囲気を持つ。
 だから、黙って頷くしか出来ないのだ。

『初めてここに来て、話が出来たヤツは居ない。安心しろ』

 そんな俺達に気付いた『昼』がサラリと言った言葉。だが、言われても、納得するしか出来ない。


 ここは神聖なる聖域。

 ここで、は毎年舞いを舞っているのだと思うと、少しだけ複雑な気持ちになる。

『後もう少ししたら、舞が始まるからね』

 考え込んでいた俺の耳に、『夜』の声が聞こえてハッとした。どうやら、俺達に与えられた場所へと着いたようだ。
 ここは、この寺の中に設けられた舞台の真ん前。でも、俺達以外に人の姿など見えない。

『たく、爺どもは、煩くって好きじゃない……』

 だけど、周りには何かの気配を感じる。それは、目に見えない何かの気配。

「……シカマル、聞こえるか?」
「ああ?聞こえる訳ねぇだろう。気配は感じっけど、それ以外はさっぱりだ」

 文句を言う『昼』の言葉に、こっそりとシカマルに問い掛ければ、こちらも俺と同じような状態。

『あっ、始まるね』

 そして一瞬空気が張り詰めた瞬間、『夜』の呟き。
 それに舞台へと視線を向ければ、何時の間にその場に現れたのか、舞台の真中に女の姿。

 銀色の宝冠を着け、薄いピンクの舞衣装を着たその姿は、天女と言うものを連想させた。でも、の姿は見えない。居るのは、その綺麗な女性だけ。
 その女性が、ゆっくりと音楽に合わせて舞いを見せる。
 シャランと音を出すのは宝冠に飾られているモノと流れている音楽だけ。その他の音は何も無い。足音も、衣擦れの音さえも……。

 この建物はかなり古い、舞台も勿論木で作られたモノだ。ここに来るまで歩いて来た廊下もそれは同じで、気を付けなければ木床を歩く独特な音を鳴らす。

 この世のモノとは思えないほどの舞いに、ただ呆然と見入ってしまった。
、今回は気合入ってるね』
『だろうな、器と奈良のガキが居るんだ、当然だろう』

 そんな女性の舞いに見入っている中、聞こえてきた声に、一瞬我が耳を疑ってしまう。

 確かに、が舞姫だと言うのは聞かされていた。いたけど、目の前で舞いを舞う彼女は、どう見ても女にしか見えない。
 は、確かに女顔だ。だけど、そんなに女に見えないのは、きっとその性格を知っているからだと思う。
 だけど、その性格を知らなければ……。

「確かに、ナンパされても、仕方ないかも……」
「ああ?の事か?」
「…それ以外にねぇってば……俺、だって、気付かなかったし……」

 俺の呟きに、舞いから視線を逸らす事無くシカマルが問い掛けてくる。その目は真剣に、前の舞いを見入っているから、問い掛けてきたのも、条件反射って処だろう。
 だけど、その気持ちは良く分かる。
 綺麗で、心奪われる舞い。
 確かにこれは、安らぎの舞いだ。
 神々に向けての安らぎの奉納舞い。それが、この地に居る神々への感謝の気持ちであり、慰め。
 舞いは、一時間と舞っている方には長いだろう時間で、終了を迎えた。

『どうする?に顔を見せてやるか?それとも、この中を見るか?ここは、今日一日この世に存在するぞ』
に会う!」

 一時間と言う長いような短い時間、食い入るように見詰めていたの舞い。

 まだ胸がドキドキしている。それは、余りにも綺麗で、この世のものでは無いように思えたから、だから確認したかった、あのが自分の知っているだと言う事を。
 シカマルも同じ考えだったのか、否定の言葉は無くただ頷いた。

!!』
『お前は、静かにしろと言っているだろう!』

 控え室だと言う場所に案内されたとたん、ドアを開いて『夜』が大声で名前を呼んで、『昼』にまた叱られている。

「いいよ、ここは防音結界張ってあるから……よっ、二人ともそこに突っ立てないで、入れ!」

 そんな2匹の遣り取りに笑みを浮かべて、先ほどまで女にしか見えなかった相手から、良く知った声で言葉を投げ掛けられた。
 姿は、綺麗な天女なのに、その口調はのままで……。

「昨日から話出来なかったから、漸く口が利ける!!『夜』飲み物頼むな」
『いいよ、ちょっと待っててね。皆の分貰ってくるから』

 正直言えば、混乱している。だって、姿はじゃなくって、女にしか見えない。

「お〜い、舞い見た感想は?」

 呆然としている俺達に、全く気にした様子も無く、が問い掛けてくる。

「…綺麗、だった……」
「おう、神聖つーか、本当に、お前が舞ってたのかよ……」
「んにゃ、俺じゃなくって、かーちゃん」

 夢でも見ているみたいに、ボンヤリしたままの質問に素直に答えた。シカマルも、同じように言って疑問を口にする、それに、サラリと言われる言葉。
 って、あれって、のお袋さん??でも、今その格好をしているのは、で……。

「冗談だって……でも、昔はかーちゃんが舞っていたのは本当。俺の自我がハッキリしてからは、あんまりなかったんだけどな。今日は半分半分。俺が、初めて生きている奴を招待したから、嬉しくって出てきたらしい」
『そうか、道理で懐かしい気配を感じたはずだ……』

