「お、お母さん、可笑しくない?」
クルリと一回りして、私の姿をお母さんに見せる。
こんな時、ちょっと格式高い女子中学に通っていたのが役に立った。
授業の一貫に着付けが入っていた時には、必要なのか疑問に思ってしまったけど、きっとこう言う時の為にあるんだろうと今なら納得できる。
「可笑しくないわよ。それにしても、本当にあんたにしてはカッコいい子を捕まえたわよねぇ」
私の姿を確認して、合格点を出してくれたお母さんは何時もの事なんだけど、しみじみと口を開いた。
「まぁ、私としては、あんたに彼氏が出来た事の方が驚きなんだけどね」
何度も聞かされている内容だけど、言われる都度に顔が赤くなってしまう。
それは、私が一番信じられない事なのだから……。
「うん、私なんかの彼氏には勿体無いよね……」
ポツリと呟いた私の言葉に、お母さんがため息をつく。
私の口癖は、皆から呆れられてしまう。
でも、思ってしまうのだ。
私なんかが、八神君の彼女でもいいのだろうか、と……。
「ほら、そんな事言うもんじゃないでしょ。あんたの事を好きになってくれた八神君に失礼よ」
「うん、そうだね」
でも、『なんか』て言うのは、私を好きになってくれた八神君に対して失礼だって事もちゃんと分かっている。
こんな自分でも、誰かに好かれるなんてそれはとっても幸せな事だとも思う。
それが、自分が好きになった相手だと言うのは、奇跡のような事だ。
「そう言えば、お父さんは?」
「拗ねて部屋に閉じこもっているわよ」
そして気付く、何時もならこの時間居間に居るはずの父親の姿が見えない事に……。
「毎年一緒に過ごして居たのに、あんたが彼氏と出掛けるんですもの、そりゃ拗ねるわよ」
私の質問に、楽しそうにお母さんが笑う。
でも、私にとっては、笑い事じゃない!
そんなに彼氏、彼氏って、言わないで……どうしても顔が赤くなっちゃうんだけど……。
それに、言われた内容は、お父さんが私の事を大切に思ってくれているのだと分かるからこそ、素直に口を開く。
だって、毎年家族皆でお正月を迎える事が当たり前だったのだから……。
「うん、突然だったから、お父さんに悪い事しちゃった……」
「何言ってるのよ!普通の子達は、親とじゃなくって、友達と年を明かすのが常識のこの御時世なのよ。あんたは漸く普通になったの」
素直に悪い事をしたと言うように口を開けば呆れたように返される内容。
だけど、余りにも以外だったその言葉に、私は一瞬考えてしまう。
「そ、そんなもんなの?」
世間一般の常識さえ、私にはないんだろうか?
って、今の若い人達は、家族よりも他を優先しちゃうんだ。
それって、ちょっと悲しいかもしれない……。
「そんなもんよ。いいんじゃないの、お父さんも子離れ出来て」
本当、お母さんってズバズバと言いたい事言っちゃうんだもんなぁ。
どうしてこんなお母さんから、私みたいなのが出来ちゃったんだろう?
「そんな事よりも、そろそろ時間じゃないの?ちゃんと準備出来てるの?」
考え込んだ私に、お母さんが心配そうに問い掛けてくる。
言われて時計を見れば、もう直ぐ11時。
「いけない!」
「寒いみたいだから、襟巻きして行きなさいよ」
「は〜い」
もう直ぐ八神君が来る時間だ。
慌てて玄関に向った私に、お母さんの声が聞えて来て素直に返事を返した。
勿論、ちゃんと襟巻きを手に持って……。
その瞬間、鳴り響く呼び鈴に慌てて玄関の扉を開いく。
扉を開いた先には、少し驚いたような八神君の顔。
だけど、それは直ぐに私の大好き笑顔になった。

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