俺が、彼女の事を名前で呼ぶようになったのは、何時からだっただろう?
 それは、再開した日から、調度一年。
 俺達は、中学3年と言う最上級生の立場になった。

 もう、受験も間じかの時期。

  の通っている学校は、中・高・大と統一された名門。
 きっと、そのまま高校へと進学が決まっているのだろう。

 でも、俺は……。

「八神君?」

 ボンヤリと先の事を考えていた俺に、 が心配そうに声を掛けてくる。

「何でもない」

 将来の事に、こんなにも不安を感じた事なんて、一度もなかった。
 彼女と一緒に居るこの時間を知ってしまったからこそ、俺は弱くなったのかもしれない。

 ずっと、彼女を失いたくないと、そう思ってしまっているのだから……。

 何時まで、俺は彼女と一緒に居られるのだろうか?

「八神君、あのね、聞いてもらいたい事があるの」

 そんな事ばかりを考えている俺に、の真剣な声が聞えて来た。

?」

 突然真剣に自分を見詰めてくるに、俺は何を言われるのか分からずに、ただそんな彼女の瞳を見詰め返した。

「私、xx高校を受験しようと思っているの!」

 そして、真剣な表情のまま言われたその言葉に、俺は一瞬自分の耳を疑ってしまう。

 xx高校。
 それは、俺が受験を考えている高校の名前。



 本当なら、受験なんて必要無いが、受験を考えているなんて……。
 それは、全部俺の為?

「今までずっと両親の言葉に従ってきたんだけど、初めて自分の意志で考えたんだ。最初は反対されたんだけど、許してくれたんだよ」

 フワリと、俺の好きになった笑顔を見せながら言われたそれに、思わずそんな彼女を抱き締める。

「や、八神君」
 突然の事に、驚いて名前を呼んでくるに、俺はぎゅっと抱き締めてその耳元に、そっと囁いた。

「太一だ」
「えっ?」
「もう、名前で呼んでくれてもいいだろう?」

 俺の為に進路を変えてくれた彼女の気持ちが嬉しくって、そして、何よりもずっと望んでいたその願いを叶える為に……。

「八神君……」

 俺の腕の中で、不安気に名前を呼ぶの声。

「これから、高校では公認カップル目指したいからな」
「えっ?あの……」

 そっと離れて彼女の顔を見れば、真っ赤になって俺を見上げてくる。

「だから、名前で呼んで欲しい」

 我が侭だと分かっているけど、望んでしまう。
 だって、彼女の心は、何時だって広くって、俺を包み込んでくれるから……。

「ヒカリ達は名前呼びなのに、彼氏は苗字呼びってないだろう?」
「えっ、でも、そんな急に……」

 だから、俺はどんどん我が侭になる。
 彼女なら、どんな俺でも受け止めてくれると、そう思えるから……。



 ニッコリと笑って彼女の名前を呼ぶ。
 彼女がこの笑顔に弱い事を知っているから……。

「……た、太一くん……」

 そんな笑顔を見せれば、彼女が真っ赤になって必死に俺の名前を呼んだ。
 って、くん付けで……。

「まぁ、今はそれで我慢しとくか……」

 真っ赤になっている彼女の頬に、そっとキス一つ。
 まだまだ彼女との関係は、一年だけ。
 だけど、これからもずっと、一緒に居られるのだと言う確信が持てた一瞬。

 大丈夫、だって彼女は、俺にとって掛け替えのない人だから!
 だからこそ、手放したりなんてしない。

 そう、心に誓った日。
 彼女が、初めて俺の名前を呼んだ日。

 ……違った。
 俺が、無理矢理呼ばせた日だな…。






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