 の説明に、『昼』が懐かしそうな寂しそうな表情を見せる。
 の母親は、『昼』と『夜』の正当な主だったと聞くから、仕方ないだろう。

「そんでだ、今年お前等を呼んだ事によって、新しい決まりが出来た。来年も、お前等参加決定だからな!んで、三代目も強制参加!って、かーちゃんからのお達し」
「それは、俺らにとっては嬉しいが、三代目まで大丈夫なのか?」
「『昼』が言っただろう?今までは、火影は強制参加してたんだよ。俺がそれ知らなかったから、招待してなかったけど……だから、知ったからにはちゃんと呼べだと……あの人、顔に似合わずキツイし……」
『お前の母親は、お前にそっくりだったぞ』

 ぶつぶつと文句を言うに、「昼」が楽しそうに口を開く。
 って事は、ってやっぱり母親似って事だろうか。なんか、想像出来るってば……。

「う〜っ、何か納得出来ん!取り合えず、風呂入って着替えて来る!帰ったら、食うぞ!!流石に腹減った」

 『昼』の言葉に複雑な表情を見せていたかと思えば、そんなのは一転して椅子から立ちあがると奥へと入っていく。って、さっき『夜』に飲み物頼んでなかったか?

「……腹減ったって、がそんな事言うの初めて聞いた……それに、さっき『夜』に飲み物頼んでなかったっけ?」
『だろうな。清めの間は、食事は許されない。この奉納舞いが終るまで何も口にする事は出来ないからな。『夜』もの性格は知っているから気にするな』

 俺の疑問に、サラリと『昼』が答えてくれる。
 まぁ、風呂に入って着替えたいと言うの気持ちは分からなくもない。しっかりと化粧されて、重たそうな舞衣装だからなぁ。

「…あの衣装着てても、だなぁ……舞っている時は、別人に見えたのに……」
「それに関しちゃ、否定しねー。つーか、あれは反則だ……」
『何、が綺麗過ぎてびっくりした?』

 同時にため息をついた瞬間、後ろから声を掛けられて、かなり驚いた。
 いや、だって、何時の間にか戻ってきていたのか『夜』が突然話に加わったと言うのもあるが、図星を指されたのが一番だろう。

って、女顔なの怒っているけど、綺麗なのにね。ママさんにそっくりなの!』

 嬉しそうに言われる言葉は、先ほど『昼』も言っていた事だ。もし、の母親が生きていたとしたら、あんなのがこの世に二人も言ったって事で、きっと自分には遠い存在だっただろう。

『もし、主が生きていたら、四代目がお前ととを引き合わせただろう。そうなれば、もっと早くにここにも連れてこられただろうな』
『そうそう、きっとしか後継ぎが居ないって、絶対その時も舞う事になっていただろうしね』

 俺の考えていた事に、『昼』と『夜』が楽しそうに言葉を繋げる。
 もしも、の母親が生きていれば、俺の親父である四代目も生きていたと言う事。確かに、そう考えれば、二匹が言っている事も納得できる。

「んじゃ、俺は不参加かよ……」

 そんな二匹に、面白く無さそうにシカマルが零す。

『確かにそうだ。と奈良は関係を無くすな』

 そっか、そうなれば、シカマルは俺達とは全く接点を持たなくなる。それは、嫌かも……。
 今の関係が、一番しっくりとくる。

「何盛り上がってんだ?風呂場まで声聞こえてきたぞ」

 そんな中、風呂から出てきたが不思議そうに声を掛けてきた。
 声が聞こえてきても、内容までは聞こえてこなかったのだろう。

『ママさんが生きてたらって話をしていたの』
「ああ?かーちゃん??生きてたら、俺は奉納舞い免除されたよなぁ……」
『それは無いな』
『うん、それは無いね』

 『夜』が説明した内容に、がしみじみと言えば、『昼』と『夜』がそれを直ぐに否定する。

「って!なんでだよ!!」

 直ぐに否定された事に納得できずに、が二匹を睨む。

『主の性格からすれば、自分が面倒だからと息子のお前に譲るだろうし』
『うん、そんでね。きっと自分の息子を自慢しまくると思う』

 親馬鹿決定だな……。でも面倒だからって、大事な舞いを息子にやらせるのか?
 『夜』と『昼』が言うからにはそう言う性格だったんだろうけど、ちょっと考えると凄いかも……。

「有り得ねぇってぇか、あの性格なら、否定できねぇかも……」

 も、その母親の事を知っているのか、盛大にため息を付いた。

「まぁ、有り得ない話は置いといて、何時までもこんな場所に居たくねぇから、帰ろうぜ!」

 気を取り直してか、『夜』が持ってきた飲み物を一気に飲み干して、急かす様に歩き出す。
 それを見て、やっぱりも、ここの空気を好んでいないのだと言う事が分かった。

「また、来年な……」

 門を出る時、一度振り返って、がポツリと呟く。それを言い終えると、今度は振り返らずに門を出た。
 俺達も、を追うように門を出る。
 その瞬間、確かに存在していたその建物が一瞬にして消えていく。そう、門だけを残して……。

「俺という繋ぎが無くなれば、その場は消える。僅かな時間だけの特別な空間だからな……」

 驚いてみている中、何処か寂しそうな表情でが説明してくれた。

「んじゃ、速攻帰る!『昼』、『夜』繋ぎ宜しく!」

 だがその表情は本当に一瞬で、次の瞬間には、何時もの表情で二匹に声を掛ける。
 ここに来るのには、かなりの時間を費やしたと言うのに、帰りは一瞬で帰る事が出来たのは、ちょっと納得できないような気がする。
 まぁ、仕来りと言うモノに縛られているのは、人間も神も同じという事だ。
 ちょっとだけ、そう思わずにはいられなかったことは、黙っておこう。