今日は、俺の彼女となったが見学に来る事になっている。
正直言えば、朝からそわそわとして、落ち着かない。
そんな俺に気付いた空やヤマトには、その理由を話している。(と言うよりも、吐かされたと言った方がいいだろう。)
もっとも、その理由を説明したら、ものすっごく納得されたのが気になるんだけどな……。
時計を確認すれば、そろそろヒカリとタケルがあいつの中学校に向っている時間だった。
昨日言ったけど、あいつは一度した約束は守るだろうけど、変な所で気を使うから、下手をすれば逃げかねないって事で、学校まで迎えに行く事を2人には勧めておいた。
勿論、信頼はしているけど、もしもって事が無いとは言えないから……。
「八神、部活行こうぜ」
そんな事を考えていた俺は、同じサッカー部のクラスメイトの声で我に返った。
それに短く返事を返して、もう一度時計に視線を向る。
あいつ等が来るのは、もう少し掛かるだろう。
「お前、今日、調子悪いんじゃねぇの?」
凡ミスばっかりしでかした俺に、部活仲間達が心配するように声を掛けてくる。
いや、調子が悪い訳じゃない。ちょっと落ち着かないだけだとは、口に出して言えない。
が、この学校に来ると思うと、正直言って落ち着いてなんて居られないのだ。
「……悪い、この後の練習試合は、名誉挽回するから・……」
運がいい事に、今日は紅白に分かれてのミニゲームをする事になっている。
折角が来るって言うのに、凡ミスばっかりしているんじゃ格好がつかない。
「本当に、大丈夫なのか?」
素直に謝罪した俺に、それでも心配そうに声を掛けられて、頷いて返す。
もう直ぐ、ここにが来るから……。
「それじゃ、ミニゲームを始めるぞ」
笛の音と共に、監督の声が聞えて、全員が一箇所に集まった。
「八神、今日は調子が悪いみたいだが、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
そして、しっかりと監督にまで心配される俺って……
そこまで、浮付いてるのが丸分かりなんだろうか?
「ならいいんだが、ミニゲームだからと言って気を抜くなよ」
「はい!」
素直に返した俺に、監督は納得したのか、それでもしっかりと釘を刺す事は忘れなかった。
その言葉に、全員が声を揃えて返事をする。
「おい、あれって、確か八神の……」
そんな中聞えてきたその声に、俺はドキリとする胸を隠して、そちらへと視線を向けた。
向けた視線の先には、ヒカリとタケルの間に挟まれるようにこちらに向って歩いて来るの姿。
サッカー部の連中がヒカリの事を知っているのは、何度か試合を見学に来た時に紹介してあるからだし、所詮9割以上の人間がお台場小学校の人間なんだから、知らない奴の方が珍しいだろう。
「なぁ、あの人って見た事があるんだけど……」
だけど、続けて言われたその言葉に、俺はそれを口にした相手を確認する。
そう言ったのは、一つ年下の後輩。
ああ、やっぱりあいつって年下にはその存在感バッチリだよなぁ……。
その後、ミニゲームをすると言う事で、4つのチームに分けられた。
俺の入っているチームの試合は後半と言う事で、始めは試合を見学する事になる。
だから、俺は迷わずに達の方へと移動した。
「よぉ、結構早かったんだな」
フェンスの傍に立って居る3人に声を掛ければ、が俺に少しだけ困ったような笑顔を見せてくる。
ああ、やっぱりここに来るのに大分、悩んだと言うような顔だ。
「これから、試合でも始まるんですか?」
そんなの心情を読み取っていた俺に、タケルガ疑問に思った事を質問して来る。
それと同時に、試合開始のホイッスル。
「タイミング良かったな。今日は紅白に分かれてミニゲームするんだよ。俺は後半だから、今は見学」
「そうなんだ……八神君、頑張ってね」
タケルの質問に答えれば、が納得したように頷いて笑顔で応援の言葉をくれた。
「おう、まぁ、それなりには、な」
勿論、今まで調子が悪かったのは秘密だ。
そんな格好悪い事、言える訳が無い。
多分そんな俺の心情に気付いたのだろう、ヒカリとタケルは何処か楽しそうに笑っている。
「八神、まだ部活中だぞ!ちゃんと見学しないか!!」
それに、こっそりと睨み付けた俺に対して、監督の鋭い声が掛けられた。
ああ、やっぱり怒られたか・……。
「悪い、んじゃ、ヒカリにタケル、の事頼むな」
「うん、お兄ちゃんは部活頑張ってね」
監督に怒られた事で罰悪い顔をしてから、謝罪してヒカリ達にしっかりと念を押す。
それにヒカリが素直に頷いて、言われた言葉に頷いて返して来た。
「……やっぱり、私邪魔になってるんじゃ……」
慌ててみんなが居る場所へと戻っていた俺の耳に、申し訳なさそうな声が聞えて思わず振り返ってしまう。
ああ、やっぱりは、そんなバカな事を考えるんだな……。
だけど、それを直ぐに否定してやる事が出来なくて、俺はヒカリとタケルにそれを任せて、素直に他のメンバーが居る場所へと戻った。
「八神、あの他校生は誰だよ!」
戻った瞬間、一番に質問されたそれに、思わず笑みを零す。
聞かれるとは思っていたけど、それがこんなに嬉しいものだとは、思いも知らなかった。
「俺の彼女」
それに、素直にそう答えれば、意外だと言うように全員が驚いたようにへと視線を向ける。
まぁ、無理は無いだろう。
俺に彼女が出来たなんて、そんな噂の一つも出ていなかったんだから……。
それは、が他の学校に通っているから、誰にも気付かなかっただけなんだけど……。
「ああ、だからか。お前の調子が悪かった理由……」
だけど、それだけで納得してくれるのだから、こいつ等もやっぱりあの選ばれし子供とは違っていても、サッカー仲間なのだと思える存在。
「……まぁ、彼女が初めて見学に来る事になってたからなぁ……」
少しだけ照れながらも、素直にそう言えば、皆から当然のようにからかわれてしまったのは、言うまでも無い。
そんなこんなで、俺に彼女が出来たと言う事を、サッカー部の全員が知る事となった。

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