お兄ちゃんに言われて、私とタケルくんはさんの通っている中学校までお邪魔する事になった。
 私としても、さんがお兄ちゃんの彼女になってくれた事が、すっごく嬉しい。

「……それにしても、僕はヒカリちゃんが簡単に認めちゃったのに驚いてるんだけど……」

 さんの通っている中学校までの道のりの中、意外だと言うようにタケルくんが私を見る。

「そんなに、意外だったかなぁ?」

 だって、私はずっとお兄ちゃんが誰を見ていたのかを知っていたから、だから、素直に認めることが出来たのだ。
 もしも、これが誰か別の人だったとしたら、確かに認めていなかったかもしれない。
 そう、例えお兄ちゃんが好きな人だとしても……。

「まぁ、その理由は何となく分かるんだけどね……」

 だけど、続けて言われたタケルくんの言葉に私は少しだけ驚いて、彼を見る。

「タケルくん?」

 空を見上げているタケルくんの瞳は、すっごく楽しそうな色を見せていた。
 ああ、彼にも分かったのだろう、彼女の輝きが……。

「そうでしょう。あの人なら、無条件で納得出来るの」

 だって、強いのに弱くって、弱いのに誰よりも強い彼女。
 それは、私の知っているどんな人達よりもお兄ちゃんの傍に居る事が似合う人だとそう思えたから……。
 だから、素直に私は自分の気持ちを口に出す事が出来るの。

 お兄ちゃんがさんに惹かれた理由が、誰よりも分かるからこそ。

「そうだよね。だって、太一さんに言われたからって言っても、あんなにあっさりと僕が兄さんの弟である事を認めちゃうんだもん。すっごく驚かされちゃったよ」

 昨日の夜、初めて紹介された時に、タケルくんがヤマトさんの弟だと言う事を、当然のように説明したお兄ちゃんに、さんはただ笑ってその事実を受け入れた。
 それどころか、タケルくんとヤマトさんの雰囲気が似ているとそうはっきりと口にしたのだ。
 普通の人なら、髪の色と瞳の色だけを見て何となく納得するか、または似ていないとそう断言すると言うのに……。

 その時の事を思い出して、私はクスリと笑いを洩らす。

「あの時のタケルくん、本気で驚いていたでしょう?」
「……そりゃ、驚きもするよ。あんな事言われたの初めてだったんだからね」

 からかうように言えば、ため息をついて素直に言葉が返される。
 ありのままの姿で受け入れてくれるさんだからこそ、私達は彼女に惹かれるのだ。

 そう、あの冒険を経験した人は、間違いなく彼女に惹かれるだろうと断言できる。
 私達にとって、さんと言う人は惹かれる何かを持っているから……。
 それが何なのかは、私にも分からないけど、そうはっきりと言える。

「でも、私はお兄ちゃんにすっごく感謝してるんだよ。だって、私もね、さんの事が大好きだったの。だから、また会えて、すっごく嬉しかったんだから!」
「ヒカリちゃん……」

 優しくって、面倒見のいいさんは、下級生の間では憧れのお姉さんだったのだ。
 あの誰をも安心させてくれるフワリと笑う表情は、見ている人を幸せにしてくれるから……。

「だからね、悪い虫が付かないように、しっかりと私達がさんの事を捕まえておかなくっちゃだわ!」

 そう、私には一つの野望が出来たのよ。
 その為には、お兄ちゃんにだって悪い虫が付かないように、私達がしっかりと目を光らせるんだから!

 だって、さんがお兄ちゃんのお嫁さんになれば、私のお姉さんになるんだよ。
 あの人なら、私は素直に『お姉さん』と呼べる。
 ううん、今直ぐにだって、呼んでもいいくらいだわ!だからこそ、私の目的の為にも絶対にその願望を実現させるんだから!

 そして、見えてきたさんの通う中学校を前に、私はしっかりとその決意を新たにしたのだった。




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