「橘さん?」

 フイに名前を呼ばれて、振り返る。

「おう、八神!」

 自分の事を呼んだ相手を見付けて、俺は手を上げて答えた。

「ど、どうしたんですか?!その傷!!」
「大した事ねぇよ……何時もの事だからな」

 俺の顔を見た瞬間、八神が驚いたように質問してくる。
 それもそうだろう、今の俺の顔には殴られた後がくっきりとあるのだから……。

 でも、最近なかっただけで、こんな傷を作るのは初めてじゃない。

「また遣り合ったのかよ」

 苦笑しながら答えた俺に、八神の隣に居たヤマトが呆れたようにため息をつきながら声を掛けてくる。
 正直言えば、ヤマトが居たのに、気付いてなかった……目立つ頭してるのに、な。

「まぁな……」

 俺の傷の理由を知っているヤマトに、俺は苦笑を零しながら頷いて返した。

「遣り合ったって……」

 ヤマトの言葉に、事情を知らない八神が心配そうに問い掛けてくる。
 それに、俺とヤマトは一瞬お互いの顔を見合わせて、ため息をついた。

「相手は、俺の親父だよ」
「えっ?」

 そして、もう一度ため息をついて、八神に真相を話す。
 意外だったのだろう、その相手を聞いて、八神が聞き返すように声を上げた。

「だから、親父。親父は俺がカメラマンになる事を反対してるからな……時々その事でバトルするって訳」
「そう、なんですか?」

 理由を話した俺に、八神がオズオズと質問。

 まぁ、普通は反対するだろう。
 下手すりゃ、危険な事でも平気でやっちまう俺の性格を良く知ってるのだから……。

「……そうなんだよ…」

 親父の気持ちは分かる。
 だけど、俺だって譲れないのだ。
 それは、俺自身が決めた事……。

 簡単な世界じゃない事も分かっている……だけど、

「橘さんなら大丈夫ですよ」

 考えた事を先回りして言われたその言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

「何が大丈夫なんだか……」

 本当はそう言ってもらえて嬉しかったのに、口から出たのは皮肉な言葉。
 きっと誰よりも、八神から言われた言葉は信頼できるだろう。

「まぁ、俺も太一と同じ意見だな。智成なら、大丈夫だって思う」

 本当に、何を根拠にそんな事が言えるのやら……。
 でも、言われた言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

「お前等の言葉聞いてると、悩んでるのがバカらしくなってくるよな」
「どう言う意味だよ!」

 大きく伸びをして、言った俺の言葉にヤマトが噛み付いてくる。

「そう言う意味だ、バーカ……」

 俺らしくなく慰めらてしまった。

 でも、それでも、こいつ等ならいいかと、そう素直に思える。
 俺とヤマトの遣り取りを、楽しそうに聞いている八神のその笑顔を見ていると、そう素直に思えてしまうのだ。

「良かった。何時もの橘さんだな」

 そして、ホッとしたように言われた八神のその言葉に、俺も思わず笑みを浮かべた。

 こうして、自分らしさを持っていられるのは、自分を認めてくれる誰かが居てくれるからだ。
 そして、自分の夢を真っ直ぐに追い求める事が、一番俺らしく居られる事。
 これからも、親父とはバトル事になるだろうけど、諦めるなんて絶対にありえない。
 だって、諦めてしまったら、それは俺じゃないからな。

 だから、これからもただ夢を追い掛けてやる。

 自分の意志を持って、確実な未来の為に……