「お兄ちゃん!」
慌てた様子を見せて飛び込んできた自分の妹に、太一は首を傾げた。
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
手には買ってきたのだろう本が一冊。
「タケルくんの書いた本が新人賞に選ばれたの!!」
自分の質問に、ヒカリは持っていた本を差し出して見せる。
そこには、帯びに新人賞受賞と書かれている本。その著者名は、自分の良く知っている相手の名前。
「そっか、良かったじゃねぇかよ、あいつ賞が貰えたらお前にプロポーズするんだって言ってたからな……」
「う、うん……だから、困ってるの……」
差し出された本を手に取って、嬉しそうに言われた兄の言葉に、ヒカリは顔を赤くする。
「って、何で困るんだよ」
だが言われたその言葉に、太一は驚いたように妹を見た。
自分から見ても、間違いなく二人は仲睦まじかったのだ。
ヒカリ自身もタケル以外の相手など考えられないだろう程、誰が見ても熟年された恋人同士だったのだである。
それなのに、漸く希望が叶って結婚と言うその言葉が出てきたら、困ると言う。
どうしてそんな言葉が出てくるのか、分からない。
「だって、私が居なくなったら、お父さんやお母さんが二人だけになっちゃうんだよ……タケルくんと結婚できるのはすっごく嬉しいんだけど、お父さん達の事を考えたら……」
自分の疑問に困ったように言われた言葉は、余りにも現実的なモノだった。
確かに、兄である太一は既に結婚して、石田と言う苗字である。
そして、妹までも結婚してしまうと八神と言う姓を持つ子供は居なくなってしまうのだ。
「……そっか、お前そんな事考えてたんだな……」
自分と妹、二人共が石田の姓を名乗る事になれば、八神を継ぐ者は居なくなってしまう。
それが、妹を困らせている理由だと知って太一は、困ったように小さく息をついた。
「だって、私しか、お父さんやお母さんと一緒に居られないから……」
言っている事は、間違っていない。
勿論、二人共まだまだ元気だけど、この先何があるかなんて誰にも分からない事なのだ。
「……ごめんな、薄情な兄貴で……」
「ううん。お兄ちゃんが望んでいた事だから、お兄ちゃんが幸せで居てくれるんなら、私にとってはそれだけが大事な事なの……でも、私は……」
自分に泣き付いて来た光を抱き締めて、その頭を優しく撫でる。
「俺も、お前が幸せになってくれる事が、一番大事だよ」
「勿論、僕もね」
そして、優しく言われた言葉に続いて新たな声が聞えて、ヒカリは驚いて顔を上げた。
太一は気付いていたらしく、驚く事なくただ優しい笑みを浮かべている。
「ヒカリちゃん、もう知ってると思うけど、ようやく新人賞が貰えたから、君にずっと伝えたかった事を今、ここで言ってもいいかなぁ?」
ゆっくりとした足取りで近付いてくるタケルに、ヒカリの肩が小さく震えた。
抱き締めている太一にも、ヒカリの緊張が伝わってくる。
不安気に揺れるヒカリの瞳に、タケルは優しい微笑を向けた。
「僕を、君と同じ苗字にして欲しいんだ」
そして、言われた言葉に、ヒカリが驚いて太一から離れる。
「タ、タケルくん?」
「僕に、八神の苗字をくれないかなぁ。僕は、ずっと君にそう言いたかったんだ」
信じられないと言うように自分を見つめてくるヒカリを前に、タケルはもう一度しっかりと同じ言葉を繰り返した。
「……お前なぁ、人の目の前で普通プロポーズするか……」
そんな二人を前に、太一は呆れたようにため息をつく。
「しますよ。だって、太一さんの前で、僕は誓いたかったんです。ヒカリちゃんは、絶対に幸せにしますね」
「あ〜っ、まぁ、その点に関しちゃ、信頼してる……で、ヒカリ、お前の返事は?」
呆れたように伝えたそれに、タケルはただニッコリと笑顔を見せて、そしてハッキリと言葉を返した。
そんな弟のような存在に、太一は苦笑を零して、今だに一歩を踏み出せない妹の背中を軽く押す。
「……お願いします……」
そんな兄に背を押されて、そして、ヒカリは深々と頭を下げ

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