「で、結局太一の奴は上手くいったんだろう?」
嬉しそうな笑顔を見せている太一を前に、ヤマトが呆れたようにため息をつきながら疑問を口にする。
もっともあの顔を見せられて、振られたと思える奴が居るならばよほどの馬鹿だろう。
「ええ、そうみたいね。携帯とメルアドもしっかりと聞いてきたみたいよ。まぁ、こうなる事は予想通りね」
「そ、そうなのか?」
結果的に太一の背中を押した形となった空の言葉に、ヤマトが意外そうな表情を見せる。
当然と言うように言われたその空の言葉に、不思議に思い問い返す。
「勿論よ。さんって、男の子と平気で買い物が出来るような子じゃないもの。そんな子が好きでもない相手と一緒に買い物なんてしないでしょう!」
ヤマトの疑問に、少しだけ呆れたようなため息交じりで言う空に、を知らないヤマトとしては、そう言われても素直に納得出来るモノではない。
「いや、俺は太一が好きな奴が、どんな子かも知らないからなぁ……」
思い出そうとしても、その名前の少女の顔も出て来ないくらいだ。
元々ヤマトは、女子と仲良く話をするタイプではないので、それも頷ける。
その上、は、どちらかと言えば目立たない子だったのだから……。
「そうね、確かにヤマトはあの子と同じクラスになった事ないものね」
ヤマトの呟きに、空が小さく笑う。
もっとも、は、同じクラスになってもその存在に気付かないかもしれないほど大人しい少女だったのだ。
そんな少女だったけれど、これだけは断言して言える。
「なんて言うのか、太一にはピッタリな子よ」
の事を思い出しながら、空が楽しそうに口を開いた内容に、ヤマトは複雑な表情を見せた。
空が自信を持って言うようなそのと言う少女が、想像もつかない。
ヤマトから考えた太一に似合いそうな相手と言われれば、正直言って目の前の自分の彼女しか思い浮かばない。
そう、選ばれし子供の中に居る女の子達の中から考えたとしても、八神太一の彼女と言うのにはやはり当て嵌まらないのだ。
「……空が、そう言う彼女なぁ…ちょっと会ってみたいかも……」
「直ぐに紹介してくれるんじゃないの……もっとも、彼女は、人見知りするから難しいかもしれないわね」
ポツリと呟いたヤマトの言葉に、空が楽しそうに笑いながら言葉を返した。
その言われた言葉に、ヤマトはますます混乱する。
八神太一にピッタリの相手が、人見知り?
どう考えても、イメージではないのだ。
人見知りする少女が、あの行動力のある相手にピッタリだと言われる理由が……。
「ますます理解不能だな……」
思わず呟いたその言葉に、空はただ楽しそうに笑うだけだった。
「そう言えば、明日バンドの練習無いんでしょう?」
そして、思い出したと言うように質問されたそれに、ヤマトは素直に頷いて返す。
「私も珍しくクラブが休みなのよ。勿論、買い物に付き合ってくれるわよね?」
疑問系で返されているはずなのに、否と言えない雰囲気に、ヤマトはただ了承の返事を返した。
久し振りの休みに、家事をしっかりとしようとしていたヤマトの予定は、この言葉によって、見事なまでに消し去られてしまう。
だけど、そのお陰で、直ぐに太一の彼女だと言う少女に会う事になるのだった。

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