さっきまで、おどおどしていたのが嘘のように、さんが泣いている子供へと走り寄って行くのを私は太一の隣に立ってただ、見詰めていた。
小学校の頃から、全然変わっていない。
自分よりも年下の相手には、とっても面倒見のいいお姉さんだって言う事を知っているから
「本当、変わってないわね」
「だろう?そうじゃなきゃ、俺が好きになんねぇよ」
変わらない彼女の事が嬉しくって、呟いた私の言葉に、太一が誇らし気に言葉を返してきた。
本当、さんの事が大好きだって、その瞳が語っている。
ねぇ、本当は私も太一の事が好きだったのよ。
だけど、気付いてしまったから、太一の視線が誰を見詰めているのかを……。
泣いていた子供を母親へと引渡してから、さんが慌てたように私達の方を振り返った。
ああ、きっと私達の存在を忘れていたのね。
「よっ、お疲れさん」
慌てて戻って来たさんを、太一が笑顔で迎える。
その笑顔は、とっても優しい私が、初めて見るような笑顔。
「ご、ごめんなさい……私、放って置けなくって……」
申し訳なさそうに謝罪するさんに、太一はその笑顔のまま頭を撫でている。
本当に優しいその笑顔は、見てる方が照れくさくなってくる程だわ。
だけど、変わっていない彼女の存在が嬉しくって、私の顔も思わず笑みを浮かべてしまう。
彼女の存在は、癒しって言うのか、無条件で安心させてくれるような、そんな人。
そんな彼女を、ヤマトが少しだけ驚いたように見詰めているのに気が付いた。
それを見て、私は当然と言うように口を開く。
「ねっ、私の言った通りでしょう?」
私に突然声を掛けられて、ヤマトが複雑そうな表情を見せる。
だから、ヤマトの返事なんて聞かなくても分かってしまう。
だって、彼女以上に太一の傍に居られるような人は、居ないとそう認める事しか出来ないから……。
昔の私が、無条件で諦めてしまったように……。
「……お見逸れ致しました……」
当然のように返されたのは、予想通りの言葉。
それに、私は満足して頷いた。
そう、二人の心の強さは同じだけど、彼らの強さは全く違うモノ。
太一は皆を引っ張っていく強さを持っているけど、彼女は無条件で誰をも優しく包み込むような強さ。
だから、一人でも強く居られる太一にとって、彼女はなくてはならない存在なのだ。
「改めて、自己紹介させてくれ。俺は石田ヤマト。これからそいつ共々宜しくな」
無条件で認められるこのカップルは、言わば最強のカップルかも……。
そう思っていた私の耳に、ヤマトが改めてさんに自己紹介する声が聞えてきた。
それは、完全にさんの事を認めた証。
女の子が苦手なヤマトにしては、珍しい事だけどね。
「あ、あの、私は、です。こちらこそ、宜しくお願いします」
ヤマトの自己紹介に、さんも慌ててもう一度頭を下げて自己紹介する。
なんて言うのか、本当に女の子の自分から見ても、ほわほわしてて可愛いって言うのか、守ってあげたくなっちゃうような存在だわ。
そんなさんの態度に、ヤマトが笑ったのが分かる。
ああ、これはヤマトもさんの事確実に気に入ったわね。
「それじゃ、折角こんなところで会えた偶然に感謝して、Wデートでもしましょうか?」
それが分かるからこそ、このまま別れてしまうのが勿体無くって一つの提案を、笑顔で口にする。
それに、太一が嫌な顔を浮かべたのは気付いたけど、無視。
折角久し振りに会ったのに、このままお別れなんて、冗談じゃないわよ。
それに、太一もヤマトも私のお願いに弱い事をちゃんと知っているから、きっと大丈夫。
「あ〜っ、分かったよ……も、それでいいか?」
予想通りの言葉を口にして、太一がさんに質問。
「私が、お邪魔でないのなら!」
その質問に、どこか混乱しているようにさんが、慌てて返事を返してくれた。
って、お邪魔なら、そんな提案しないと思うんだけど……。
それに、何よりも、お邪魔なのは、私達の方よね、太一にとっては。
「さん、お邪魔なら、そんなこと言わないから安心してね」
素直にそう思って、安心させるように口に出す。
「えっと、それじゃ、宜しくお願いします!」
笑顔で言った私の言葉に安心したのかさんは、深々と頭を下げた。
それが、余りにも可愛くって、思わず笑ってしまうのは、止められない。
ヤマトなんて、まるで玩具を見付けた猫みたいだし……。
「ヤマト、さんの事、気に入ったでしょう。だめよ、私もさんお気に入りだったんだから!」
だから、しっかりとヤマトには釘を刺しておかなくっちゃ!と言う事で、小声でしっかりと忠告。
なんて言うのか、さんって、きっと選ばれ子供にとっては、癒しになれるような存在なのよね。
どこか天然なのも、惹きつけられる原因なのかも……。
「って、お前等、は、俺のだからな!」
私の忠告は、しっかりと太一にも聞えていたらしく、太一は不機嫌そうにさんを抱き寄せた。
知らなかった、太一って結構独占よく強かったのね。
「心配するな、俺のはお前の感情とは違う。俺には空って言う彼女も居るからな」
変なところで感心している私を他所に、ヤマトが楽しそうに太一をからかっている。
まぁ、確かに、私とヤマトは恋人同士だけど……。
その表情から、ヤマトがこれから暫くは太一の事からかって遊ぶつもりなのが伺えた。
それは、私も同じだから別にいいんだけど……。
「や、八神君!」
突然抱き寄せられた事に、さんが真っ赤になって、太一を呼ぶ。
その声を聞きながら、今日一日楽しそうな日になる事が予想できて、私は笑みを浮かべた
本当、初々しいカップルをからかうのは、楽しいわよね。
新しく出来た、私達の仲間に、私も笑顔で抱き付いた。

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