久し振りに、出会ったあの人は、何も変わっていなかった。
その真っ直ぐな瞳も、太陽のような笑顔も……。
高嶺の花と言われるほどに人気の高かった貴方。
でも、そんな事全然鼻に掛けたところもなくって、どんな相手にも自然に接して、優しく包んでくれる人。
そんな中で、数人の彼等にだけは、他の誰とも違う態度を見せていた事を知っている。
彼等は、貴方にとって大切な人なのだと言う事が、私の目から見ても直ぐに分かった。
ねぇ、ずっと見ていました。
こっそりと、本当に目立った事なんて出来なかったんですが、ずっと貴方の事を見ていました。
だから、今貴方に出会えた事が、こんなにも嬉しいんです。
「だよな?久し振り、元気だったか?」
そう言って笑ってくれた貴方に、私は驚きを隠せませんでした。
だって、私の事を知っているなんて、そんな事思いもしなかったから……。
「ああ、もしかして覚えてねぇか?同じ小学校だった八神太一だけど」
少し困ったように名前を言う貴方に、私は顔を真っ赤にして、大きく首を振って返す。
忘れる事なんて出来なかった人だから……。
そして、私なんかと違って、あの学校で貴方を知らない人なんて居る筈ない。
「お、覚えてます!!あ、あの、私の事、ご存知なんですか?」
必死に勇気を振り絞って、貴方に質問。
私のそんな質問に、貴方はあの太陽のような笑顔を向けてくれる。
「ああ、知ってるに決まってるだろう。同じクラスだったんだからな」
笑いながら言われた言葉に、私は思わず笑顔を浮かべた。
だって、本当に目立たなくって、地味な私の事を彼が知っていてくれたから……。
「や、八神くんも、元気そうだね……」
「おう、俺は変わらねぇよ。…あっ、はもしかして、これからデートか?」
声を掛けてくれた事が嬉しくって、私も頑張って彼に話し掛ける。
そんな私に、八神くんは、ちゃんと返事を返してくれた。
そして、心配そうに問い掛けられて、慌てて首を横に振る。
「そ、そんなんじゃないの。時間があったから、買い物でもしようかと思って……友達も少ないから…一人で……」
慌てて否定して、だけど言いながら私の声はどんどん小さくなっていく。
だって、大人しい私なんかを相手してくれる人は本当に少なくって、男の子だってこんな地味な子を相手にしてくれる訳ない。
「そっか、俺も今日は、予定が空いちまったからなぁ……もしが良ければ、一緒してもいいか?」
俯いてしまった私に、八神くんが何かを考えているのが気配で分かる。
だけど、次に言われた言葉に、私は驚いて顔を上げた。
だって、今凄い事聞かれたような気がする。
一緒って、私と八神くんが、一緒に買い物するの??
「やっぱり、駄目だよなぁ……彼氏に悪いもんなぁ……」
何も言えずに驚いて八神くんを見詰めていた私に、彼は申し訳なさそうに苦笑を零した。
「そ、そんな事無いよ!だって、私、か、彼なんて、いないし……む、むしろ、私なんかと一緒にいて八神くんの方が、迷惑なんじゃ……」
「俺は迷惑じゃねぇけど……おいおい、自分なんかってのは違うだろう。俺の方が誘ったんだから、そんな風に自分を言うのは間違ってるぞ」
「えっ、あの、その……」
慌てて言った言葉に、八神くんが呆れたように言葉を返してくれる。
だけど、そんな風に言われるなんて思ってもいなかったから、私は言葉に困ってしまった。
でも、言われた事はすっごく嬉しくって、俯きながらも、小さな声でお礼の言葉を口にする。
「……あ、有難う……」
自分の事を真剣に思ってくれたその言葉に、私は嬉しくって泣きたくなった。
彼は、やっぱり変わらない。
どんな時でも、暖かな人。
「実は、もう直ぐ妹の誕生日なんだ、悪いけどプレゼントを一緒に選んでくれねぇかな……」
少しだけ照れくさそうに言われたその言葉に、彼の優しさを知る事が出来る。
私は、ニッコリと精一杯の笑顔を彼へと向けた。
「はい、私で良ければ……」
大好きな人からの信じられないお誘いに、直ぐに返事を返してしまう。
だって、こんな事これから先あるかどうかも分からない位、夢でも見ているんじゃないかって思えるぐらいの幸せな時間。
「そっか、サンキュ。んじゃまず、女の子ってどんなもん貰えば喜ぶんだ?」
返事を返した私に、八神くんが何処かほっとしたようにお礼の言葉。そして、続けて言われたそれに、私は何と言うか少しだけ考える。
「や、八神くんの妹さんって、何歳くらい?」
まず考えなくっちゃいけないのは、八神くんの妹さんの情報。
折角八神くんが私なんかを頼ってくれたんだから、その期待にしっかりと答えなくっちゃ!
