「結局、俺の記憶喪失って、何日間だったんだ?」

 疑問を口にする太一に、ヤマトは思わず苦笑を零した。

「俺を忘れてたのを合わせると、2週間くらいだろう」

 楽しそうに笑いながら言われたその言葉に、太一が少しだけ拗ねた様にヤマトを睨み付ける。
 そんな太一の視線を全く気にした様子もなく受け止めて、ヤマトがもう一度笑顔を見せた。

「俺としては、そのまま記憶喪失でも良かったんだけどな……太一と一緒に居られる口実にもなるし……」
「バ、バカ言うなよな!」

 楽しそうに笑いながら言われたその言葉に、太一が真っ赤になって声を荒げる。
 それを笑いながら見詰めて、ヤマトはそっと太一の頬に手を伸ばした。

「まっ、今のままでも、俺は太一と一緒に居られるって事に変わりはないけどな」
「言ってろ、馬鹿……xx」

 触れてきたその手を払い退けてから、太一がそっぽを向いてポツリと呟く。
 それも全て、照れているだけだと分かっているので、ヤマトは笑いを零す。

 あの日、太一が倒れてから目を覚ました時、少しの混乱はあったものの、自分の記憶と言う物を取り戻したのに、ヤマトは少しだけ残念な気持ちを隠せなかった。
 今、太一と一緒に居られるのは、記憶がないからと言う理由の為である。
 そして、その理由がなくなった今、太一は自分の家に帰ってしまうから、残念だと思う気持ちは止められなくって……。

「……何時でも、泊りに来てもいいんだろう?」

 自分の気持ちが顔に表れていたのか、心配そうに呟かれたその言葉に、ハッとして顔を上げる。

「まさか、このまま俺の事、放っておくなんて事しないよなぁ、ヤマト……」

 上げた先にある笑顔に、思わず苦笑を零して、そっとその体を抱き寄せた。

「当たり前だろう……絶対に、離さない……」

 そっと言われたその言葉に、満足そうな笑顔で頷いて返す。

「……取り合えず、この怪我が治るまでは、お前に面倒見てもらうからな!」
「まあ、確かにその姿じゃぁ、帰れないよなぁ……」

 まだ痛々しく巻かれている包帯を指差して言われた事に、ヤマトが思わず同意の言葉を上げた。

「……幸い、まだ誰にも俺の記憶が戻った事気付かれてないんだから、もう少しだけ、一緒に居ようぜ……」
「……お前なぁ…みんな、心配してるんだぞ……」

 すっと自分に抱き着いてくるその体を抱き締めながら、ヤマトが呆れた様に返事をする。

「んじゃ、ヤマトは、俺と一緒に居たくないのかよ!」
「そんな訳ないだろう!俺だって、ずっと太一と一緒に居たいに決まってる!!」
「んじゃ決まりな!」

 自分の言葉に即答で返って来たそれに、満足そうに笑顔を返す。
 そんな太一を前に、ヤマトは諦めた様にため息をついた。

「……本当に、お前には勝てないよなぁ……」

 ポツリと呟けば、心配そうな瞳が自分を見上げてくる。

「……ヒカリ達に心配掛けてるのは、分かってるけど……せめて、この怪我が治るまでだから……我侭で、ごめん…」

 シュンと落ち込んだような言われたその言葉に、ヤマトは苦笑を零す。
 我侭だと言うけれど、自分だって、ずっとこのまま太一と一緒に居る事を望んでいるのだから、それはお互い様だと思うのだ。

「お互い様だよ、太一……俺も、お前と同じだから……」
「ヤマト……」

 優しく微笑めば、少しだけ頬を赤くして見上げてくる瞳とぶつかる。
 そして、そっとその頬にキスを落した。

「……もう少しだけ……このままで……」
「うん…」

 ぎゅっと抱き締めてくれるその腕に安心した様に体から力を抜く。
 何時も感じているその体温だけが、自分を安心させてくれるから……。

 全てを思い出した中でも、この人が、何時でも傍に居てくれた。
 自分を勇気付けてくれたのは、何時だってこの人の存在があったからだと、はっきりと言える。

「ヤマト……有難う…」

 何度お礼を言っても、言い足りないくらいの感謝の気持ち。
 好きと言う気持ちと同じくらい、自分はこの人に感謝しているのだ。
 今、記憶が全て戻ったのも、この人が傍に居てくれたからだと、分かっている。

