「う〜っ、まさか、ナルトを泣かしちまうなんて、考えてもなかった……」

 『夜』に頼んで、ナルトを寝かしてから、盛大に息をつく。

 泣かない事が偉い事だとは思っていないけど、まさか、自分の前でナルトが泣いてくれるなんて考えもしていなかったのだ。

「ああ?俺的には、普通の事だと思うぞ」

 驚いている俺と違って、何時ものように禁書を読んでいるシカマルが、サラリと言葉を返してくる。

「ふ、普通なのか??」
「そうだつーの。お前とナルトはこの里でもっとも近い存在だと言ってんだろうが。だから、普通なんだよ」

 いや、だからで締めくくられても、意味分かんねぇって……。

 俺とナルトが、近い存在と言うのは、何となく分かるんだけど、それで、ナルトが泣いた答えにはならない。
 まぁ、正直言えば、ナルトが俺の前で泣いてくれたのは、かなり嬉しかったけど……。だって、俺の前で泣いてくれたって事は、俺の事を受け入れてくれたと言う証。

「でも、ナルトが受け入れてくれるなんて、思ってなかった……」

 だって、俺はこの里にとって、排除すべき存在。本当なら、存在さえしていなかった者なのだ。
 だからこそ、受け入れてもらえるなんて、思っても居なかった。

「ああ?何下らねぇ事考えてんだよ。つーか、お前も同じじゃねぇか」
「えっ?」

 ポツリと零した俺の言葉に、呆れたようにシカマルが盛大なため息を付く。
 そして言われた言葉に、俺は意味が分からずに首を傾げた。

「俺だって、お前の泣いた所を初めて見たんだよ」
「あっ!」

 不思議そうに見詰める中で、シカマルが不機嫌そうに言葉を返してくる。そして、言われた言葉で思い出した。確かに、俺もナルトの前で泣いたかも……。

「あ、あれは泣いたんじゃねぇぞ!」
「いや、十分泣いてたつーんだよ……お前だって、ナルトの前では泣くんだ、ナルトが受け入れない訳ねぇだろうが!!」

 慌てて言い訳した俺に、不機嫌そのままにシカマルがそう返してくる。って、なんでシカマルは、不機嫌なんだ??
 訳が分からないと言うようにシカマルを見詰めていた俺は、言われた言葉を考えて少しだけ複雑な気持ちになった。だって、俺は、シカマルが泣いているところを見た事がない。

「……んじゃ、シカマルは、俺の前では泣いてくれねぇの?」
「なっ!!」
「俺は、自分の手でシカマルを傷付けたとしたら今日みたいに泣く。それは、絶対だ。シカマルは?」

 自分の前で泣いてくれれば、受け入れてくれたと言う図式が全てだとは思わない。それでも、シカマルが、俺の事をどう思っているのか聞いてみたい。

「………――つーんだよ!!」

 俺の真剣な質問に、顔を真っ赤にしてシカマルが言葉をのべた。
 真っ赤になって言われたそれは聞き取り難かったけど、しっかりと俺には聞こえて思わず嬉しくって笑みを零してしまう。

 弱さを見せてくれる事は、自分を認めてもらったという事。それが、どんなに些細なことでも、大切に思っている相手だからこそ嬉しく思えるのだ。

「有難う、シカマル」

 真っ赤になった顔をそのままに、シカマルが手に持っていた本へと視線を戻す。それに、小さく謝礼の言葉を口にした。


 欲しい言葉を返してくれた事への感謝の言葉。
 でも、本当は誰にも泣いて欲しくはないと思うのが本音。
 だって、泣くと言う事は相手が傷付くと言う事。心の傷が深ければ深いほど、涙は重いものになるから……。
 それを知っているから、だから泣いてなんて欲しくはない。

 ナルトが俺の前で泣いたのは、今までその涙を受け止めてくれる相手に巡り会えなかったからだ。

「でもな、俺には、ナルトの涙は重いんだ……」
「ああ?」

 純粋な涙。だからこそ、その涙は重い。

 辛い事全てを押し流してしまえるのなら、幾らでも泣いて欲しいと思うけど、そんな事で全てが流れない事を嫌というほど知っているから、だからこそ今日のナルトの涙は、重かった。

「確かにな……あいつの涙は、あいつの人生全ての重さだからな」

 シカマルの言葉に小さく頷く。

 俺は、ちゃんと受け止められたんだろうか?
 この里全ての過去を知っている俺でさえも、ナルトの過去が辛いモノだと思えるのに、俺にはそれを全て支えられるだけの力がない。

「……心配すんじゃねぇよ」
「えっ?」
「お前は、ちゃんとナルトの全てを受け止めてんだよ。今更、んな心配するんじゃねぇ」
「シカ、マル」

 不安な気持ちを隠せない自分のその心を読んだようなシカマルの言葉と、向けられた笑顔に名前を呼ぶ。

「ずっと見てきた俺が言うんだから、間違いねぇよ」
「……自分は、信じらんねぇけど、シカマルの言葉は、信じられる……サンキュ、俺の傍に居てくれて」
「あ〜、礼なら、ここの禁書見せてもらってるつー事で返してもらってんだから、気にすんな」

 俺の言葉に、シカマルが今度こそ意識を自分の手元へと戻す。それにただ笑みを浮かべた。

!!』

 そんな鮮やかな雰囲気の中、賑やかな声が響き渡る。

「『夜』?」
『今日、ナルの部屋で皆一緒に寝よう!!』

 声の主はナルトを部屋に運んでくれた相手。何か問題でも起きたのかと思ってその名前を呼べば、嬉しそうな声が聞こえてきた。

「何?」

 だが、言われた内容が理解できなくって、思わず聞き返してしまう。

『だって、泣いた後に、独りで目が覚めるのって、嫌だよね?だから、今日はナルの処で一緒に寝るの!』
『だ、そうだぞ。『夜』の意見で、そう決まったから器のガキは一番デカイベッドがある部屋に運んでおいた』

 嬉しそうに説明された言葉と、続けて言われた言葉に、一瞬だけ考えて、それから苦笑を零してしまう。
 本当に、楽しそうな『夜』の姿に、俺は少し呆れながらも、そんな考えが思い付く『夜』に嬉しくって思わず抱き締めてしまった。

「『夜』!お前、やっぱり最高!!よしゃ!今日はナルトと一緒に寝る!!ほら、シカマルも行くぞ!!」
「なっ!俺は、これを読んでから……」
「んなものは、何時でも読める!拒否権ないからな!!これ、決定事項」
『決定、決定!!』

 ソファに座っているシカマルの腕を取って無理やり立たせてから、ナルトが寝ている部屋へと向かう。

 本当は、泣いている処を見られて、気まずいと思っているかもしれないけど、でも今を逃してしまったら、もうこの時間を取り戻す事は出来ないから、だから、自分が出来る事をしよう。
 ナルトを真ん中に、今日は皆で一緒の布団。

 これから始まる時間の為に……。
 

 そして、朝、ナルトがパニックを起こした事は、ここだけの話にしておこう。