「久し振りに二人で、居たはずなんだけどなぁ……」
ポツリと呟いたその言葉は、賑やかな雑騒の中に吸い込まれていった。
事の起こりは、ほんの数分前の事。
双子を出産した可愛い後輩に、出産祝いをプレゼントしようとデパートに来たのが始まり。
確かに、プライベートで来た筈だった。
なのに、何を勘違いしたのか、デパートの支配人と言う人に見付かってしまい、ヤマトが無理矢理連れて行かれてしまったのだ。
置いて行かれた太一が慌ててその後を追ったのだが、時既に遅しで、休日のデパートの人ゴミでその姿を見失ってしまった。
何が悲しくって、こんな目に合わなければいけないのか……。
いや、それは全て、勘違いしたこのデパートの支配人が悪い。
一度断ったイベントに、その人物が来るはずがないと言うことが分からないのだろうか?
しかも、プライベートだと分かるように、顔を隠していたというのにだ。
まぁ、一番悪いのは、そんな仕事が合ったのだと言うことも知らずにここに来た自分達かもしれないのだが……。
そればかりは、後の祭りだ。
さぁ、これからプレゼントを選ぶぞと言う時だっただけに、深いため息が止まらない。
「……一人で選んでも、楽しくないぞ」
折角の時間を邪魔されて、悲しくない筈はない。
勿論、ヤマトが悪い訳じゃないのは分かっているんだけど……。
「ば〜か……直ぐに断って戻って来い……」
そんなに簡単な事ではないと分かっていても、そう言わずには居られない。
何だか泣きそうになって、太一は慌てて上を向いた。
こんな事で、泣きたくはない。
「お前なんて無視して、勝手に買って帰ってやる!」
だからこそ、そう言ったのは精一杯の虚勢。
そうでもしなければ、今にも泣いてしまいそうだったから……。
「太一!漸く見つけた!!」
だから、その言葉通り行動に移そうと足を動かした瞬間、突然腕を捕まれて後ろへ引っ張られた。
余りのも突然だった為、太一は状況が分からずに、自分の腕を掴んでいる相手を見る。
「ヤ、ヤマト??」
「お前なぁ、最初の場所から勝手に移動するんじゃない!お蔭で探し回っただろう!」
クーラーの効いているこの中に居るのに、薄らと汗をかいているヤマトに、太一は一瞬返す言葉に詰まった。
それは、自分のセリフだと言いたいのに、その言葉が出来来ない。
「……ヤマト…」
ただ、自分に出来たのはその相手に抱き付くこと。
「た、太一?」
突然の太一の行動に焦ったのは、抱き付かれた本人。
こんな人ごみの多い所で、自分から抱きつくなんて事をしない相手が、こんな風に抱きついてきたのだから、驚くなと言う方が無理な話だろう。
「悪い、心細かったのか?」
だけど、それだけ相手に心配をかけたと言う事が分かって、ヤマトはそっと優しく質問した。
それに、小さくコクリと頷く。
「悪かった。ちゃんと話はついたから、安心しろ。ほら、ミミちゃんに出産祝いプレゼントするんだろう?」
素直に謝罪して、安心させるようにその頭を撫でて優しく質問すれば、また小さくコクリと頷いた。
「んじゃ、早く買って帰ろう。んで、さっさと帰って、家でのんびりしようぜ」
頷いた太一に、促すように言えば、再度頷く。
「いい加減離さないと、注目の的だぞ」
それでも離れない太一に、小さくため息をついて、事実を述べれば、バッと音が聞えそうなほど勢い良く離れてしまった。
それが少し残念でもあるが、流石にこれ以上の注目をされるのは不味い。
「ほ、ほら、早く行くぞ!」
少し顔を赤くして、太一がヤマトを促す。
それは、先ほどまで自分に抱きついていたのを、本気で照れているのが良く分かった。
「了解」
それが分かるからこそ、ヤマトも素直に歩き出す。
目的の場所は、ベビー用品売り場。
可愛い後輩への出産祝い。
そのお蔭で、可愛い妻の姿が見られた事に、少しだけヤマトが喜んでいたのはここだけの話。
そして、その後、勘違いしてご迷惑を掛けたとまた例の支配人がしゃしゃり出てきたのは、それから数分後の事だった。

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