「八神、ずっと聞きたかったんだけど、いいか?」
「はい、なんですか?」

 ヤマトの家に押しかけて一緒に勉強している中、俺はずっと気になっていた事を質問しようと八神へと声を掛けた。
 それに、ノートから顔を上げた八神が不思議そうに首を傾げる。
 俺が八神に声をかけた事で、ヤマトまで過剰な反応するのは、笑えるけど……。

「お前、何で俺には敬語なんだ?」
「えっ?」

 そんなヤマトを横目に、俺はキッパリと質問。

 ずっと疑問に思っていたのだ。
 ヤマトには普通に話しているのに、何故か俺には敬語。
 ちょっと距離を感じると思うのは俺だけか?

「そう言えば、太一は智成の事を『橘さん』って呼んでたな」

 ヤマトも俺の質問に、不思議そうに八神を見る。
 さん付けな上に敬語って、俺ってそんなに親しみ持てないキャラかなのか。

「ヤマトには普通に話してるよな?なんで俺だけ?」
「べ、別に橘さんだけじゃないような……クラスで呼び捨てにしてるのって、ヤマトだけだし……もしかして、気にしてたんですか?」

 恐る恐ると言った様子で八神が質問してくるのに、俺はニッコリと笑顔。

「まぁ、寂しいなぁとは思ってたな」

 って、ニッコリ笑顔で言う言葉じゃないって分かっているし、こんな言葉が八神に通用しない事だって百も承知だ。

「……橘さん、面白がってますね……」

 だから、ため息付きながら言われた言葉に、俺はもう一度笑顔。

「智成、太一苛めるなよ!」

 そんな俺にヤマトが怒ったように言葉を投げ掛けてくる。

「いや、苛めてねぇよ。俺が苛める相手はヤマトだけだ!」
「って、ヤマトは苛めるんですか?」

 そんなヤマトに俺はキッパリと言葉を返した。
 それに、八神が呆れたようにため息をつく。

 だってなぁ、目の前にこんな面白い奴が居たら、遊ばなきゃだろう!
 いやぁ、八神が転校してくるまで、ヤマトの奴がこんなに面白い奴だって気付けなかったのは残念だよな。

「……橘さん、気持ち流れてきてますよ……」

 うきうきとこれからどうやってヤマトで遊ぶかを考えていた俺に、八神が深いため息を付きながら突っ込みを入れてくる。

「いや、まぁ…ヤマトには内緒な!って、事で八神、何で敬語?」
「……その話、まだ終ってなかったんですか?」

 呆れたように俺を見てくる八神にウインク付きで口止めしてから、俺は再度同じ質問を投げ掛ける。
 それに、八神がもう一度ため息をついた。

「まぁ、気になるから…ヤマトは気にならないか?」
「えっ、まぁ、気になるって言えば気になるかも……」

 そんな八神を前に、俺はヤマトも味方につけるように質問。

「ヤマトまで……深い意味はないんです…でも、やっぱり俺の力の所為で他人に距離を置いちゃう癖が出てるのかも……橘さんとは良く話してるけど、やっぱり緊張するって言うか……」

 言い難そうに言われた言葉に納得。

 確かに八神の力は人によっては恐怖を感じるモノだ。
 それは、否定できない。

「そっか、俺って、八神に距離置かれちかってるのか……ちょっと寂しいかも・……」
「えっ、いや、あの……でも、橘さんとは、クラスの人達よりイッパイ話してるし、信じてるって言うか尊敬してるって言うか……えっとだから……」

 俺の言葉に八神が慌てて言い訳している。

 本当、こう言う所は可愛いと思っちまう。
 ヤマトは、八神のこんな所に惚れてるんだろうなぁ……。

「冗談だ。心配しなくっても、それが癖だって分かってるって!苛めて悪かったな」
「って!やっぱり苛めてるじゃないか!!!」