「全く、お前等何やってんだか…… 、遅いから何時ものように送ってくからな」

 お互いに頭を下げあっている目の前の二人に、俺はため息をつきながらも時間を確認して急かすようにへと声を掛けた。

 何時もの事だけど、時間はかなり遅い時間になっている。
 ヒカリ達の出現にはかなり驚かされたが、の事を悪く思っていない事が分かって、かなりホッとしたと言うのもを急かす原因になってるのかもしれない。

 もっとも、こいつの場合は、年下の奴等にかなり人気が高かったんだけどな。
 ヒカリもそんなだからこそ、こいつの事を知っていたのだろう。

 クラスの奴等には影が薄いのに、年下にはその存在を十分知られていると言うのも何とも変な話だ。

「だ、大丈夫だよ!今日は、妹さん達が居るんだから、私は一人で帰るね」

 促すように声を掛けた俺に、が慌てて遠慮の言葉を口にする。

 全く、どうしてこんな所でこいつは一歩引いちまうんだろうか?

「いえ、あのヒカリちゃんは僕が送っていくから、太一さんは彼女を……」
「ダメだよ!小学生がこんな時間に歩き回ったりしちゃ!この辺は、暗いから危ないんだよ」

 そんな に、タケルが慌てて口を開けばそれを許さないと言うように続けて口を開く。

「お前なぁ、そんな危ない場所を、一人で帰るつもりなのか?」

 小学生が危ないって言うのなら、女である自分も危ないって事に気付けよ……。

「あっ」

 俺に言われて、その事に気が付いたのだろうが、しまったと言うような表情を作る。

「たく、本当に、自分の事は後回しだな、お前は……」

 そんなに、呆れたようにため息をつく。

「う〜っ、ごめんなさい……でもでも、本当に私は大丈夫なんだよ!」

 ため息をついた俺に、は申し訳なさそうに謝ってから、それでもまだ大丈夫だなんて言い張る。

 お前、俺のため息の理由、分かっていないのだろう。

「タケルにヒカリ、お前等も一緒に行くんだろう?」

 だから、主張するその言葉を無視して、下の二人組みに声を掛けた。
 俺の質問に、二人は一瞬お互いの顔を見合わせてから、その意図を理解したのだろう、力強く頷く。

「あ、あの、八神君?」

 自分の言葉を無視されたが恐る恐る名前を呼ぶのが聞えてきたから、漸くその視線をに戻した。

「って、訳だから、送って行くからな」

 不安そうに自分を見詰めてくるその瞳に、笑顔で決定事項を伝えれば、困ったような表情でが俺を見上げて来る。

「お兄ちゃんがこんな風に言う時は、何を言っても無駄ですよ。それに、さんを一人で帰すなんて、私達も心配ですから」
「あっ、あの……ごめんね」

 そんな俺をフォローするように、ヒカリが申し出れば、は更に困った顔を浮かべて、ヒカリに謝罪する。

「何で謝って居るのか分かりませんよ。それに、謝るのなら、折角のデートを邪魔しちゃった私達の方ですからね」

 の謝罪に、ヒカリがニッコリと笑顔で言葉を返せばその隣でタケルも頷く。

「……そうですね。あっ!まだ紹介してなかったですよね。僕の名前は高石タケルって言います」

 頷いてから、タケルが慌てたように自己紹介する。
 そう言えば、こいつの事をが知る訳ないんだよな。
 ヤマトの弟だって言っても、こっちに引っ越してきたのはつい最近の話だし……。

「そ、そう言えば私も、自己紹介してなかったよね……えっと、私は……」
「こいつは、な。んで、俺の彼女だ。悪いなタケル、紹介遅れて」

 タケルの自己紹介に、も慌てて名前を名乗ろうとするのを遮って、俺がタケルにを紹介する。
 自分の言葉を遮られたのと、『彼女』と言うその言葉にの顔が夜目にも分かるほど赤くなった。

「宜しくお願いします」

 そんなに、タケルが頭を下げれば、慌てても頭を下げる。

「そんでこいつは、苗字違うけど石田ヤマトの弟な」
「えっ?」
「た、太一さん!」

 そんな二人に、俺はサラリと事実を打ち上げる。
 きっと、タケルは自分からその事を告げたりはしないと分かっているから……。
 案の定、サラリと言った俺を咎めるようにタケルが慌てたように名前を呼んでくる。

「そっか、何となく雰囲気似てるなぁって思ったんだけど……そんな大事な事、教えてくれて有難う」

 だが続いたの言葉に、タケルが少し驚いたような表情を見せた。
 最近はポーカーフェイスを身に付けてきたから、俺としては珍しいモノが見れたって所だ。

「信用しろよ。俺の彼女だからな」
「……そうだったね…それじゃ、改めまして、石田ヤマトの弟のタケルって言います。宜しくお願いしますね」

 ウインク付きでタケルに言えば、それだけで納得したのだろうタケルが更に頭を下げた。

「うん、こちらこそ、宜しくね」

 それに、がニッコリと優しい笑顔でタケルに答える。

 本当、こいつの場合、年下相手だと緊張しないから、かなり楽だ。
 もう既に、ヒカリを相手に楽しそうに話をしている。
 それを一歩後ろを歩きながら見詰めていた俺は、隣を歩いていたタケルに声を掛けられて意識を引き戻した。

