小学校の時、好きな女の子が居た。
 その子は、目立ったりしない本当に大人しい女の子。
 だけど、自分には厳しいけど他人にはすっごく優しい子で、何度か下級生の面倒を見ているのを見かけた事がある。

 当然のように同じ中学に進学するだろうと思っていたから、遠くからそっと彼女の事を見ているだけだった。
 なのに、その子は俺の予想に反して別の中学校へと進学したのだと知らされて、かなりショックを受けたのだ。

 そう、自分の気持ちを彼女に伝えられなかった事にかなり落ち込んで、幼馴染の少女に心配をさせたほどである。
 だから、もう手の届かなくなった彼女に偶然出会えた事は、自分にとって本当に嬉しい出来事だった。

だよな?久し振り、元気だったか?」

 そう言って、彼女の肩を叩いて笑顔を向ける。
 突然肩を叩かれて驚いたように振り返った彼女は、俺の顔を見て更に瞳を見開いた。
 驚いて俺を見詰めてくる彼女に、凄くドキドキしているけど、それを表に出さないように俺は自分の名前を口にする。

「ああ、もしかして覚えてねぇか?同じ小学校だった八神太一だけど」

 慌てて名前を言えば、彼女は顔を真っ赤にして大きく首を振った。

「お、覚えてます!!あ、あの、私の事、ご存知なんですか?」

 真っ赤な顔のまま、彼女が俺に質問する。
 変わらないその表情。俺がずっと見ていた彼女の瞳。

「ああ、知ってるに決まってるだろう。同じクラスだったんだからな」

 当然だと言うように言葉を返した俺に、彼女がフワリと笑顔を見せる。
 どこかほっとするようなその笑顔は、実は俺が彼女を好きになった処の一つ。

「や、八神くんも、元気そうだね……」
「おう、俺は変わらねぇよ。…あっ、はもしかして、これからデートか?」

 そして、続けての質問に俺は笑顔で答えた。そして、一番気になった事をさり気無く訪ねる。
 もし彼氏が居るのなら、俺と一緒に居るのを見られたりしたら、それこそ彼女に申し訳ないと言うように問い掛ければ、慌てて首を振って返された。

「そ、そんなんじゃないの。時間があったから、買い物でもしようかと思って……友達も少ないから…一人で……」

 俺の問い掛けに慌てて答えが返されて、少しだけほっとする。
 そして、思い知らされるのは、今でも彼女の事が好きだと言う自分の気持ち。
 自分の気持ちを再度思い知らされて、彼女が言ったその言葉に一瞬考えを巡らせた。
 折角の偶然。それを無駄にするなんて勿体無い。

「そっか、俺も今日は、予定が空いちまったからなぁ……もしが良ければ、一緒してもいいか?」

 考えて思いついた事を提案すれば、信じられない言葉を聞いたと言うようにが俺を見上げてくる。
 真っ直ぐに見詰めてくるその瞳に、俺は少しだけ困ったようにため息をついた。

 確かに、今はデートって訳ではないかもしれないけど、彼氏が居るかもしれないのだ。
 俺と同じように、大人しい彼女の魅力に気付いた奴が……。

「やっぱり、駄目だよなぁ……彼氏に悪いもんなぁ……」

 何も言わないに、俺は諦めたように小さくため息をつく。
 そんな俺に何を思ったのか、は音が聞えそうな程大きく首を振って必死に言葉を返してきた。

「そ、そんな事無いよ!だって、私、か、彼なんて、いないし……む、むしろ、私なんかと一緒にいて八神くんの方が、迷惑なんじゃ……」
「俺は迷惑じゃねぇけど……おいおい、自分なんかってのは違うだろう。俺の方が誘ったんだから、そんな風に自分を言うのは間違ってるぞ」
「えっ、あの、その……」

 慌てて返されたその言葉は、俺にとっては願ってもない言葉。
 だけど、その言い方に俺は訂正させるように、少しだけ咎めるようにへと返す。

 自分が好きになった相手だからこそ、例えその本人だとしても卑下にするなんて許せない。

「……あ、有難う……」

 そんな俺の言葉に、彼女はただ礼の言葉を言って俯いてしまう。
 何を考えているのか分からないけど、素直にそう言える彼女の事を、俺はやっぱり好きなんだとそう思わずには居られない。

