「あ、あの、本当に私がお邪魔しちゃってもいいの?」

 8月1日。

 今日と言う日は、俺達『選ばれし子供』にとって、何よりも大切な日。
 当然今年も、仲間達と集まる約束をしていた。
 
 そして、今向かっているのは、その待ち合わせの場所。
 そんでもって、俺が手を引っ張って居る相手は、俺の一番好きな奴だ。
 躊躇いがちに質問された内容は、彼女が今日と言う日がどう言う日なのかを分かっているから

「いいから、ほらさっさと行くぞ」

 何度も質問されているそれに答えて、俺達は待ち合わせ場所へと急ぐ。

「た、太一君」
「大丈夫だって!急ぐぞ!!」

 の手を掴んだまま走り出せば、から焦ったような声が聞こえてくる。
 それに、答えてから、走るスピードを上げた。

「ああ、来たわね。太一にちゃん!」

 そして、見えてきたのは待ち合わせの場所、お台場のシンボルともなっている某テレビ局。
 木陰になっているその場所には、既に仲間達が集まっていた。
 自分達に手を振っているのは、幼馴染でもある空。
 
「悪い、遅れちまったか?」
「時間ギリギリ。まぁ、突然ちゃんを連れてくるように言ったから、遅れてくると思ってたんだけどね」

 そんな空に、素直に謝罪の言葉を口にすれば、笑いながら返事が返ってくる。
 まぁ、確かに行き成りを連れて来いと言われたのは本当の事だ。  だけど、実は俺もを連れて来るつもりだったので、そう言われる前にの家に向かっていたから問題なかったりする。

「あ、あの、空さん」
「こんにちは、久し振りね、ちゃん」
「あっ、はい、こんにちは、です……あの……」

 一人状況が理解出来ずにいるらしいが、恐る恐る空へと声を掛けるが、それはニッコリ笑顔で挨拶をされて、慌てて挨拶を返す言葉へと切り替わった。
 それでも、戸惑ったように口を開きかけただったが、続ける言葉が見つけられなかったのか、その先が出てこない。

「もう、お兄ちゃんたら、説明せずに連れてきたんでしょう!」

 困惑しているに、妹のヒカリが呆れたように声を掛けてくる。

 確かに、には何の説明もせずにここに連れてきたのは間違いじゃない。
 だけど、どうして今日みんなで集まっているのか、今日がどう言う日なのかは、きちんと説明しているのだから、問題ないだろう。
 しかも、連れ出す前にしっかりと事前に連絡は入れておいたのだから、いったい何の問題があるのかが分からない。

「あ〜っ、先輩お気の毒です」

 どうしてヒカリが呆れているのか理由が分からない中、後輩であり、新選ばれし子供である最年長の京ちゃんが、に声を掛けてくる。
 京ちゃんは、小学校の時に、と同じ委員会だったらして、彼女の事を良く知っていた。
 そして、それは、俺の幼馴染であり、一つ下の後輩でもある光子郎も同じ委員だったらしいのは、最近になって知った事だ。

さん、こんにちはっす!太一先輩に引っ張ってこられたんすか?」

 それに続いて、サッカー部の後輩である大輔までもが、に声を掛けてきた。
 その内容も、京ちゃん同様同情の色を含んでいる。
 って、何でこいつ等皆がみんな、気の毒そうにに声を掛けてくるんだ?

「大輔君もこんにちは、えっと、何で引っ張ってこられたのか、良く分かってないんだけど……」

 声を掛けてきた大輔に返事を返しながら、が困ったような笑みを浮かべる。
 ここに来てまで、まだそんな事を言っているに対して、俺は呆れたようにため息をついた。

「おいおい、もう無関係じゃねぇんだから、ここに居るに決まってるだろう」
「そうですね、先輩ですから、僕達は気にしませんよ。全ての事情を知っててくださってるんですから」

 の言葉に呆れたように言えば、それに続いて光子郎もに声を掛けてくる。
 皆がを受け入れているというのに、当事者であるだけが、今だにそれを理解していないから困る。
 も、もう俺達の仲間だというのに

「いいんじゃねぇのか、お前が参加するの誰も否定してないんだから」

 納得できないと言うような表情をしているに、今度はヤマトが声を掛けてくる。
 それでも、は納得できないような表情で、困ったように俺を見てきた。

「ボクも兄さんの意見に賛成。さんは、もうボク等にとっては仲間ですからね」

 そして、更にタケルがニコニコと笑顔で皆が思っている事を口に出す。
 それに対して、は驚いたような表情を見せた。
 本当に、は全然分かって居なかったのだろう。
 タケルの言葉で、俺達が頷いたのを見て、が、困惑した表情を見せている。

「って、わけだから、諦めて参加決定な」
「……はい…」

 そんなに気付いていながらも、決定事項だと言うように言えば、呆れためたようにコクリと小さく頷いた。

「別段、何かをする訳じゃないのよ。ただね、思い出の場所を皆で見て回るだけなの」

 そう言って説明したのは、空。
 言いながら、空を見上げてしまうのは、今にも自分達のパートナーに会えるかもしれないと、そう思ってしまうから

「太一さん、いいですか?」
「ああ」

 名前を呼ばれて、を気にしながらも光子郎の元へと移動する。
 話は、これからの事だと分かっているから
 毎年恒例となっているから、話す事はそんなにない。
 だけど、だからこそ、毎年同じように願ってしまうのだ、もしかしたら、彼等に会えるんじゃないかと……

 もしも、また自分のパートナーに会えたら、一番にを紹介したい。
 俺が、好きな相手を、パートナーと同じように、大切な相手を…

『勿論、タイチが選んだ相手なんだから、ボクは大歓迎だよ、

 どこか遠くで、聞こえてきたのは、懐かしいパートナーの声。
 その声に、俺は顔を上げた。
 辺りを見回すけれど、当然その姿を見つける事は出来ない。

「太一さん?」

 そんな俺に、光子郎が不思議そうに声を掛けてきた。

「いや、何でもない」
「そうですか?では、そろそろ移動しましょうか」
「そうだな」

 光子郎の質問に、首を振って返し、移動しようと言われた言葉に頷く。
 そして、俺は自分から少し離れた場所に居るへと声を掛けた。

「おーい!にヒカリ!移動するぞ」
「分かった……」

 声を掛ければ、ヒカリが返事を返してきて、隣に居るに声を掛ければ、が頷いているのが見えた。
 直ぐに、ヒカリと一緒にがこちらに向けて歩いてくるのを確認してから、先に建物の中へと移動する。
 この後、ヤマトの親父さんに車を出して貰う事になっているのだ。

 中に入って、何気なくが気になって振り返れば、は建物に入るその前で足を止め空を見上げていた。
 まるで、何かを確認するように見上げられた視線の先には、一体何があるのだろう。


『ボクからも、お礼を言うよ。タイチを好きになってくれて有難う。ボクのことも、好きになってくれるかぁ、?』

そして、また聞こえてきたのは、どこか楽しそうに質問するアグモンの声。

それは、幻聴だったのかもしれないけど、確かにの事を認めてくれているものだった。
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