「……感謝の気持ちは、態度の方が嬉しい……」

 自分の事をからかう様に言われたその言葉を遮って、自分からキスをする。
 自分からする初めてのキス。

「……感謝の気持ち、確かに態度で示したからな!」

 少し赤くなった顔を隠すように、太一がヤマトから視線を逸らす。
 そんな姿を見詰めながら、ヤマトは小さくため息をついた。

「……本当に、お前にだけは、勝てないよなぁ……」
「…ヤマト?」
「惚れた弱み……太一、愛してるから……」

 そっと耳元に囁きかけられたその言葉に、太一の顔がますます赤くなる。

「……//// な、何度も聞いた……」
「……俺は、何度言っても、言い足りないけど……」

 耳元で囁かれるのは、正直言って心臓に悪い。
 この声は、本当に耳に心地良いのだ。
 それを本人も分かっているからこそ、性質が悪いのである。

「……ヤマト…そろそろ、切り上げないと、太一くんが泣き出すぞ……」

 真っ赤になって返答に困っている中、突然の第三者の声に、太一は言葉もなく絶句してしまった。
 今の状態は、自分がヤマトに抱き締められた状態で、更にヤマトの唇は、自分の耳に押し当てられた状態なのである。

「あっ、えっと、あの……」

 慌ててヤマトから離れて、弁解しようとするが、何の言い訳も出てこない。

「……太一、親父にはバレてるから、心配するな……しかも、公認だ……」

 慌てている太一を前に、折角の所を邪魔されたヤマトが、少しだけ不機嫌そうにため息をつく。

「えっ…あの…」
「こんな息子で、申し訳ないね、太一くん……」
「あの…俺……」
「親父、仕事なんだろう!早く行けよ!!」

 状況が分かっていない太一を他所に、ヤマトが不機嫌そのままに、父親を部屋から追い出す。
 それをただ呆然と見詰めていた太一は、何とか状況に付いていこうと、必死に頭を働かせた。

「えっと、あれ…だから……」
「太一?」

 戻って来たヤマトは、必死で考えを纏めようとしている太一に、思わず苦笑を零す。

「……太一…お前、気が付いてなかったのか?」
「気が付いてないって……だから……xx」
「親公認だから、幾らでも一緒に居られるって事だ」

 笑いながら言われたそれに、太一が漸く全ての事を理解する。

「…そ、それでいいのか?」
「いいんだよ、結局は、俺達の気持ちが一番大切なんだから……」

 心配そうに尋ねてくるそれに、ヤマトが笑顔を見せて言葉を返す。
 きっとこの様子だと、自分の母親にもバレていると言う事に気が付いていないのだろうと思うと、思わず苦笑せずにいられない。

「太一、もう暫くは、このまま居よう、な」

 笑いながら言われたその言葉に、思わず笑いを零す。

 考えてもいても始まらないから、素直にその言葉に頷いて返せば、優しく抱き締めてくれる腕がある。
 そして、欲しい言葉をくれるから、今は……今だけは、このままこの腕に抱かれて居たいと正直に思ってしまう。

「俺って、親不孝だよなぁ……」

 笑いながら呟かれたそれに、ヤマトが不思議そうに首を傾げた。

「だって、記憶が戻っても、家に帰らずに、ヤマトとこうしてる方が、嬉しいって思ってるんだから……って、ちゃんと怪我が直ったら、家に戻るけどな……」
「…いいんじゃないのか、それで……余計な心配掛けさせたくないって言うのも、本当の事だろう?」

 当然の様に返してくれるそんなヤマトの言葉に、笑顔を見せる。

「……本当、お前って俺が欲しいって思ってる言葉をくれるよなぁ……」
「一様、努力してるからなぁ……だから、お前の見えない想い事、受け止めてやるよ」

 ウインク付きで言われたその言葉に、想わず苦笑を零す。

「……俺だって、同じだからな……」

 照れた様に返されたその言葉に、ヤマトが優しく微笑んで見せる。

 ゆっくりとした時間の中、それは約束事のように、語られた言葉。
 誰でもなく、たった一人だけに、伝えた想い。

 それが、心の底になる、見えない想い。



  そして、太一が家に帰ったのは、それから完全に怪我が直った3日後の事だった……。

  記憶が戻った太一に、誰もが安堵したのは、言うまでもないことであろう。
  だが、何が原因で記憶が戻ったのかと言う事は、ヤマトだけしか知らない事である。







   漸く終わりました!!
   長い間お付き合いくださって有難うございますね。しかし、最後の話なのに、なんてショボショボな話…xx
   自分の文才の無さを痛感いたしました。<苦笑>

   あっ!って、この隠し小説を見付けてくださって有難うございますね。
   そして、下らない話にお付き合いくださって、本当に有難うございました。
   『見えない想い』は、この話を持ちまして、ラストとさせていただきます。
    
   次からは、全く違う話しを書きますので、宜しければまたお付き合い頂けると嬉しいです。
   一様、考えているのはパラレル小説。TVの話とは一切関係のないお話しになる予定ですので、苦手な方はすみません。
   っても、この話…『見えない想い』も十分パラレルだとは思いますけど……<苦笑>

   ではでは、本当に長い間、読んでくださって有難うございました。
   心から感謝の気持ちを、送りたいと思います。本当に、有難うございます。