私、が憧れの人八神太一君とその、一般的に言うお付き合いを始めて一ヶ月が過ぎる。
初めの頃は、本当に緊張して禄にお付き合いしてるなんて思える状況じゃなかったんだけど、毎日私に会いに来てくれた八神君のお蔭で、漸く普通に話せる程には慣れる事が出来た。
それでも、やっぱりその恋人と言う関係にはまだ遠いかもしれない……。
「八神君?」
今日も何時ものように私の為に時間を作ってくれた八神君と一緒に歩いていたのに、急に立ち止まってしまった八神君に心配してその名前を呼ぶ。
立ち止まった八神君は、まるで体を抱き締めるようにして、寒さに震えているように見える。
「な、何でもない」
「本当に?何だか、顔色悪いよ」
私の呼び掛けに、八神君が何時もの明るい笑顔を見せるけど、その表情が少しだけ青ざめている事に気付いて更に声を掛けた。
冬と言う季節。
特に、今の季節は風邪が流行っているから、どうしても心配してしまうのだ。
「急に寒くなってきたから、風邪とかには気を付けてね」
サッカーのレギュラーで、エースストライカーでもある八神君。
そんな彼だからと言う訳じゃなく、大切な人だからこそ心配するのは当然の事。
「俺はそんなに軟には出来てねぇよ。こそ風邪ひくなよ」
「私だって、そんなに軟じゃないよ!」
だけど、八神君は心配気に言った私を逆に心配するように言葉を返してくる。
って、そんなに私って体弱そうに見えるのかなぁ?
「どうだか、の場合は寒そうだからって自分の上着を人に渡しそうだからな。少しは自分の事も考えろよ」
思わずムキになって返した私の言葉に、ため息をつきながら八神君が注意してくる。
うっ、そ、そんな事絶対にしないって言えないかもしれない。
現に、今だって寒そうに体を抱いていた八神君に自分の巻いていたマフラーを渡そうとしていたのは否定出来ないから……。
「そ、そんな事ない、と思う……そりゃ、マフラーぐらいは貸しちゃうかもだけど……」
だから、強く返す事が出来なくって、弱々しく返事を返せば、もう一度八神君がため息をつくのが聞えた。
う〜っ、やっぱり呆れられちゃったかも……。
だって、そんな人が居たら、無意識に動いちゃいそうなんだもん。
「貸す事が悪い事だとは言わない。でも、ちゃんと場合は選べよ」
思わず俯いてしまった私の耳に聞えてきたのは、仕方ないなぁと言うような八神君の声。
「うん」
ポンッと頭を軽く叩くように撫でてくれた八神君に、私は素直に頷いて返した。

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