泣いている子供に気が付いた瞬間、走り出した彼女に、俺は驚いて視線でその姿を追ってしまう。
驚いている俺と違って、太一も空も当然だと言うように彼女を見ていた。
それから考えると、これは彼女にとっては当たり前の行動らしい。
ああ、空が太一に相応しい相手だと言っていたのは、こう言う理由か……。
「本当、変わってないわね」
「だろう?そうじゃなきゃ、俺が好きになんねぇよ」
子供を慰めている彼女を温かな視線で見守っている、空が嬉しそうに言えば、太一が誇らしげに言葉を返す。
二人が何もフォローに出ず見守っているのは、彼女だけでも問題ないとそう確認しているからだろう。
確かに、子供を慰めている彼女は、先程までのおどおどしていた姿など欠片も見せていない。
そして、子供を当然のように家へと送り届けてから、慌てて俺達の方へと戻ってきた。
「よっ、お疲れさん」
戻ってきた彼女を、太一が笑顔で迎える。
「ご、ごめんなさい……私、放って置けなくって……」
申し訳なさそうに謝罪する彼女に、太一は笑顔でその頭を撫でた。
それは誇らしげで、自慢の彼女と言ったところだろう。
「ねっ、私の言った通りでしょう?」
そんな二人の遣り取りを見守っていた俺に、空が勝ち誇ったように質問してくる。
その瞳は、俺の返事など分かっていると言うような眼差し。
「……お見逸れ致しました……」
だから俺も、素直に認めた。
確かに、彼女なら太一にとって、大切な相手になるだろう。似たものカップルに近いかもしれない。
「改めて、自己紹介させてくれ。俺は石田ヤマト。これからそいつ共々宜しくな」
だからこそ、彼女を仲間と認めよう。
俺の一番の親友である八神太一が、唯一認めた相手だからこそ……。
「あ、あの、私は、です。こちらこそ、宜しくお願いします」
俺の言葉に、彼女が深々と頭を下げる。
本当に、先ほど子供を相手にしていた人物と同一人物だとは思えない。
そのギャップに、俺は思わず笑みを浮かべた。
こいつ、本気で面白いかも……。
折角出会えたのに、ここで直ぐに別れるのは、勿体無い。
「それじゃ、折角こんなところで会えた偶然に感謝して、Wデートでもしましょうか?」
そう考えた俺の思考を読んだように、空がニッコリと笑顔で切り出した内容に、太一が一瞬だけ嫌そうな表情を見せた。
まぁ、こいつにとっては、初デートと言ってもいいだろうこの時間を、初っ端からWデートにされるのは、不本意だろう。
だけど、笑顔の空に勝てないのは、俺だけじゃない、太一も同じだ。
小学校の時から、この笑顔に逆らえない事を身を持って分かっている。
「あ〜っ、分かったよ……も、それでいいか?」
諦めたように盛大なため息をついて、太一が自分の彼女へと質問する。
「私が、お邪魔でないのなら!」
太一の質問に、しっかりと返事を返してきた彼女の言葉に、思わず笑わされたしまった。
やっぱり、こいつ面白い。
「さん、お邪魔なら、そんなこと言わないから安心してね」
力強く言われたそいつの言葉に、空がニッコリと優しい笑顔で言葉を返す。
「えっと、それじゃ、宜しくお願いします!」
そして、次の瞬間には、深々と頭を下げた。
緊張しているのは分かるけど、なんて言うのかやっぱり反応が面白い。
今まで、自分の周りには居なかったタイプだ。
「ヤマト、さんの事、気に入ったでしょう。だめよ、私もさんお気に入りだったんだから!」
なんて言うのか、構いたくなるような子だなぁと思っていた俺に、空がチロリと視線を向けてきて、小声で言われたそれ。
ああ、このタイプは、俺達のような人間には、なんて言うか相手しなきゃいけないように思わせる何かを持っているのかもしれない。
それを証拠に、空もキッパリとお気に入り宣言してくれた。
「って、お前等、は、俺のだからな!」
だけど、それに対してしっかりと空の声が聞こえたのだろう太一が、彼女を抱き寄せて言ったその言葉で笑いへと代わってしまう。
「心配するな、俺のはお前の感情とは違う。俺には空って言う彼女も居るからな」
そう、なんて言うのか、この感情は恋愛とは違うと断言できる。
それを証拠に、太一が彼女を抱き締めている事が当たり前だと思えるから……。
「や、八神君!」
突然抱き締められた事で、真っ赤な顔をして太一を呼ぶそいつに、俺はもう一度笑ってしまった。
まぁ、初々しいカップルをもう少しからかうのも楽しそうだ。

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