さんは部活があるからと言う事で、私はその後姿を見送って時計を確認してから自分の鞄を持って教室を出た。
正直言えば、かなり緊張している。
……私なんかが八神君の彼女で、しかもズーズーしくも部活の見学に行くなんて、本当にいいんだろうか?
って、またさんが聞いたら怒りそうな事考えちゃたなぁ。
でもでも、やっぱり迷惑なんじゃ……。
グルグルと巡る思考に、私の足は何時もよりもずっと遅くなってしまう。
早く行かなくっちゃって思うんだけど、考え出すとどうしても急ぐ事が出来ない。
「さん」
ゆっくりとした足取りで、漸く校門へと辿り付いた瞬間に名前を呼ばれてその顔を上げる。
「ヒカリちゃん?」
そこに居たのは、八神君の妹さんの八神ヒカリちゃん。
私が、ヒカリちゃんって呼んでいるのは、彼女が名前で呼んで欲しいと言ったから……。
「ボクも居ますよ」
この場所に居るとは思っても居なかった彼女の存在に疑問系でその名前を呼んだ私に、その隣からニッコリと笑顔で顔を覗かした少年にも更に驚かされた。
「えっ?タケルくんも?あれ?待ち合わせは、図書館じゃ……」
って、そう思っていたのは、私だけだったんだろうか……。
そう言えば、正確な待ち合わせ場所なんて聞いてなかったかも……。
「私達、今日は早く終わったんで、こっちに来ちゃいました」
「太一さんから、さんは迎えに行かないとそのまま逃げちゃうかもしれないからって言われたんで……」
私の疑問に、ヒカリちゃんがニッコリと可愛い笑顔で言って、続いてタケルくんが楽しそうな笑顔でサラリと酷い事言われたような……。
って、逃げちゃうって酷いよ八神君。そりゃ正直な気持ちは逃げ出したいけど、いくら私でも約束した事はちゃんと守るよ!
「お兄ちゃんってば、酷いですよね。さんがそんな事する訳ないのに」
内心で八神君に文句を言っている私の心を読んだように、ヒカリちゃんがニコニコと楽しそうに口を開く。
うっ、そんな無邪気な笑顔で言われると、罪悪感が……。
だって、逃げ出したいと思っていたのは否定出来ないから……。
「……ごめんなさい……」
だから、思わず素直に謝ってしまった。
だって、嘘は付けないから……。
ああ、年下の子にまでそんな心配を掛けちゃうなんて、私って本当に情けないかも……。
「本当に、嘘が付けないんですね・……」
「えっ?」
謝罪した私に、ヒカリちゃんが小さな声で何かを言ったんだけど、私にはそれが聞き取れなくって思わず聞き返してしまう。
「何でもありません。それじゃ、時間がもったいないので早く行きませんか?」
「そうだね。太一さんも心配するから早く行かないと」
聞き返した私に、ヒカリちゃんはニッコリと笑顔を見せると、急かすように言葉を続ける。
それにタケルくんも、同じように口を開いた。
あう、やっぱり行かなきゃいけない事には変わりはないんだ……。
って、行きたくない訳じゃないのよ、だって、八神君がサッカーしている所を見るのは好きなんだもん。
だって、八神君のサッカーしている姿は、とっても楽しそうで見ている方まで嬉しくしてくれるものだったから……。
でも、だからって学校違うのに、ズーズーしく見学に行くなんて……そんな事、私が出来る訳ないのよ。
「それじゃ、さん、行きましょう」
心の中で文句を言っている私に、ヒカリちゃんがニッコリと再度促す。
その笑顔を前に、私に出来たのは素直に頷く事だけでした。
うっ、年下の子相手に、逆らえない自分が悲しいです……。

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