「あんた昨日カッコイイ子と一緒に居たでしょう」
突然言われたその言葉に、私は自分に尋ねてきた相手を驚いて見詰めてしまう。
「隅に置けないわね、あんなカッコいい彼氏、何処で見つけたのよ」
一番仲のいい友人である彼女の名前は、さん。
さんが本当に楽しそうに訪ねてくるそれに、私は何と返せばいいのか分からなくって、でも、八神くんの事、彼氏だなんて……。
「ち、違うの。あ、あの人は、小学校の時の同級生で、妹さんの誕生日プレゼントを一緒に選んでいただけで、か、彼氏だなんて…」
自分で言いながら。顔が赤くなっていくのが分かる。
そんな贅沢な事、絶対に有り得ないよ。
「元同級生?でも、そんな相手とプレゼントを一緒に選ぶなんて普通はしないでしょう」
真っ赤になって言い訳する私に、だけどさんは、不思議そうに首を傾げた。
「それだけ、妹さんの事、大切にしてるんだと思う」
昨日の八神くんを思い出して、私は小さく笑った。
アクセサリーについて、本当に興味が無いのか、私が進めるモノに、困ったような表情を見せながらも、真剣に話を聞いてくれたのは、やっぱり妹さんの事が大切だからだと思う。
「その割には、あんたは嬉しそうね」
「だって、ずっと好きだった人と一緒に過ごせたんだよ。すっごく嬉しかった」
昨日の事を思い出して、嬉しくって顔がにやけて来る私に、さんが呆れたように呟く。
それに、私はニコニコと嬉しくって、素直に返事を返した。
だって、本当に信じられないぐらい嬉しかったから。
憧れの人と、一緒の時間が持てた事。
「でもあんた、昨日は欲しいモノがあるって言ってなかった?だから、珍しく一人ででも買い物に行くって……もしかして、彼氏に付き合って、目的のモノ買って来てないんじゃないの?」
「……うん、本当は、欲しいモノあったんだけど、折角八神くんが誘ってくれたんだから、自分の事なんて優先させちゃったら、罰が当たると思って……」
「バカね。限定モノだったんでしょう?」
「うん、でも、そんなのよりももっと素敵なモノが貰えたから……」
ずっと欲しくって、でも限定商品で、来週の休みにはもう既に手に入らないと思う。
だから、さんが、用事があって一緒にいけなくても、自分一人で買い物に出掛けていたのだ。
だけど、そんなモノよりも、私は八神くんと一緒に過ごせた事の方がすっごく大事。
だって、もうきっとあんな時間は持てないと知っているから……。
「らしいけど、自分の事よりも、他人優先なんて本当にバカな子ね」
呆れたように言うさんに、私はただ笑顔を返した。
「まっ、そこがのいい所でもあるんだろうけど」
笑顔を向けた私に、さんも笑顔で返してくれる。
でも、そんな事を言ってくれるのは、目の前のさんだけ。
「は、そのまんま変わるんじゃないわよ」
「変われないよ。でも、見掛けたのなら、声掛けてくれればよかったのに……」
「あ〜っ、なんて言うか、ラブラブの雰囲気に負けて声掛けられなかったのよ……本当に、彼氏じゃないの?」
「そ、そんな訳無いよ!!だって、八神くんは、憧れの人で、すっごく皆に慕われるような人なんだよ!私なんか相手にしてくれるわけ無いよ」
「ん〜っ、でもなぁ、彼氏もまんざらじゃなかったみたいよ。それに何時も言ってるでしょう、なんかって言うのは、間違ってるって」
さんの言葉に慌てて否定すれば、一瞬考えるようにしてから、さんが昨日の八神くんと同じような事を言う。
私はそれが可笑しくって、笑みを浮かべた。
「八神くんにも、言われた。なんかなんて言うのは、自分に失礼だって……」
「いい彼氏じゃない。そうよ、はもっと自分に自信を持ちなさい。周りにはあんなに強く出られるのに、なんで自分にだけは自信が無いのか不思議だわ」
呆れたようなさんの言葉に、私は困ったような表情を見せる。
自分を卑下する事が悪い事だと分かっているんだけど、どうしても自信なんて持てない。
周りの人達に強く出られるのは、だってそれが間違ってると自信を持って言えるから……。
だから、自信のある事にははっきりと言える。
でも、自分の事に関しては、何時だって自信なんて持てない。
それは、私と言う存在は本当にちっぽけで、何の力もないと思ってしまうから……。
「……だから、好きな人にも告白も出来ないんだよ……」
ポツリと呟かれたさんのその言葉に、私はただ困ったような微笑を浮かべる事しか出来なかった。
ずっとずっと、好きだった人。
きっと貴方は知らないでしょう、私のそんな気持ち。
ただ何時も、遠くから見てる事しか出来い人。
それでも、思う事は許されますか?

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