八神君と、そのお付き合いし始めてから、私の世界は全てが変わった。
 ううん、変わったって言うのとは違う。
 だって、私自身は何も変わっていない…と、思うから

は、深夜に抜け出しても、大丈夫か?」

 考え込んでいた私の耳に、心配そうに八神君が声を掛けてくる。
 正直話を聞いていなかった私は、その質問の意味が分からずに、思わず首を傾げてしまった。

「えっと、何?」

 目の前には、八神君の仲間だと紹介された数人の視線が私に向けられている。
 そんな視線を受けながら、意味も分からずに返事を返す事が出来ず聞き返す。

「あのね、私達毎年新年には、神社にお参りに行くのよ。皆揃ってね」

 私の質問に、武之内さんが説明してくれる。
 ああ、だから深夜なんだ……なんて、納得した私に、更にみんなの視線が痛い。
 それは、私の返事を待っているのだろう。

「えっと、大丈夫だと思うけど……八神君の信頼厚いし……」

 多分、八神君の名前を出したら、お母さんは速攻でお許しを出してくれるだろう。
 正直言って、八神君はお母さんのお気に入りだから……。
 お母さんが許してくれれば、お父さんは渋々ながらも許してくれる。
 基本、家はお母さんの方が立場が上だから

「紳士にしてて良かったわね、太一」

 そんな私の言葉に、武之内さんがからかうように八神君を見た。

「おう!おばさん請けは大事だな」

 だけどそのからかいを、全く気にした様子もなく笑顔で返した八神君にちょっと笑ってしまう。

「それじゃ、もOKってことで、今夜11時半に何時もの場所だからな!」

 八神君の確定事項を告げるそれに、皆が大きく頷く。
 私も、それに頷いて返した。

 今日は大晦日。
 明日には、新しい年が始まる。

 こうして、私がみんなの中に居られるのは、八神君の彼女として認めてもらえたから。
 暖かく私を迎え入れてくれた皆に戸惑いを隠せなかったんだけど、こんな自分を受け入れてくれたみんなの気持ちが嬉しかった。
 全ての事がスムーズに決まっていく、そんな手馴れている遣り取りを一歩下がって聞いている私。

 そして、全ての事が決まれば、その場は一時解散になる。
 流石に、皆が集まって居る訳ではなかったんだけど、八神君に妹のヒカリちゃん、武之内さんに泉くん、タケルくんに大輔くんと私の7人。
 他の皆は夜には確実に集まる事になって居るらしい。
 全員集合すれば、12人私を入れれば、13人。
 あっ!でも、今ミミちゃんはアメリカだから、調度12人……それでも、やっぱり多いと思うんだけど……
 そ、それにみんな可愛いしカッコいい子ばかりだから、かなり目立つんだよね。
 初めて皆を紹介された時は、本当にドキドキだったのは、今でも忘れられない出来事だ。



 昔を思い出していた私は、突然名前を呼ばれて顔を上げる。 

「11時に迎えに行くから!」
「えっ?」

 そして、顔を上げた瞬間、言われたその言葉に、意味が分からずに思わず素っ頓狂な声を上げてしまうのは仕方ないよね。

「ちゃんと準備しとけよ」

 言う事だけは伝えたと言うように、八神君はさっさと遠去かって行く。

「本当、やけちゃうわよね」

 もう既に姿が見えなくなった八神君に、呆然としていた私は武之内さんに言われたそれで、顔が赤くなってしまった。

さんは、着物?」
「えっと、でも、それだと動けなくなりそうだし……」

 お参りに行くなら動きやすい格好の方がいいような気がするんだけど……。

 確かに着物は、新年のお参りに行く格好としては一番合っていると思うんだけど、逆に動きを制限させられてしまうと言う厄介なものでもある。
 確実に人で溢れているだろう初詣だと言うのだから、それを着ていく事に抵抗があるのだ。
 それに、何よりも動きが制限されると言う事は、皆に迷惑を掛けると言う事に繋がるのだから……。

「結構大丈夫よ。それに、危なくなったら助けてくれる相手が居るから、更に大丈夫」

 私の心配を汲み取ったのか、武之内さんがニッコリと笑顔で口を開く。
 た、確かに、八神君なら危なくなったら助けてくれるだろう。
 しかも、迷惑なんてそんな事言ったら、逆に怒られてしまいそうだし……。

「武之内さんは、着物?」

 でも、確信もって言われたそれに、毎年の決まりごとって事は、武之内さんは経験者だろうと思って問い掛ける。

「ええ、女の子は皆着物ね。まぁ、決まってる訳じゃないんだけど……折角だから」

 私の問い掛けに笑いながら言われたその言葉に、決心が揺らぐ。
 確かに動きは制限させられてしまうけど、女の子が皆着物姿だと言うのは、とっても華やかだ。

 しかも、選ばれし子供達の女の子はみんな綺麗だから特に華やかだろう。
 それに、私なんかが入っていいのかは分からないけど、一人だけ私服と言うのはちょっとだけ寂しい。

「太一は期待してるわよ、きっと」

 どうするべきかを考えていた私の耳に、武之内さんの声が聞えてきて顔を上げる。

「えっ?」

 一瞬何を言われたのか分からなくって、思わず聞き返してしまった。
さんの着物姿」

 そんな私に、武之内さんは楽しそうに口を開く。
 その言われた言葉に、ボッと顔が赤くなってしまう。
 ここに、八神君が居なくって本当に良かった。

「……が、頑張って着物着るね!」
「楽しみにしてるわね」

 でも、その言葉が決定打になって、私が着物を着る決意をしたのは言うまでもない事だと思う。

 だって、好きな人には晴れ姿見せたいって思うのは、女の子なら当然だよね?






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