「何だ?」
さんって、何処まで僕達の事知ってるんですか?」

 問い掛ければ、真剣な瞳で自分を見詰めてくるタケルからの質問。

「大体は説明してある。まぁ、あいつの場合、変な心配しないでも大丈夫だからな……それに、あいつには嘘つきたくねぇから……」
「……本当に好きなんだね」
「おう、3年越しの想いだからな」

 俺の答えに、タケルが少しだけ意外そうに返したそれに、俺はキッパリと言葉を返す。

「あ〜っ、だからヒカリちゃんがすんなり認めたんだね……」
「まぁ、あいつには気付かれてたって事だろうな」

 あいつに気付かれていた事には、気付いてなかったけどな。
 だけど、そのお蔭でこうして、あいつ等の笑顔を見ることが出来るのだ。
 今、俺達の目前で笑い合っている二人の姿に、俺も思わず笑みを浮かべる。

「でも、あの人だったら、認めるしかないよ……」
「タケル、有難うな」

 ニッコリと笑って言われたその言葉に、俺はただ笑ってその名前を呼んで感謝の言葉を伝えた。

「ほら、ヒカリちゃんとさんが待ってるよ」

 そんな俺に照れたように言われて前を見れば、何時の間にか歩みを止めていた俺とタケルから少し離れた場所でヒカリとが立ち止まっている。

「お兄ちゃん、タケルくん遅いよ!」

 そして、手を振って自分達を呼ぶ妹の姿とその隣で笑ってるの姿に、俺達は慌てて歩き出した。

「悪い」

 急いで追いついて謝罪すれば、が気にしないでいいと言うように微笑んで首を左右に振る。

さんの家は、直ぐそこなんでしょう?ちゃんと送らなきゃダメだよ、お兄ちゃん!」
「分かってる……で、お前達は一体何をそんなに楽しそうに話てたんだ?」

 ビシッと言われたヒカリのその言葉に、罰悪気に返事を返し、今度は逆に二人へと質問。
 さっきから楽しそうな笑顔を見せていたのだから、どんな話をしていたのか気になるのだ。

「内緒だよ。ねぇさん」

 だけど、俺の質問に嬉しそうに笑いながらへと声を掛け同意を求めるヒカリに、も笑いながら頷く。

 まだ、俺の呼べない名前で呼ぶヒカリとタケルを相手に、俺は正直言えば嫉妬していた。
 付き合い初めて一ヶ月。
 まだ、たったそれだけの時間だけど、今だに名前を呼べない自分自身が不甲斐ない。

「八神君?」

 そんな自分の情けなさに、小さくため息をついたのに目聡く気が付いて、が心配そうに俺を見詰めてくる。

「明日も、あそこで待っててくれるか?」

 名前も呼べない不甲斐ない自分だけど、を好きな気持ちには偽りはないから……。

「うん、でも、無理はしないでね。私は、八神君の枷にはなりたくないから……」

 俺の言葉に、フワリと微笑んで言われるの言葉。
 そんな風に言うのは、自分に自信を持てないからだろうか?

「そんな心配はいらないな。なんなら、お台場中まで見学に来るか?」
「そ、そんな事出来ないよ!!」

 俺の申し出に、が大きく首を振る。

 本当は、皆にお前の事を紹介したいのだ。
 が自分の彼女だと言う事を……。

「それ賛成!私とタケルくんで、さんを迎えに行くから、明日はお兄ちゃんの部活見学に行きましょう!」

 俺の申し出に、いい案だと言うように、ヒカリが申し出る。
 本当に、出来た妹だ。

「そうか?それじゃ、ヒカリとタケル、の事、頼んだぞ」

 の事は無視して、小学生組みに言えば、嬉しそうに『了解』の意。

 そんなこんなで、決まった日程を最後に、を家に送り届けた。
 最後まで言い逃れようとしていただったが、ヒカリとタケにが言い包められて無理矢理約束をさせられていたのは、ちょっと気の毒だったかもしれない。
 まぁ、がこの二人に勝てる訳はないと分かっていたかこそ黙って見守ってたんだけどな。
 ある意味、俺達選ばれし子供の中では、最強の二人だし……。
 それに、年下に弱いが二人のお願いを断れる訳がない。> 「お兄ちゃん。良かったね、想いが通じて…」

 と別れてからの帰り道、ヒカリが言ったその言葉に、俺は笑顔で頷いて返す。

 まだ名前で呼ぶことは出来ないけれど、確かに一歩づつ君との距離が短くなって行く。
 次は誰に紹介できるんだろう。
 勿論誰だろうと、胸を張って紹介する事が出来る。

 彼女が、俺の恋人だと言う事を……。





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