「お兄ちゃんに彼女が出来たみたいなの!」
突然のその言葉に、一瞬なんと返していいのか分からずに僕はただそう言った人物を見詰めた。
事の始まりが、一体なんだったのか良く覚えていない。
だけど、行き成り人の居ないこんな場所に連れて来られての第一声がそれって……。
「えっと、ヒカリちゃん、まず落ち着いて」
「私は十分落ち着いてるわ。そんな事よりも、事の真相を確かめたいのよ!もちろん、タケル君は協力してくれるわよね?」
興奮していると分かるヒカリちゃんを落ち着かせようと口を開いた僕に、落ち着いてるとは思えない声でヒカリちゃんが返事を返してくる。
質問形で返されてるんだけど、これってどう考えても拒めないように思うんだけど……。
真剣に見詰めてくるヒカリちゃんを前に、僕はただ無言で頷く事しか出来なかった。
それだけ、彼女の迫力は十分な威力を持っていたのだ。
太一さん、ごめん。
僕じゃ、ヒカリちゃんを止められそうにないよ……。
だからこそ、心の中で尊敬している兄のような存在である相手に謝罪の言葉を繰り返す。
でも、内心では、その彼女と言う相手に興味があると言うのも否定出来ない。
あの人と付き合えるような人が、一体どんな人なのか……。
「興味あるんだよね…」
目の前でこれからの事をあれこれ考えているヒカリちゃんに聞えないように、ポツリと呟く。
「ところでヒカリちゃん」
「な〜に?」
真剣に考えている相手に、僕は疑問に思ったことを尋ねようとその名前を呼べば、ニッコリと笑顔で振り返った。
それは十分可愛いと思えるんだけど、同時に怖いと思うのはどうしてだろうか…。
「えっと、どうして太一さんに彼女が出来たと思ったの?」
だけど、ずっと疑問に思っていた事を素直に口にした。
だって、そんな話まだ誰からも聞いてない。
もしかしたら、兄さん達は何か知っているかもしれないけど、僕達は何も聞かされていないのだ。
「どうしてって、気付くわよ!だって、最近ちょっと帰りが遅くなったし、休みの日は嬉しそうに出て行くのよ!それに、私の誕生日プレゼント、お兄ちゃんが絶対に選ばないようなモノだったんだから!」
「へぇ〜、太一さんから何を貰ったの?」
僕の質問に、力説して答えてくれたヒカリちゃんに、僕は更に質問する。
だって太一さんなら、空さんにプレゼント選びとかを頼みそうだったから……。
「ネックレスよ!しかも、私の誕生石だったの!」
その質問に対してビシッと答えられた内容に、思わず納得してしまった。
うん、それって空さんでも、あんまり選びそうに無いかも……。
勿論、空さんだって女の人だから、アクセサリーって言う選択は持ってると思うけど、空さんの性格を考えると、誕生石をプレゼントするとは思えない。
「確かに、誰か女性の陰があるみたいだね」
「そうよ!だから、お兄ちゃんの相手に相応しいかどうか、私が見極めるんだから!」
力強く言われたその言葉に、僕はただ苦笑を零す。
いや、だって、太一さんが自分から好きになった人なら、僕はそれでいいと思うんだけど……。
やっぱり、大好きなお兄ちゃんは取られたくないものなのかな?
僕は男だからそう思わないんだけど……。
まぁ、既に兄さんが空さんって言う彼女が居るからこそ、そう思えるのかもしれないんだけどね。
ヒカリちゃんのお眼鏡に適う人だといいんだけど……。
って、ヒカリチャンが認めるような人って一体どんな人なんだろう?
そう考えて僕は、思わず苦笑を零す。
な、何かすっごくハードルが高そうなんだけど……。
太一さんの彼女、大丈夫かなぁ……。

|