さんに会ったの?」

 休み明け、一番に空へとそう言えば、驚いたように自分を見てくる。

って、誰の事だ?」

 そんな空に、ヤマトが分からないと言うように質問してきた。
 まぁ、ヤマトはの事は知らないだろう。

 だって、本当に目だ立たない大人しい子だった。自分からは絶対に目立った行動なんてしない、そんな子だったからなぁ……。
 まぁ、俺にとってはその方が有難い事だけど、の魅力は分かる奴だけにしか分からないんだよ。

さんって言うのはね、太一の好きな相手よ」
「って、お前好きな奴なんて居たのかよ?!」

 俺がの事を考えている中、空がサラリとヤマトの質問に答えを返す。
 その空の言葉に、ヤマトが信じられないと言うように俺を見詰めてきた。
 確かに、そんな話は一度もした事がないから、知らなくっても当然だろう。
 だけど、自分は空と恋人関係にあって、中学2年の今を充実させているかもしれねぇけどな、人の事なんだと思ってるんだ!
 俺だって健全な中学生男児だぞ、好きな相手ぐらい居るに決まってるだろうが!

 本当に、失礼な奴だよな、こいつ。

「って言っても、小6の話だったんだけど、まだ好きだったのね」
「まぁ、俺も諦めてたんだけど、久し振りに会って、自分の気持ちを再確認しちまったんだよ」

 感心したような空の言葉に、俺は小さくため息をつく。
 確かに、好きだった事は否定しない。
 だけど、諦めていたと言うのも本当の事だ。
 だからこそ、久し振りに会ったに、その気持ちが再発したと言っても過言じゃない。

「で、その相手って?」
「私と太一は、6年の時同じクラスだったのよ。大人しい子で、弱いのかと思ったら、芯のしっかりした強い子だったわ。自分には厳しくって、他人には優しい、そんな子ね」

 空がヤマトにの事を説明するのを何処か遠くに聞きながら、俺は再度ため息をつく。
 に出会ったのは、本当に偶然。
 だからこそ、その偶然は、自分にとっては本当にラッキーな事だった。
 と一緒に居たあの時間は、とても鮮やかで安らげたのだ。

「それで、太一は告白……」
「出来る訳ねぇだろう!大体、久し振りに会ったクラスメイトに、行き成りずっと好きだったって言われて、お前は素直に頷けるのかよ!」

 空から説明を受けたヤマトが、人事だと思って簡単に言ってくれたその言葉を、否定する。
 行き成り会った相手から告白されたら、彼女はきっと怯えてしまうと思ったから……。

 折角自分の隣で笑ってくれる彼女のその笑顔を、曇らせたくはなかった。
 だから、何も言える筈が無い。

「まぁ、その気持ちも分からなくないんだけど、それでいいの?」

 ヤマトを睨みつけた俺に、空が小さくため息をついて、訪ねてくる。
 分かっている。
 自分の気持ちをに伝えなければ、きっとこの恋を終わらせる事は出来ないだろう。

「……駄目元はしたくねぇんだけど、このままってのは、俺らしくないんだろうな……」
「そうね。携帯の番号ぐらい聞いてきたんでしょう?連絡してみたら」
「残念な事に、聞いてない……そんなずーずーしい事出来ねぇだろう……」

 好きだからこそ、彼女に嫌われるような事はしたくない。

「……今時何言ってるのよ!初めて会った相手にだって、簡単に携帯番号聞く世の中だって言うのに、何その純愛は!あんた、本気でさんの事が好きなら、ちゃんと聞いてこなくってどうするのよ!」
「ってもなぁ、本当に偶然会って、ヒカリへの誕生日プレゼントを選んでもらっただけだしなぁ……」
「だけじゃないでしょう!それをネタに、今度正式にお礼がしたいからとか何とか言えば、携帯番号の一つぐらい教えてもらえるでしょうが!!」

 ぜーぜーっと肩で息をしながら言われたその言葉に、ポンッと思わず手を打つ。

 確かに、空の言う通りだ。
 そう言えばきっと彼女も初めは断っても、俺が押せば教えてくれたかもしれない。

「その手があったか……」
「その手があったかじゃないわよ!そんなの常識でしょう!!あんた、今日はさんが通ってる学校に行って、正式にお礼して来なさい!!」

 素直に感心した俺に、空が怒りをそのままにドアを指差した。
 空の気持ちが分かるからこそ、俺はその言葉に素直に頷く。

「んじゃ、駄目元で、行って来るか……」

 背中を押してくれた大事な幼馴染の言葉に従って、昼の授業は自主休業。
 彼女が通う中学校名だけはしっかりと聞いてきたので、目的地はその彼女の通う中学校へ。





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