ヒカリちゃんの野望を聞かされて、ちょっとだけ引き気味の僕だったけど、実はその気持ちが分かるから、何も言えなかった。

 そんな中、校舎から僕達の待ち人が姿を現す。
 その足取りは本当にゆっくりで、何だかさんの気持ちが現れているように思うのは僕だけだろうか?

さん」

 そんなさんに、ヒカリちゃんが校門から顔を覗かしてその名前を呼ぶ。

「ヒカリちゃん?」

 突然名前を呼ばれた事と、その姿を見せた相手が余りにも意外だったのか、さんが驚いてヒカリちゃんの名前を呼んだ。
 その声が、恐る恐ると言う感じなのはご愛嬌かも…。

「ボクも居ますよ」

 そんなさんに、僕も顔を見せる。

「えっ?タケルくんも?あれ?待ち合わせは、図書館じゃ……」

 姿を見せた僕に、さんがますます混乱したように昨日の事を思い出そうとしているのが良く分かって思わず笑ってしまう。
 本当に、見ているだけでさんが何を考えているのかが良く分かる。

「私達、今日は早く終わったんで、こっちに来ちゃいました」

 混乱しているさんを前に、ニッコリとヒカリちゃんが説明した。

 あれ、ちゃんと待ち合わせ場所って、決めてたんだっけ?僕には、記憶に無いんだけど……。
 だけどその前に、僕とヒカリちゃんはしっかりと太一さんから言われていた事があるのだ。

「それに、太一さんから、さんは迎えに行かないとそのまま逃げちゃうかもしれないからって言われたんで……」

 言い難いけど、本当にそう言ってたんだよなぁ、太一さん。
 信用してるんだか、信用されてないんだか良く分からないけど、約束した事は守るけど、それとこれとは別に、理性が逃げ出すかもしれないからって……。

「お兄ちゃんってば、酷いですよね。さんがそんな事する訳ないのに」

 そう言った僕に、ニッコリと笑顔でヒカリちゃんがさんに言葉を述べる。
 だけど、長い付き合いだから僕には分かる。
 その笑顔は、脅しの意味も含まれているんだって事を……。

「……ごめんなさい……」

 そんなヒカリちゃんに、さんが勝てるはずも無く、素直に謝罪した。
 って謝ったって事は、本当に逃げ出したいって思って居た事を、素直に認めてると言う意味だろう。

「本当に、嘘が付けないんですね・……」
「えっ?」

 そんなさんを前に、ヒカリちゃんが何処か眩しそうに彼女を見詰める。
 その呟きを聞き逃したのだろう、さんが不思議そうにヒカリちゃんを見た。

「何でもありません。それじゃ、時間がもったいないので早く行きませんか?」
「そうだね。太一さんも心配するから早く行かないと」

 それを誤魔化すように、ヒカリちゃんは笑顔を見せて、さんを促した。

 でも、確かに、時間がもったいないって言うのは本当の事。
 僕もそれに、素直に同意する。
 きっと、今日の太一さんは、そわそわして落ち着かずにさんの事を待っていると思うから……。

「それじゃ、さん、行きましょう」

 そう言って促すヒカリちゃんに、さんも素直に頷いた。
 その姿を前に、僕は素直に感心する。

 ああ、本当にさんって、すっごく素直だよなぁ……。




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