「実は、もう直ぐ妹の誕生日なんだ、悪いけどプレゼントを一緒に選んでくれねぇかな……」

 だからこそ、その沈黙が堪えられなくって、俺は自分に言い訳するように彼女へと再度誘いをかける。

「はい、私で良ければ……」

 俺の言葉に彼女は顔を上げて、ニッコリと笑顔で頷いてくれた。
 その笑顔に、俺も笑顔を返す。
 自分の誘いに頷いてくれた事が嬉しくって……。

「そっか、サンキュ。んじゃまず、女の子ってどんなもん貰えば喜ぶんだ?」

 自分の気持ちを彼女に知られたくないから、俺は慌てて話題をプレゼントの事に切り替えた。
 もう直ぐヒカリの誕生日って言うのは本当の事だけど…。
 本当は空にでも言って手伝ってもらつもりだったのだが、これはこれで自分にとってはかなり都合のいい誘いだった。

「や、八神くんの妹さんって、何歳くらい?」

 俺の質問に、彼女は真剣に質問を返してくる。
 真面目な彼女らしくって、俺は思わず笑いたいのを必死に堪えた。
 そんな彼女が可愛いと思えるから……。

「ヒカリは、今年小6……って、幾つになるっけ??」

 それでも、必死に質問してくる彼女に、聞かれた質問の答えを返す。
 だけど、年齢の方が出てこなくって、学年で返した。

「小6って事は、12歳だね……それじゃ、結構女の子らしい物とか喜ぶんじゃないかな」

 学年で返した俺に、彼女がクスリと笑ってそれでも、ちゃんと考えて提案してくれたモノが余りにも抽象的なモノ過ぎて意味が分からず、首を傾げた。

「女の子らしいもの?」

 真剣に考えている彼女に問い掛ければ、小さく頷いて返してくる。

「うん、小さい子なら縫ぐるみとか喜ぶと思うんだけど、その年頃になるとアクセサリーを貰った方が喜ぶと思うよ」
「そう言うもんなのか?」
「うん、それでもっと年齢が高くなると、宝石になるんだと思う……私は、そう言うのよく分からないんだけど……」

 真剣に返してくる彼女に、俺は分からないというように問い掛ければ、彼女は一般論だというように教えてくれた。

「そう言うもんか…」

 勿論、それが本当なのかどうかは俺には分からないけど、穴柄見当違いと言うものでもないだろう。
 それを証拠に、この頃ヒカリは可愛いアクセサリーを買って来ては、自分に見せてくれるのだ。
 勿論、見せてもらっても自分には良く分からないモノなのだが……。

「んじゃ、お前に任せる……俺、そう言うのますます分かんねぇからなぁ……ヤマトは結構好きそうだけど……」

 思い出した事で納得した俺は、小さくため息をついて、全てを彼女に任せる事にした。
 あんまりジャラジャラしたモノが好きじゃねぇ俺は、アクセサリーと言われても、ピンッと来ない。
 だけど中学に入ってバンドを始めたヤマトが、シルバーアクセに嵌っているのを思い出して思わずその名前を出してしまう。

「アクセサリーって言っても、今はそんなに高くは無いんだよ。手頃なお店もあるし、最近は男の人もそう言うのを身に付ける人多くなったから、お店も女の子ばっかりでもないし……石田くんは、確かにそう言うの好きそうだね」

 俺の呟きに、彼女が簡単に説明をしてくれる。
 そして、俺の出した名前に反応して懐かしいと言うように、何処か遠くを見るような視線でがヤマトの名前を口にした。
 のその言葉で、ズキリと走る胸の痛み。

「……ヤマトの事知ってるのか?でも、クラス違ったよな??」

 まさかの口からヤマトの名前が出て来るとは思っていなかったので、胸の痛みを隠しながらもへと問い掛ける。俺の質問に、が少し困ったように俯いた。

「……石田くん、有名だったから……それに、八神くんと仲良くって、良くクラスに遊びに来てたのを何度か見た事あったから……」

 そして、そっと理由を説明してくれる。
 そう言えば、お台場小では、あいつの容姿って目立つもんなぁと、思わず納得してしまう自分。
 がヤマトの事を知っている理由が、俺の考えている理由じゃない事に、ホッと旨を撫で下ろす。

「そっか、あいつの容姿って目立つもんなぁ……」

 ホッとして納得したように頷けば、もただ小さく頷いた。
 だからこそ、他の男の話なんてそれまでにして、俺は目的の為にへと再度笑顔を向ける。

「んじゃ、案内頼むな」

 そう言って笑えば、彼女も笑顔を返してくれた。

 そして、その日。
 は、俺の妹の為に本当に真剣にプレゼントを選んでくれた。
 何年経っても変わらないに、俺の気持ちはまた彼女へと向かっていく。

 彼女が好きだと……。






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