今日は、八神君との初デートって言っていいのか……正直言って昨日は殆ど寝られなかった。
あの告白だって本当は、自分にとって都合のいい夢を見ていただけで、貰っている連絡も本当は自分の願望が夢に現れているだけなんじゃないかって……。
信じられない気持ちのまま、私は八神君との待ち合わせの場所へと急いだ。
約束の時間までもう少しあるけど、何時も人との約束は時間よりも前に来るのが普通になっているから、今日も同じ。
でも、待つ相手が相手なだけに、まだ胸がドキドキしている。
高鳴る胸を抑えながら、待ち合わせ場所が見えた瞬間、私は驚いて瞳を見開いた。
「八神君!」
自分の待ち合わせの相手が、既にその場に立っている事に気が付いて慌てて走る。
どうしよう、私約束の時間間違えてた?
「ご、ごめんなさい。私、遅れて……」
慌てて走ったから、ちょっとだけ上がってしまった呼吸を深呼吸する事で整えて、私は八神君に謝罪する。
「まだ時間じゃねぇよ。俺が少し早く着いただけ」
そんな私に、八神君は笑顔で答えてくれた。
「良かった。でも、八神君早いんだね……」
その言葉に少しだけホッとして笑顔を返す。 だけど、八神君を待たせちゃうなんて、今度からもっと早くに来なくっちゃ!
「だからって、俺との待ち合わせにもっと早く来ようなんて思うなよ。今日は偶々早かっただけなんだからな!」
今度からの決意を胸にした瞬間、八神君からしっかりと返された言葉に、一瞬驚いて息を呑む。
何で、分かっちゃったんだろう……。
「そ、そんな事しないよ!」
内心で動揺しながら、八神君の言葉を慌てて否定する。
だって、人を待たせるのは、どうしても申し訳なく思ってしまうから……。それが、私の大好きな人なら尚更で……。
「あのなぁ、彼女待たせる男にはなりたくねぇから、出来るだけ時間通りに来てくれ」
そんな私の胸の内を読んだかのように、八神君が小さくため息をつきながらお願い事のように口にしたその言葉に、私は思わず顔が赤くなってしまった。
『彼女』って、八神君に言ってもらえるような立場なんだね、私。
ど、如何しよう。すっごくドキドキする。
「わ、分かった。出来るだけ頑張るね……」
だから、そう返せたのは、私にしてはすごい事だと思う。
だって、八神君の彼女なんて言われたら、どう返せばいいのか困ってしまうから……。
必死に冷静さを取り戻そうと深呼吸した瞬間、ある事を思い出した。
そう言えば、私まだ八神君に挨拶していない。
遅れてきてしまったと思って慌てていたのが理由だけど、挨拶もしてないなんて、本当に抜けてる自分に苦笑を零してしまった。
「えっと、あのね、今更なんだけど、おはよう、八神君」
それを思い出して、私は少しだけ照れながら今更ながらに朝の挨拶をした。
まともに挨拶できなかったのは、今だに止まらない胸のドキドキの所為……。
「ああ、そう言えば、挨拶もしてなかったんだよなぁ・・・・・・おはよう、」
そんな私の動揺に気付かずに、八神君も笑顔で挨拶を返してくれた。

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