「ヒカリは、今年小6……って、幾つになるっけ??」
年齢じゃなくって学年で返してきた八神くんに、思わず笑みを零す。
「小6って事は、12歳だね……それじゃ、結構女の子らしい物とか喜ぶんじゃないかな」
小学校6年生っていったら、かなりお洒落とかに興味が出てくる年頃だと思う。
私は、そんな事無かったんだけど、その頃の子って可愛いモノから綺麗なモノへと興味が移る時期だって、何かで得た情報を思い出した。
「女の子らしいもの?」
真剣に考えて言った私のその言葉に、八神くんが不思議そうに問い掛けてくる。
「うん、小さい子なら縫ぐるみとか喜ぶと思うんだけど、その年頃になるとアクセサリーを貰った方が喜ぶと思うよ」
「そう言うもんなのか?」
「うん、それでもっと年齢が高くなると、宝石になるんだと思う……私は、そう言うのよく分からないんだけど……」
意味が分からないと言うような八神くんに、私なりの考えを伝えれば、納得したのか『そう言うもんか…』と再度呟く声が聞えた。
八神くんの妹さんは、昔何度か見た事がある。
すっごく可愛い子だから、アクセサリーを選ぶのも楽しそう……。
私なんかと違って、何でも似合いそうだし……って、また落ち込んできた……。
「んじゃ、お前に任せる……俺、そう言うのますます分かんねぇからなぁ……ヤマトは結構好きそうだけど……」
落ち込んできた私の耳に、八神くんの少し困ったような声。
そして、聞えてきたその名前に、苦笑を零した。
今も、八神くんの周りには彼等が居るんだと言うその事実。
私はその中に入る事は出来ないけど、今、この時間が持てた事だけを喜ぼう。
「アクセサリーって言っても、今はそんなに高くは無いんだよ。手ごろなお店もあるし、最近は男の人もそう言うのを身に付ける人多くなったから、お店も女の子ばっかりでもないし……石田くんは、確かにそう言うの好きそうだね」
必死で説明してから、言われた名前を口にする。
八神くんは、スポーツ少年って感じだけど、石田くんは文科系って気がする。
昔の友達の話では、石田くんは中学校に入ってから、バンドを始めたって聞いたから、八神くんが言うのも分かる気がする。
けど、石田くん達が愛用すのは、どっちかと言えば、シンプルって言うよりもカッコいいのが多いと思うから、妹さんのプレゼントはにちょっと向かないかも……。
「ああ、ヤマトの事知ってるのか?でも、クラス違ったよな??」
私の言葉に、八神くんが少しだけ驚いたように質問。
確かに彼とは一緒のクラスになった事はないけど、お台場小学校では有名人な人だった彼を知らないはずはない。
「……石田くん、有名だったから……それに、八神くんと仲良くって、良くクラスに遊びに来てたの何度か見た事あったから……」
驚いて質問して来た八神くんに、私は小さな声で返事を返す。
だって、八神くんの事を見ていたから知ってるんだなんて、絶対に言えない。
「そっか、あいつの容姿って目立つもんなぁ……」
私の小さな声は、八神くんにはちゃんと届いていたようで、納得したように頷く。
そんな八神くんに、私はただ困ったように笑みを浮かべた。
確かに石田くんの容姿って、すっごく目立つのは本当の事。
だけど、同じように八神くんも目立っていたんだって事、彼はきっと知らないのだろう。
それは、容姿なんて関係ないんだって……。
「んじゃ、案内頼むな」
そう言って貴方が笑うから、私も笑顔で頷いて返した。
まるで当然のように私に接してくれる八神くんは、やっぱり素敵な人です。
それが分かった今日の休日は、私にとって本当に大切な思い出になりました。

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